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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (2/21)免許制度のパラダイム転換
 2005年度のJRA新規調教師・騎手免許試験合格者が2月17日、発表された。今回は調教師が久々に8人の大量合格となった一方、騎手では岐阜・笠松の柴山雄一(27)が、前年の赤木高太郎(35=元兵庫)に続いて、学科試験からの挑戦で合格した。また、スピード違反で検挙され、1999年に騎手免許を返上した西田雄一郎(30)も合格、現役復帰が決まった。通常の競馬学校騎手課程卒業者は6人だが、2人は留年経験がある。騎手課程在籍中の選別を強化し、留年や途中退出も辞さない近年の競馬学校の方針を反映している。

 調教師試験合格者の内訳は美浦5人、栗東3人。美浦は一昨年が合格ゼロで昨年も現役最年少の奥平雅士調教師(32)1人だったため、今回はある程度の増加が予想されていた。今年で定年の70歳を迎える調教師が東西に9人という事情もある。話題の的は東大文学部卒の小笠倫弘調教助手(33=美浦・嶋田潤きゅう舎)。馬術部出身で、大学卒業後は美浦に近い栗山牧場に勤め、97年10月に調教きゅう務員、翌年に調教助手となった。90年代初頭から半ばは、大学生を中心に若年層の競馬ファンが最も厚く分布していた。競馬業界に進んだ人も多く、競馬学校きゅう務員課程入学者の高学歴化も進んだ。この世代が30代半ばを迎え、調教師第一号が出たのである。

 超難関と言われる調教師免許試験だが、小笠助手は昨年度も一次(筆記)はパスしていた。一方、美浦の加藤和宏騎手(48)、栗東の松永昌博調教助手(51)が、騎手や騎手出身者としては4年ぶりに、筆記試験から合格(一昨年の河内洋調教師は“1000勝特典”を適用)。松永調教助手は、栗東の騎手出身者としては、中竹和也調教師(40)以来、7年ぶりに筆記から挑んでの合格だ。今回は申請118人に対し合格8人で、競争率(1000勝組は除外)は14.8倍。ここ10年では2番目に低く、志望者にはチャンスだったが、小笠調教助手を除く7人の合格者の受験回数は5―10回。やはり狭き門だ。

 調教師や騎手の選別に、学科試験がかくも重視されるのは、世界の主要競馬国でも日本だけだろう。今回は騎手試験に地方から16人が受験したが、菊花賞ジョッキーの岩田康誠(30、兵庫)より柴山が先んじ、岩田の移籍までは最低でも1年。与えられた条件の下で最大限の努力をした赤木や柴山は、高く評価される。しかし、JRAがこの状況をどう考えるかは別問題である。百歩譲って、調教師希望者に学科試験を課するのはまだ多少わかる。だが、「現役騎手にペーパーテストをさせ、成績優秀者に免許を出している」と聞けば、海外の競馬関係者は日本を「不思議の国」と見るだろう。

 このような選別のあり方は妥当だろうか? 調教師試験の場合、選別の厳しさでは、数ある資格試験の中でも国内有数である。問題は狭き門である理由だ。資質を徹底的に見極めると言えば聞こえはいいが、現実は美浦、栗東の物理的な限界の下で、事実上の定員制を採ってきた結果に過ぎない。定年勇退者が少ない年には、例年なら合格する水準でも待たされる場合がある。評価が厳正でも、採用枠の設定が定年者の数に規定されるのでは、「免許」とは呼べない。

 昨年のJRAの進上金対象となる賞金・手当の総額を、貸与馬房数(4264)で割ると1馬房当たり約1932万円。JRAの調教師免許とは、この巨大利権への排他的アクセス権である。しかも、受験者と評価する側(JRAの審判、免許部門)は、美浦や栗東で平素から至近距離にいる。こうなると、調教師予備軍とJRAの間には、試験を媒介に支配・被支配の関係性がつくられる。別に、主催者ときゅう舎が反目し合う必要もないが、「支配・被支配」の関係性が維持される限り、きゅう舎セクターは自立の方向には動かない。JRAにとって、長期的にベターかどうかは、大いに問題である。

 折しも、04年度限りで高崎、宇都宮の2場が廃止となる。免許が紙くず同然となる騎手や調教師も数多い。現在の硬直した免許制度に風穴を開ける意味で、以下のような制度を筆者は考えた。

