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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/15)リストラ不可避なダートグレード競走
 レースを開催して馬券を発売し、収入を賞金や手当に充てる。日本の競馬事業では、このサイクルが原則として1つの主体に内部化されている。開催組織は施行や発売のためのマンパワーとインフラを自前で維持するだけでなく、馬や騎手、きゅう舎関係者などの競走資源も、免許と内きゅう制度で事実上、囲い込んでいる。だが、1995年に始まる一連の中央・地方交流拡大を契機に、この原則は大きく修正された。端的に言えば、JRAが地方にカネを渡し、馬と騎手を貸すことが可能になった。具体的なメニューは、(1)ダートグレード(2)条件交流(3)JRA認定競走――の3つである。うち、認定競走は地方の2歳戦に賞金を補てんするもので、カネを渡すだけ。残る2つはカネとセットで馬と騎手を“貸し”、地方競馬の主催者に収益をあげてもらおうという考えで始まった。97年には「ダート競走格付け委員会」による格付けが始まり、JRAのダート重賞も含めた「ダートグレード競走」の枠組みが出来上がった。「交流元年」から10年が経過しようとしているが、ダートグレード競走は所期の目標を達成したか? 今回は多角的に検証してみたい。

◇1 ダートグレード競走売り上げ (金額は円。2004年は残り9競走)
  合計売上 平均売上
1995 3190987200 354554133
 96 19 7125938600 375049400
 97 29 9806423500 338152534
 98 35 10737654700 306790134
 99 38 14326051800 377001363
2000 40 13313447600 332836190
 01 46 16528136400 359307313
 02 44 15312389100 348008843
 03 45 15451750800 343372240
 04 34 10680209300 314123803

 まず、検証の対象となるレースである。別表の通り年々増え続けたが、今世紀に入って地方競馬のドミノ的な事業撤退が始まるとともに、数が微減し始め、2001年の46競走が今年は43競走に。宇都宮(とちぎマロニエC)、高崎(群馬記念)が廃止予定のため、来年には41となる見通しだ(地方競馬は行政の会計年度に準拠して日程を組んでいるが、本稿の表記は暦年とする)。既に姿を消したレースは新潟の朱鷺大賞典、上山のさくらんぼ記念で、主催者が存続している北海道・道営もグランシャリオCを今年から廃止し、賞金を出走手当に充てる措置を取った。その結果、地方施行分の内訳はG1が9、G2が11、G3が23。JRAはG1が2、G2が1、G3が10で、年間56のグレード競走が行われている。一方、JRAの芝のグレード競走はG1が19、G2が32、G3が54で計105競走。後述する通り、地方の馬資源の乏しさを考えると、ダートの過剰感は否定できない。

 特にG1は、帝王賞(3歳はジャパンダートダービー)を起点に見立てると、南部杯(ダービーグランプリ)→JBCクラシック→ジャパンCダート→東京大賞典→川崎記念→フェブラリーSと組まれている。秋以降は5カ月ほどの間に6つのG1が続けざまに組まれている。筆者は3年半ほど前も当コラムで「多すぎる」と書いたが、ここに来て新たな動きがある。格付け委員会がレースレートの低さを理由に、川崎記念のG2降格を検討し始めたのである。同委員会ではG1の基準を110としているが、今年の川崎記念は106.25止まり。他の主なG1は、フェブラリーSが112.75、帝王賞110、南部杯114、JBCクラシック111で、確かに際立って低い。

 レースレートは上位4頭のレーティングの平均値である。低さ以上に問題になるのは、どの馬がレートをつくっているかである。古馬混合のダートG1で今年、連対した地方馬は川崎記念のエスプリシーズとJBCクラシック2着のアジュディミツオーだけ(ともに113)。他にミツアキタービンのフェブラリーS4着(111)があり、レートに“貢献”したのは6競走(24頭)で3頭に過ぎない。しかも、エスプリシーズとミツアキタービンは休養が長期化している。今に始まったことではないが、JRAが馬を貸さなければ、レースの格を保てない状態は、ここに来てますます深まっている。

◇2 ダート重賞競走協力金の流れ
JRA地 方※
2000(支出)1324300013243000 (1)19.9%
  (獲得)1549430010991700 (2)41.5%
 01(支出)1433950017061500 (1)19.0%
  (獲得)1943650011964500 (2)38.1%
 02(支出)1374450015787500 (1)19.3%
  (獲得)203940009138000 (2)30.9%
 03(支出)1405475016806250 (1)19.5%
  (獲得)21829000 8312000 (2)27.6%
※単位100円。(1)は売上に対する
本賞金の比率。(2)は地方馬の獲
得した本賞金比率

