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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (9/13)“配分の競馬”が迎えた隘路
 レースを開催して馬券を売り、3/4弱を的中者に配分する。競馬事業とは、せんじ詰めればこの繰り返しである。レースの開催経費は残りの1/4強から出すが、JRAは国庫に10%を出しているため、実際は使えるのは15%強である。競馬業界の側から見れば、「競馬の開催」は「様々な形で経費が配分される」ことを意味する。きゅう舎関係者への賞金・手当、臨時従事員の給与…。ほかに、主催団体職員にも、通常のサラリーと別に手当が支給される場合もある。

 売り上げと経費の帳尻が合わなくなったのが、現在の地方競馬である。今月には北関東2場が撤退の方向であることが、相次いで明らかになった。売り上げの1/4をフルに使えるはずの地方が、今日のような惨状にあるのは、“逆スケールメリット”の結果である。日本の競馬施行のシステムは様々な事情から肥大化し、小規模場では売り上げの1/4を投じても支え切れなくなった。問題は、早い段階で支え切れない状況が明らかだったのに、何の手段も講じられず、赤字を垂れ流しながら開催が続いたことだ。競馬だけでなく、公営競技全体が同様の状況にありながら、開催規模は見直されなかった。「配分」を止めることへの関係者の抵抗が強く、主催者側も惰性的に開催を続けたことで、傷口が深くなったのではないだろうか。

 こんなことを考えたのは、今年のJRAの夏競馬が売り上げ、レース内容ともに低調を極めたからである。各開催の入場者、売り上げの前年比は別表の通りだが、開催200日終了時点での年間売り上げは前年比3.3%減。6月13日(2回東京、2回中京終了時)には2.7%減だったが、夏季競馬の12週間で落ち込み幅が0.6ポイントも悪化したのである。もともと、新潟、福島、小倉は売れない場である。逆に言えば、少々落ち込んでも全体への影響は軽微なはずで、ここまで落ちたことは、今年がいかに低調だったかを示している。

(1)04年夏季競馬の成績
(前年比、単位%)
入場売上
2回福島89.195.4
3回阪神96.597.2
1回函館88.995.4
1回新潟89.289.2
2回小倉91.393.3
2回函館97.3104.6
2回新潟98.890.0
3回小倉89.989.1
1回札幌94.9114.1

 売れなかった理由は単純である。売りどころの上級・中級条件の出走馬が足りなかったからだ。重賞競走の売り上げ実績を見れば一目瞭然だが、期間中行われた17の平地重賞競走のうち、売り上げが前年を上回ったのはわずか4競走で、いずれも前年より出走頭数が多かった。「頭数増、売り上げ減」というパターンはクイーンSだけで、これは前年にファインモーション(現在よりはるかにスター性を帯びていた)が出走していた特殊事情がある。そのファインモーションが参戦した札幌記念は、低調だった前年を上回ったが、同日のアイビスSDは頭数減も手伝って、激しいリバウンドに見舞われた。頭数が顕著に減らなかったレースでも、メンバーの質の低さを感じた向きも多いと思う。オープンでは完全に頭打ちの馬も目につき、古馬重賞で1600万条件馬が連対する例も3件あった(函館記念・クラフトワーク、クイーンS・エルノヴァ、新潟記念・レニングラード)。これだけで低レベルと断定はできないが、オープン特別でも、過半数が条件馬という低調な顔ぶれのレースがあった。

 さらに深刻だったのは1000万条件である。1日に1―2競走が組まれ、重賞やオープン競走がない日の「売りどころ」になるが、別表(2)の在きゅう頭数表にある通り、今年は8月時点で前年比54頭、9月時点でも前年比34頭少ない。その影響が表れ、7月3週から8月2週(2回新潟、小倉、函館)の1000万条件の出走頭数は390頭と、過去2年の同時期を下回った(一昨年404頭、昨年424頭)。悪いことに、今年は1000万条件戦が32競走と、一昨年の29、昨年の30より多く組まれていたため、平均でも前年比2頭弱減った。夏場の競馬に参加するようなファンは、いわばコアな人々で、出走頭数やメンバーの質には敏感に反応すると考えるべきだろう。質量ともに落ちた商品しか提供できなければ、反動はてきめんに現れる。

