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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (4/19)活躍する高齢馬の影で
 「日本のサラブレッドは年々弱くなっている」――。大橋巨泉氏は1977年12月に上梓された「巨泉競馬界を斬る」(日刊スポーツ出版社)で、そう述べている。巨泉氏が根拠に挙げたのは、75年夏のローカル重賞4戦で、そろって7歳(現在の6歳)馬が連対したことだった。69年産といえば、ロングエース、ランドプリンス、タイテエムの3強を始め多士済々の世代だが、彼らには歯が立たなかった同期生が、1歳下のハイセイコー、タケホープ世代やその下を抑え込んでいた状況に憂慮を示したのである。サラブレッドは絶えざる血統改良を重ねられており、時代を追うごとに強くなってしかるべき――。巨泉氏の憂慮の背後にはこうした考え方がある。氏が今春の古馬重賞を見たらどう思うだろうと、つい考えてしまった。

 2月に入ってから、JRAの古馬重賞は6歳以上の高齢馬が猛烈な勢いで勝ち星を伸ばしている。潮目が変わったのは2月6日。それまで、6歳馬は重賞で1勝もしていなかったのだが、小倉大賞典でメイショウカイドウが勝つと、15分後のシルクロードSをプレシャスカフェが58キロのハンディを克服して押し切った。その後、京都記念(ナリタセンチュリー)、中山記念(バランスオブゲーム)、阪急杯(キーンランドスワン)、中京記念(メガスターダム)と来て、高松宮記念はアドマイヤマックス以下、上位3着までを独占。同日のマーチSもクーリンガーが勝つと言った具合である。6歳馬に触発されたように、日経賞では何と8歳のユキノサンロイヤルが13度目の重賞挑戦でG2制覇。大阪杯では2度の屈けん炎を克服した7歳のサンライズペガサスが、3年ぶりに制覇の快挙である。

 本稿は4月16日から17日にかけて書かれたものだが、16日のマイラーズCは関東から遠征した馬が珍しく1―3着を独占。しかも、ローエングリン以下3頭はまたまた6歳勢。今年に入ってからの古馬平地重賞の勝利数は、全25戦で4歳8勝、5歳5勝に対し、6歳は10勝でトップ。7、8歳が1勝ずつとなった。しかも、健闘しているかに見える4歳勢は、勝てる領域が完全に限定されている。つまり、芝の1600メートルとダート、牝馬限定という3つのカテゴリーだけで稼いでいるのだ。8勝中3勝は1―2月にメイショウボーラーがダートであげた星。マイル路線の勝ちはG3のみで、ハットトリックが2勝とダイワメジャー。牝馬限定戦で4歳が強いのは当然で、今日でも牝馬を早めに繁殖入りさせる考え方は根強く、現役寿命が牡馬よりも短いからである。しかも、マイラーズCではハットトリックやカンパニー(中山記念2着)が、6歳勢にひねられた。

 それにしても、現6歳世代と言えば、ダービーはタニノギムレット、シンボリクリスエスで決まった。タニノギムレットはダービーを最後に引退したが、シンボリクリスエスは4歳の暮れまでに天皇賞・秋と有馬記念を2回ずつ優勝。世代を代表する存在となった。今日残る大物はG13勝のヒシミラクルと、ダートのアドマイヤドン辺りだが、この勢いだと新たなG1勝ち馬が出ても不思議ない。現在の7歳勢(=98年産組)と言えばアグネスタキオン、ジャングルポケット、クロフネ、マンハッタンカフェがひしめいていた。この世代の実力馬が復調すれば、活躍しても驚くには当たるまい。筆者の独断で言えば、99年組は98年組との比較ではやや小粒に見えたが、そんな世代が6歳になって年下の馬に立ちはだかっている。

 もう少しさかのぼって、各世代間の力関係を測る参考として、95年産組以降の3―5歳時のG1での成績を別表に示した。これを見ると、95年組が勝利数、連対数とも圧倒的なのがわかる。エルコンドルパサー、グラスワンダー、スペシャルウィークの「3強」に、マイネルラヴ、エアジハードも脇を固めた文字通りの最強世代だった。1歳下の96年組は、テイエムオペラオー、メイショウドトウ、ナリタトップロードが息長く活躍したが、95年組が退場するまでは頭を抑えられたままだった。97年組は明らかに弱かった。特に問題だったのは内国産のふがいなさで、この世代の古馬G1計8勝は、すべて外国産馬があげた。アグネスデジタル、イーグルカフェ、ゼンノエルシドと、今なお現役のタップダンスシチーで、香港で活躍したエイシンプレストンを含め、主力級はすべて外国産だった。98年組は前記の通り強力だったが、主力の退場が早すぎて実力が数字に反映しなかった面がある。対照的に99年組は、今も多彩な顔ぶれが現役を続行しており、層の厚さで年下の世代に負けていない。