 次にカネの流れを見ていく。ダートグレード競走の賞金は、原則としてJRAと地方側が折半している。JBCが創設された2001年からは、一定額を超える部分は地方側の負担となり、JRAの支出額は50%をやや下回っている。中央、地方の支出額は別表の通りだが、注目していただきたいのは過去4年の(1)の数字である。売上に対する賞金・手当の比率(賞典費比率)は、地方競馬の経営状況を示す重要な指標で、廃止が決まった宇都宮では一時、25%を超える異常事態となっていた。25%の賞典費比率とは、的中者に払い戻した残りの全額が賞典費に費やされていることを意味する。現在では削減が進んだが、それでも12%前後の主催者が多く、大半が赤字経営である。19%前後というダート重賞の数字は、商品として全く機能していないことを示す。念のために言えば、表の額は本賞金のみだ。諸手当を含めれば、確実に20%を超えている。個々のレースを見ると、今年の34競走中、1億円未満が道営の2歳2競走。1億円台は9、2億円台は14という分布となっており、1億円台は道営、金沢、名古屋が2競走ずつとクラスターC(盛岡)、オグリキャップ記念(笠松)、サマーチャンピオン(佐賀)。古馬のG3は1着賞金3000万円が基準で、本賞金(5着まで)は5100万円と言う例が多い。2億400万円で賞金比率25%だから、この辺は確実に赤字だろう。JRAから協力金というカネを引き出してなお、多くの競走が赤字を出す状況では、レースの存在意義を問わざるを得ない。

 こうした状況を生んだ最大の原因は、主催者の姿勢である。良い商品(レース)をいかに提供するかという問題意識を欠いたまま、協力金という“真水”欲しさに飛びついたのが実態ではないか。小規模場はコースの制約(1周1200メートルが標準)もある。各場の言い値でグレードを認めれば、1400メートル前後のレースが増え、距離面のバランスも悪くなる。大局的見地から質の低下に歯止めをかけるのが、格付け委員会の役割だったが、同委員会は学識経験者を含めて地方寄りの委員が多い。ゲートキーパーとしては十分に機能せず、現実離れした「競走体系」をつくって自己満足していた嫌いがある。

 上に挙げたデータは、地方側の甘えの構造を示すものだが、最近になって地方競馬全国協会(NAR)側は、驚くような要請をし始めている。JRAの負担を現在の原則50%から引き上げて欲しい、というのである。根拠(?)は、別表2の(2)。「地方馬の賞金獲得率が落ちている」ということだ。確かに2000年は4割を超えていたが、昨年は3割を切った。地方側にすれば「自腹を切った分まで、中央馬が持って帰っている」と言いたいのだろう。だが、語るに落ちたとはこのこと。賞金流失が嫌なら、レースを廃止すれば良い。岩手がダービーGPを新設した当時、NARは「バカなことを…。どうせ他場の馬に賞金を持って行かれるだけだ」と冷ややかに反応したものだ。今こそ各競馬場に、グレード競走廃止を呼びかけてはどうか。冒頭でグランシャリオCの廃止に触れたが、出走手当を厚くした道営の策は当たり、札幌開催の売り上げ増につながった。

 実際にレースの廃止に踏み切る主催者は少ないだろう。むしろ、来年から施行される改正競馬法で、JRAと地方競馬の相互委託が可能になることに期待を寄せる意見も多い。委託に関しては、民間参入問題も含めて、近く稿を改めて詳述するが、JRAは「苦情が来ないような体制でレースができますか」と問うている。収益性は別にしても、地方発のトラブルに巻き込まれたくないという本音は理解できる。加えて、最近は地元のトップクラスがグレード競走を回避するケースも目につく(南部杯のタイキシェンロンなど)。地方側にやる気がなければ、JRAも受ける気になれないだろう。

 当面、何をすべきか。まず肥大化したレース数を整理する必要がある。G1級で避けて通れないのはJBC、川崎記念の見直しだろう。JBCは当初の理念が失われ、大井以外で開催すれば主催者の致命傷となりかねない。廃止も視野に入れるべきだろう。全体でも30前後に数を絞り、中央出走枠の拡大やハンディ戦の導入を図る。地元の有力馬が出走しなかった場合、主催者に何らかのペナルティを課することも考慮して良い。JRAの受託発売は、祝日開催との抱き合わせなど、メリットのある手法で行うのが前提である。「中央馬が賞金を背負って地方で走る」ダートグレード競走の枠組は、生産界の後押しで実現したが、結果的に地方側の甘えを助長しただけだった。この甘えこそ、地方競馬の危機の最大の要因である。



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