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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (7/16)全員参加の消耗戦 第8回セレクトセールから
 今年で8回目となる日本競走馬協会「セレクトセール」が、7月11、12の両日、北海道苫小牧市のノーザンホースパークで開催された。派手な話題に乏しかったというのに、終わってみれば売却総額の79億7200万円、売却率の80.1%はともに過去最高。日本の競走馬流通革命の舞台となった市場は、最初の6回の主役を務めたサンデーサイレンスが去った後も、競馬界にすっかり根を下ろしたと言える。一方、人間の側の配役は大きく変わり、それが市場全体の流れも強く規定した。一言で言えば、キャラの立つ主役が後景に退き、新たな登場人物を軸に、全員参加の消耗戦が展開された格好だ。

 世界のどこでも、セリ市場の主役は最高価格馬とその落札者である。今回、その栄に浴した「ダノックス」は、会計ソフト大手「オービック」の野田順弘社長の競走馬管理会社である。2億1000万円で購買された「マストビーラヴドの2005」は、今年の桜花賞、NHKマイルCを制したラインクラフトの異父弟で、父がシンボリクリスエスである。ダノックスはほかに、2日目最高価格の「ローザロバータの2005」(父ヴィンディケーション)を1億9000万円で落札したのを初め6頭を購入。野田氏の夫人のみづき氏も4頭を購入しており、両者で計10頭、購買総額は7億8700万円に上った。新たな市場の主役は昨年も多くの高額馬を購入していたが、今年買った高額馬は、国内第一人者の藤沢和雄調教師の厩舎に入る見通しだ。

 常連組では「トーセン」の島川隆哉氏も活発な買い手だった。こちらは「ファンジカの2005」(父アグネスタキオン)の1億円を初め、高馬に参戦する一方、下は1200万円まで購入。1名義では最多の16頭を買い、購買総額も6億7450万円だった。だが、今回の特徴はむしろ、他の常連の動きにあった。昨年の市場でエアグルーヴの2004(父ダンスインザダーク)に、国内最高額の4億9000万円をつけた関口房朗氏は今回、「来年の上場に向けて多忙」との理由で不参加。また、大口購買者だった大迫忍氏(ゼンノロブロイなど)、西川清氏(マンハッタンカフェなど)の訃報が相次いであった。

 金子真人、近藤利一の両ダービーオーナーも、高額馬の争奪戦ではさほど目立たなかった。近藤氏はアドマイヤジャパンの異父弟(父アグネスタキオン)を1億2500万円で落札したものの、残る11頭はすべて4100万―2000万円の価格帯。また、金子氏も最高額が6600万円(2頭)で、14頭中6頭は3000万―2000万円に集中していた。金子氏は7800万円のキングカメハメハ、7000万円のディープインパクトで日本ダービーを連覇し、「ダービーを勝つには8000万円で10分」という事実を証明済み。2002年以降は、1億円級の争奪戦を横目に、手ごろな価格の馬を数多く買う手法を確立した感がある。低価格ゾーンから7月13日の統一G1、ジャパンダートダービー(大井、2000メートル)を制したカネヒキリ(2000万円)も出現。計9000万円で芝、ダートの3歳王者を手にした眼力には恐れ入るばかりだ。

 金子氏や近藤氏が4000万円以下のゾーンに積極的に参入してきたことは、セリの様相を大きく変えた。1億円級争奪戦の常連のことだから、資金力は強い。こうなると、昨年までこの価格帯の手ごろな馬を買っていた中堅クラスの馬主は厳しい。セリの初日は終了が午後7時と時間がかかった。上場馬が多かったとは言え、1頭1頭の競り合いにも時間を要したのだ。この現象から、資金力に限界のある中堅オーナーの逡巡を見て取るのは、うがち過ぎだろうか? 売却価格帯ごとの頭数を見ると、今回は2000万円台が64頭、4000万―6000万円未満が36頭でいずれも過去最多。また、3000万円台も41頭で、昨年の42頭には及ばなかったが、分厚いゾーンとなった。活発な競り合いの結果、この価格帯の馬は概して、「500万―1000万円は高くついた」という感想を、複数の購買者が漏らしていた。