 ここまでの流れを見ると、何年かに一度は弱い世代が出るが、次の年は盛り返すパターンで、少なくともジリ貧傾向には見えなかった。しかも、間欠的に海外で活躍する馬も現れていて、長期的なレベルダウンを懸念するどころか、「やっと世界に通用するようになった」という受け止め方が一般的だった。だが、どうも2000年産組以降は、恐れていたジリ貧傾向が始まったように思える。現5歳の2000年組の場合、3歳時に古馬G1で年長馬を破ったのがエリザベス女王杯のアドマイヤグルーヴのみ。4歳秋を迎えてゼンノロブロイが本格化し、秋の中長距離G1を3連勝して面目を保ったが、アドマイヤグルーヴのエリザベス女王杯連覇を含めて、G14勝止まり。G1で戦える駒が極めて少ない。この世代の主力は、クラシックで1度以上連対した5頭だが、すでにネオユニヴァース、サクラプレジデントは引退。ザッツザプレンティ、リンカーンも勢いが感じられず、今年も牡牝の二枚看板が頼りの状況は続きそうだ。

 現4歳(2001年組)に至っては、3歳時の昨年、古馬G1を1つも勝てなかった。5年ぶりの事態だが、96年組は1歳上が強すぎたという事情があり、弱い部類の2000年組に勝てない2001年組は言い訳がきかない。ダービー終了数時間後、「キングカメハメハ以外は弱い世代では」と筆者に見通しを語った人がいるが、今更ながら慧眼に感心する。2000年、2001年組に共通する特徴を挙げると、有力な外国産馬が不在で、サンデーの子と孫が主力を占めていることである。2000年組で名前の出た6頭はすべてサンデーかダンスインザダーク産駒。01年組も、キングカメハメハ(父キングマンボ)とコスモバルクというアウトサイダーを除けば、傾向は似ている。ダービーで両馬に挟まれた2―7着馬は、すべて父サンデーだった。

 外国産オンリーと言って良い97年組以外でも、各世代には代表的なマル外がいた。95年は宝庫だったし、96年はメイショウドトウ、98年はクロフネ、99年はシンボリクリスエス…。これを見ると、外国産馬を買えなくなった日本の競馬産業には、レベルダウンの影が忍び寄っているのではないか。ここ2年ほどは海外遠征馬も目立った成果をあげていない。2001年のG13勝で金城湯池になるかと思われた香港国際デーも、その後は苦戦続き。日本馬へのマークが厳しくなったにしても、胸を張って「世界と戦える」とは言えない状況に思える。近年、競馬界全体で遠征熱が冷めた印象があるが、普段に実力を検証するためにも、他流試合の意味は消えていない。

 巨泉氏が懸念を表明した当時は、競走馬の現役寿命も短く、6歳で現役を続ける馬は少なかった。だが、15日現在のオープン馬の年齢分布を見ると、4歳87頭、5歳61頭に対し、6歳は実に90頭で最大勢力である。調教技術の進歩や厩舎事情の変化で、休み休み馬を使い、現役寿命を延ばす傾向は強まった。馬主は不況で稼げる馬を簡単に手放さないし、屈けん炎や喘鳴症のような厄介な病気の馬も立ち直る時代である。高齢馬の活躍は、直ちに憂慮すべき現象とは言えない。だが、現在のジリ貧傾向が今年も続くなら、話は別である。少なくとも、クラシックシーズンが来るたび、「史上最高のレベル」などとはやし立てるのは愚かなことだ。17日の皐月賞は、ディープインパクトが大方の期待通り、派手な勝ち方でスター候補に名乗りを挙げた。無事で「本物」に育ってくれることを祈るや切だが、周りが弱い可能性だってある。改めて言うまでもないが、大スターの称号は、年長世代をうち負かした後でも決して遅くない。

世代別G1成績
 出走(1)(2)(3)
1995年産11515 ※12
96年産14211 1311
97年産128 ※6
98年産114※10 12
99年産14614 ※13
2000年産86
01年産29

※99年産までは3―5歳時に限定。6歳以降、96年産は(2、3、4)、97年産は(3、1、3)、98年産は(3、0、1)のG1入着がある(カッコ内は1、2、3着の件数)。

※外国調教馬の入着は95年産が3着1件、97年産が2着1件、98年産が1着2件。99年産は3着1件。



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