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  ■藤沢和雄の「伯楽一顧」
  [藤沢和雄・中央競馬調教師]

  第9回 敗戦をどう生かすか

 「競走に勝利を得る意志がないのに馬を出走させてはならない」

 JRAの競馬施行規程72条にそうある。「出す以上は勝つ気で」と言うことだが、現実はそうもいかない。いかに優れた調教師も、全部の出走馬で勝つのは不可能だ。4回に1回勝てば「名伯楽」と呼ばれるだろう。私のきゅう舎の今年の勝率は2割4厘。5回に1回をやっと超える程度である。

 全部勝とうとして、毎日、目いっぱいの調教をしたら、馬は持たない。私は「10回中8回は負ける」ことを前提にしているが、常に全力投球では8回が9回になる。人間が必要以上に追い込まれて使った馬は、ダメになる例が多い。

 一方で、負けを恐れて走らせない訳にもいかない。馬はきゅう舎に置いておくだけで費用がかかる。走らせて少しでも賞金や手当を稼ぐことも我々の責務。能力的に足りなくても、仕上がっていたら使うしかない。我々が常に突きつけられている課題は、「敗戦をどう生かすか」である。

 同じ負けでも、どこかで2回勝つための布石になれば良いが、競馬に不可解な負けはつきもの。好位置で折り合い、何の不利もなかったのに、直線で伸びないといった場面は日常茶飯事だ。後々に尾を引く、嫌な負け方もしばしば経験する。

 最近では、秋華賞で人気を裏切って4着に敗れたダンスインザムードがそうだった。パドックから激しくいれ込んだ姿を見て、私は「こんなに調教されていない馬をG1に出してしまった」と、少し感情的になった。

 普通なら休ませる局面だが、今回ばかりは「きちんと馬をしつけなければ、悪い休みになる」と思い、あえて中一週で天皇賞・秋に出した。その間、美浦のプールに馬を入れた。普通に立てない場所だと、馬は不安に駆られて従順になるらしい。天皇賞では落ち着きを取り戻し、2着に入ったが、今は反動が出ないかを心配している。

 負けが込む時期は毎年のようにやって来る。自分のさい配、騎手の乗り方、従業員の仕事ぶり、すべてがダメに思えて落ち込む。そんな折は、レースの選択、従業員への意思の伝え方など、一つ一つをつぶすように、問題点を洗い直すことにしている。

 競馬界の外でも、常勝チームを率いた人は憶病なタイプが多いのではないか。「いつ負けるか」と常に不安を抱えているようでなければ、勝ち続けることは難しい。そう思えてならない。

 8回負けるのが普通でも、負けてヘラヘラしているのは論外だ。高い目標を立て、負けて悔しがるのでなくては、今の数字を維持することさえ難しい。私の目標は「勝率3割」。相手が馬という不確実な存在でも、頑張れば確率は上がるはず、という思いで日々の仕事に取り組んでいる。


 藤沢 和雄(ふじさわ・かずお)
 1951年9月、北海道生まれ。52歳。88年3月開業。93年に初の全国最多勝。95年から9年連続全国最多勝を継続中。98年にタイキシャトルで仏GT制覇。シンボリクリスエスは一昨年から2年連続で年度代表馬に選出された。

[2004年11月16日/日本経済新聞 朝刊]



 
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■藤沢和雄の「伯楽一顧」
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   第1回 馬に個性、難しい調教
第2回 馬を育てる騎手
第3回 発祥の地の光と影
第4回 クラシックに向けて
第5回 勝敗、施設次第なのか
第6回 ポストサンデー
第7回 世界と戦うために
第8回 従業員と向き合う
第9回 敗戦をどう生かすか
第10回 馬の頑張りに声援を
   


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