 種牡馬という観点から見ると、産駒が5頭以上売却された種牡馬17頭(別表)のうち、平均価格が最も高かった(約5011万円)のがアグネスタキオンだったのは意外だった。産駒は今夏のデビュー。まだ1勝しているだけだが、今回はもともと上場された牝馬が5頭だけで、うち2頭が売却されず、取引の成立した21頭中18頭が牡馬だったことで価格が上がった。次いでシンボリクリスエスが約4923万円。売却された19頭中5頭が牝馬だったことを考えると、最高の評価を受けたのはこちらと見ることも出来る。このほか、ブライアンズタイム(8頭売却)が約4193万円と底堅く、希少価値の買われたウォーエンブレム(同)は未売却なしで4050万円と健闘した。今年の3歳馬がブレイクしたスペシャルウィークは、上場が9頭にとどまり、交配相手の質が落ち気味の時期だったこともあって、やや目立たなかった。また、ダンスインザダークやマンハッタンカフェと言った中長距離系種牡馬の産駒に売れ残りも目についた。ダンスインザダークなどは、昨年がむしろバブルだった面もある。今年の平均価格は、傑出馬不在の種牡馬事情を正直に表現している。

 次に、売り手側から今回の市場を見てみると、やはり80%を超えた売却率は特筆ものだろう。社台グループは、絶好調のノーザンファームと白老ファームが未売却わずか1頭ずつで、社台ファームの37頭、ノーザンレーシング16頭、追分ファームの4頭は完売。グループ全体で123頭中121頭が売れて、あわやパーフェクトだった。一方、グループ以外では179頭中121頭が売却され、率は67.6%。「出てきたものは取ろう」という市場全体のムードに後押しされ、かなり健闘したと言える。同じ馬を出すのでも、資金力のある顧客を囲い込んだ市場に出した方が、売れやすいのは当たり前の話で、日高勢でも資質の高い組が、北海道市場からシフトしつつある。

 どこからどう見ても成功した市場だが、主催者側は本気で枠組みを改める姿勢である。日本競走馬協会の吉田照哉副会長はセリ終了後、2006年からの1歳セッション再開を明言した。第1回のセレクトセールには1歳部門があったが、上場47頭のうち売却は18頭。率は38.3%にとどまり、翌年から姿を消していた。1歳部門の復活は今春、米国の専門誌「ブラッドホース」が国内メディアに先駆けて報じる異例の展開だった。再開に備え、社台グループは「かなりの高資質馬を来年用に残している」(吉田照哉氏)。次回は当歳と1歳に1日ずつ充て、その後は開催時期の見直しも図られそうだ。

 買い手にすれば、セリが1年遅ければリスクもその分少ないし、馬の見極めも当歳ほど難しくはない。ただ、こうした購入側のメリットに加えて、売り手の事情も見逃せない。同協会の家畜市場業務規程20条によると、当歳の代金決済は売買成立の翌日から10日以内に購買額の50%、残りを翌年3月末までに支払うとされる。この形態では高額馬ほど「ツバをつけただけ」になる場合が多い。1、2歳の市場なら代金決済は即金に近い。当歳で高馬を扱う限り、焦げ付きのリスクはついて回る。また、それ以前に売り手側が半分の権利を持つ含みで落札される馬も少なくない。購買されながら、デビュー時に市場取引馬でなくなった馬は、大半がこの図式。「50%共有」のケースが最も多いのは、ほかならぬ社台グループである。

 セレクトセールの1歳部門復活は、競走馬流通革命の第二幕を開くだろう。毎年、北海道市場はセレクトセールの1週後に、当歳、1歳の「セレクションセール」を開催している。当歳はセレクトセールの上場選定で漏れた組が主力だが、1歳部門は「世代で最高レベルの馬が上場される」という建前で来ていた。だが、社台グループの有力馬が投入される1歳市場の創設は、北海道市場を間違いなく直撃する。日高の多くの生産者は従来、「市場振興」のかけ声とは裏腹に、牧場の1番馬を相対で売り、市場の足を引っ張った。来年のセレクトセール改革は、そのツケの清算を一気に迫る。北海道市場、ひいては日高軽種馬農協の存在意義が問われる日は近い。



◇セレクトセール種牡馬別取引成績 平均価格
アグネスタキオン232191.3 50,119,048
アドマイヤベガ131292.3 35,625,000
ウォーエンブレム88100 40,500,000
クロフネ1313100 27,653,846
サクラバクシンオー99100 26,888,889
ジャングルポケット9888.9 31,937,500
シンボリクリスエス231982.6 49,236,842
スペシャルウィーク9777.8 28,000,000
タイキシャトル11545.5 27,400,000
タニノギムレット9777.8 22,928,571
ダンスインザダーク201470 30,571,429
ファルブラヴ161275 25,625,000
フジキセキ1111100 22,272,727
ブライアンズタイム9888.9 41,937,500
フレンチデピュティ99100 27,055,556
マンハッタンカフェ191368.4 25,807,692
ワイルドラッシュ10660 19,750,000
※A=上場数、B=売却数、C=売却率(%)



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