NIKKEIデイリースポーツ サラブnet HorseRacing Info サラブnet
ホーム 重賞レース情報 重賞レース結果 最新競馬ニュース 競馬読み物
■ 競馬読み物
  ■藤沢和雄の「伯楽一顧」
  [藤沢和雄・中央競馬調教師]

  第10回 馬の頑張りに声援を

 北海道の小牧場で育った私が、競馬場に通うようになったのは1977年。JRAの調教助手になってからのことだ。それまで4年間は、英国のきゅう舎で働き、英国の競馬場の雰囲気にもなじんでいたから、最初はカルチャーショックを受けた。「何と騒々しい競馬場だろう。競馬を何と心得ているのか」と。

 スタンド前にゲートが置かれ、馬が待機している場合でさえ、観客は大声を出し、紙切れを振り回す。ゴルフで言えば、最終日の最終組が18番ホールのパットを迎えたのに、ギャラリーが騒いでいるようなものか。

 世界を見渡すと、国民性を反映しているのか、米国の競馬場はにぎやかだ。欧州でも馬群がゴールに近付くと歓声がわくのは同じだが、それ以外は静かなものだ。身近な生活の場に馬がいるせいか、「何をしたら嫌がるか」を熟知している。

 だが、日本で長く競馬の現場に身を置くうち、「こんな競馬の楽しみ方もあるのかな」と思うようになった。多くのファンが集まってくれるおかげで、競馬産業にはお金が落ちる。レースとレースの間隔が長く、パドックの周回数も多いのは、馬券を買う人の方を向いた演出だ。そのため馬と扱う人の側は少し我慢を、という図式である。そう思って見ると、日本には競馬場の騒がしい雰囲気の中でも冷静でいられる馬が多い気もする。国際レースなどでは外国馬より有利だろう。

 ファンの盛り上がりという点では26日の有馬記念は、1年を通して最高の舞台だ。とにかく多くのG1勝ち馬が集まる。厳しい戦いをくぐり抜け、なお余力を残している馬たちだから、タフでないはずがない。そんなレースにファン投票1位の馬を2年続けて送り出すことは光栄で「何とかうまくいってくれれば……」と毎年思う。

 今年のゼンノロブロイは、ここ2戦は素晴らしいレースをしてくれた。その後も順調に過ごしているが、一方でそろそろ疲労が気になる時期でもある。勝てば勝ったで不安になる。期待に応えるのは容易ではない。

 日本のファンは実に多彩なやり方で競馬を楽しんでいると思う。数字やデータを駆使する人。馬の姿が好きな人。当日は自宅のテレビの前で、ひとり大声を出す人もきっと多いに違いない。

 馬の近くにいる1人として、見てほしいと思うのは、馬たちの懸命な姿である。ゴール前の1番つらい瞬間、鼻息も荒く、目を見開きながら最後の頑張りを見せる。そういう姿はたくましく迫力がある。現場で仕事をするということは、そんな姿を見て感動できる場所にいるということである。力及ばず敗れた馬にも、温かい視線を送ってほしい。


 藤沢 和雄(ふじさわ・かずお)
 1951年9月、北海道生まれ。52歳。88年3月開業。93年に初の全国最多勝。95年から9年連続全国最多勝を継続中。98年にタイキシャトルで仏GT制覇。シンボリクリスエスは一昨年から2年連続で年度代表馬に選出された。

[2004年12月21日/日本経済新聞 朝刊]



 
■コラム一覧
■藤沢和雄の「伯楽一顧」
■北海道牧場紀行
■初心者入門

  ■コラム一覧
   第1回 馬に個性、難しい調教
第2回 馬を育てる騎手
第3回 発祥の地の光と影
第4回 クラシックに向けて
第5回 勝敗、施設次第なのか
第6回 ポストサンデー
第7回 世界と戦うために
第8回 従業員と向き合う
第9回 敗戦をどう生かすか
第10回 馬の頑張りに声援を
   


著作権は日本経済新聞社またはその情報提供者、およびデイリースポーツ社に帰属します。
Copyright 2006 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.
Copyright 2006 Daily Sports, Inc., all rights reserved.