 廃止された競馬場に在籍していた騎手、調教師で、地方他場に移籍しない希望者を対象に、JRAが一定期間の再教育(3―6カ月を想定)をした上で、免許を発給するのである。調教師の場合、この免許に馬房は付随していない。ただ、美浦や栗東の外に馬房を確保し、JRAの馬主登録のある人との間で、正当に預託契約が成立している馬については、出走前の一定期間、JRA施設の使用を認めるのである。騎手の場合はトレセンや競馬場の通行と調教騎乗を認める。つまり、“営業”の権利を与えるのだ。そこから先は無論、自力更生。技量がなければ生活の保障はない。

 これなら、相当の自信がある人以外は、挑戦して来ないだろう。意欲のある人にチャンスを与えるという免許制度、ひいては競馬本来のあり方にも合致する。さらに言えば、地方競馬廃止のフォローアップの名目で、JRAも事実上の外きゅう制へ一歩を踏み出すことができる利点もある。

 最大のネックは、存続競馬場の騎手や調教師の不公平感だろう。現状、JRA移籍の道は、騎手なら「直近5年間に20勝×2回」の“アンカツルール”か、学科試験合格以外にない。昨年、「20勝×2回」をクリアした岩田と吉田稔(愛知)の後は、適用者が出るまでに相当な時間を要しそうだ。今年の活躍が目立つ内田博幸(34、大井)が、順調に勝ち進んでも移籍は08年。調教師に至っては、地方他場への移籍者すら数えるほど。廃止場に籍を置くと、移籍の可能性が広がるのは問題かも知れない。しかし、免許といっても、従来の生活保障的な性格はなく、アンフェアとは言えないだろう。

 実はこの案をJRAの担当部署外の関係者にぶつけてみた。否定的な答えが返ってきたが、留保もついていた。「考え方は悪くないと思うが、JRAは今もきゅう務員に退職金やボーナス(の一部)を払っている。現実との落差が大きすぎる」。「支配・被支配」の関係の裏には依存がある。この図式は今日のJRAにとっては重荷だが、きゅう舎人の自立を進める“出口”が見つからないのだ。

 「生活が保障されない免許」を設定することは、日本の競馬の免許制度、ひいては主催者ときゅう舎人の関係性のパラダイムを転換させる。主催者はただ、フェアな舞台を設定するだけ。ペーパーテストなど、やる必要もない。あとは技量のある者が生き残り、足りない人が退出する。その代わり、騎手や調教師も主催者を選ぶ。魅力のない主催者は捨てられる。安藤勝己騎手(44)が笠松を後にした03年3月、主催者が選抜・淘汰される時代の幕が開いた。筆者は当時、ダブル免許の容認を主張した。騎手や調教師らが自立し、主催者と対等の関係に入る一助と考えたからである。笠松の主催者や地方競馬全国協会(NAR)の敗因は、「スター騎手を何とか確保したい」という以上の覚悟を欠いたことだ。だが、問題をしのいだ形のJRAも、きゅう舎人との新たな関係性を立ち上げることはできず、騎手の領域のみでなし崩しに参入を認めている状況だ。

 「自立したきゅう舎人と主催者」という関係性は、地方競馬にとっては恐怖である。JRAが壁を撤廃した瞬間、多くの地方主催者は有能な調教師、騎手に逃げられ、抜け殻同然となろう。JRAは従来、地方競馬の権益確保のため、年末年始や祝日の開催を限定していたが、昨年は9―10月に月曜の祝日を使った3日間開催(10月は台風による代替開催)で、売り上げを伸ばした。地方競馬は日程面でも人材面でも、JRAの“自制”で生き永らえているのだ。

 実際には、馬やきゅう舎のモビリティは低く、壁を取り除いたところで、調教師までが一気に流動化するとは考えにくい。JRA騎手の海外長期流失も、幸か不幸か、武豊と蛯名正義以降は途絶えている。現状では、日本のきゅう舎人の最終目標は「JRAで活躍すること」に落ち着いている。だが、JRAが旧来の護送船団体質を脱し切れないままでは、高コストと人材劣化のツケが回ってくる。免許制度を切り口に選別の手法を改め、主催者ときゅう舎人の関係性を見直すという課題を、いつまでも放置することは許されない。



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