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  ■藤沢和雄の「伯楽一顧」
  [藤沢和雄・中央競馬調教師]

  第8回 従業員と向き合う

 中央競馬のきゅう舎は原則として、馬2頭にきゅう務員1人、馬6頭に調教スタッフ1人という体制で運営されている。私のきゅう舎は1988年、12頭(12馬房)にきゅう務員6人、調教助手2人という陣容でスタートした。馬房と管理馬が増えるとともに、従業員も多くなり、現在はきゅう務員11人、調教助手3人、所属騎手も1人(北村宏司)いる。

 開業から16年を経た今でも、私は従業員にとって、口うるさい上司であると思う。周りに聞こえるような大声で怒鳴ることもある。今年のまだ寒い時期、何頭かが脚元に皮膚炎を起こしたことがあった。馬を水洗いした後、きちんと水分を取らなかったため、水が下りて脚元が湿気を帯びたのが原因だった。このときは、従業員全員の前で担当者に雷を落とした。

 なぜ、細かいことをうるさく言うか。好成績のきゅう舎は、アクシデントが少ないからである。最後に勝負を決めるのは馬の能力だが、健康な状態でなければ、レースに出すこともできない。そういう点で、従業員の馬の扱いに、私は今でも全く満足していない。

 近年の馬づくりは、きゅう舎だけでなく、育成牧場や休養牧場との共同作業という性格が強まっている。私のきゅう舎でも、美浦にいる馬は22頭だが、外には40頭以上いる。レースの後は短期間でも放牧に出し、リフレッシュした状態で次のレースに臨むことが多い。従って、トレセンに入ってから二週間程度で出走する例が珍しくない。

 馬が結果を出せばお金が入る。だが、このお金はトレセンで馬を扱う人に支払われ、縁の下の力持ちである育成牧場や休養牧場の人々には落ちない。我々が努力する日数が短い分、外の牧場に負担をかけている。私の従業員は普通のきゅう舎の倍は稼いでいる。「倍働け」とは言わない。「よそとは少し違う」程度で十分だが、お金に見合った働きを求めている。

 恵まれた環境にあるためか、JRAのきゅう舎人はともすれば、安きに流れる傾向がある。今年から、成績不振のきゅう舎の馬房を減らす制度が始まった。競争を促すためだが、削減されたきゅう舎からは、1人が好成績のきゅう舎に移る。雇用は守られているのだ。これでは、従業員個々の意識改革は進まない。世間の中小企業が行き詰まれば、全員が死にものぐるいで働き、リストラも甘受するだろう。甘えがはびこるのは、この辺にも原因がある。

 我々はオーナーに高い馬を買ってもらい、応援されている。それに、誤った扱いを受けても、馬は何も言わない。自分が誤りを指摘しなければ、調教師としての責任を放棄したことになる。私はこれからも言い続ける。「チャンピオンステーブル(きゅう舎)として、恥ずかしくないか」と。


 藤沢 和雄(ふじさわ・かずお)
 1951年9月、北海道生まれ。52歳。88年3月開業。93年に初の全国最多勝。95年から9年連続全国最多勝を継続中。98年にタイキシャトルで仏GT制覇。シンボリクリスエスは一昨年から2年連続で年度代表馬に選出された。

[2004年10月05日/日本経済新聞 朝刊]



 
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■藤沢和雄の「伯楽一顧」
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   第1回 馬に個性、難しい調教
第2回 馬を育てる騎手
第3回 発祥の地の光と影
第4回 クラシックに向けて
第5回 勝敗、施設次第なのか
第6回 ポストサンデー
第7回 世界と戦うために
第8回 従業員と向き合う
第9回 敗戦をどう生かすか
第10回 馬の頑張りに声援を
   


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