(2)クラス別在きゅう馬数
(古500は4歳以上未勝利含む)
03.704.703.804.803.904.9
2歳新773700681675700674
2歳未155130298267365366
3歳未127313861163128310101116
古500132113321229125211731184
古1000432405458404493459
古16009583876510485
古OP111126116102156124

 1000万条件の在きゅう頭数について触れたが、別表にある通り、それより上の条件も軒並み、在きゅう頭数は減っている。強い馬はこぞって、夏休みを取っているのである。夏場にG1、G2が少ない以上、ある程度は仕方ないが、今年は減った理由は何か。3歳未勝利馬の在きゅう頭数が増えていたのである。今年は8月半ばの時点で前年同時期比120頭の増、9月6日現在でも前年を106頭上回っている。2歳の新馬、未勝利も微減し、古馬500万条件は微増。要するに、平均的に弱くて先のない馬の集団がきゅう舎に居座り、売り上げにつながる馬を圧迫していたのが今年の夏競馬だった。

 きゅう舎にいる馬の背後には休養馬がいる。JRAの馬名登録数を見ると、今年はずっと前年を上回っている。7月から9月にかけての開催が替わる時点で比較すると、昨年は8315→8235→8050なのに対し、今年は8564→8486→8215。例年、7月は退出予備軍の3歳未勝利馬と、新たに参入する2歳新馬がオーバーラップし、登録数が年間で最も多い時期だが、今年の8564頭は記録的な多さだ。問題はここまで増えた理由で、あくまでも仮説だが、以下のようなことが考えられる。(1)経営難の地方競馬が新馬の受け皿として機能しなくなり、もともとJRAで通用しないレベルの馬が流入している(2)預託可能頭数拡大とメリット制できゅう舎間格差が広がり、馬集めが難しくなった下位きゅう舎が、低資質馬を受け入れている――。当然の話だが、下位きゅう舎には未勝利や最下級条件馬が多い。今年当初の時点で、美浦の下位5軒の管理馬の88.4%、栗東の下位5軒の80.1%が、3歳未勝利と古馬500万条件で占められていた。何しろ、1戦走れば原則35万円。3カ月以上休むか引退すれば事故見舞金。弱い馬も「配分」のおこぼれに預かる道は開かれている。

 冒頭で「配分」機能に触れたが、配分を続けるには収益部門が不可欠だ。貸与馬房という希少資源が不採算部門、つまり配分にぶらさがる馬(と馬主、きゅう舎関係者)に占拠され、全体の収益力を圧迫しているのが現状である。事態を改善する方法は単純で、配分の手法を改めるしかない。常識的な手法から挙げれば、3歳未勝利戦の賞金を、時系列で徐々に下げる。出走馬の質を考慮して、四大競馬場とローカル場の賞金に格差をつける。不成績の馬への出走制限を強化する。これは馬の側に着目した方法だが、現在のメリット制を強化し、上位きゅう舎の馬房をより増やすことも不可欠だ。

 ただ、問題はそれにとどまらない。土日にのべつまくなしで競馬を開催することが、もはや実情に合わないのではないか。諸外国の夏競馬といえば、米国のデルマー、サラトガやフランスのドーヴィルといったリゾート開催が有名だが、残念ながら日本にそんな競馬場はない。ただでさえ高温多湿な日本の夏に、避暑地でもない場所で行われる競馬に、いかなるアイデンティティがあるだろうか? ただ決められた日程を消化し、弱い馬にも賞金や手当を配分するだけの競馬なら、いっそやらない方がマシと思う。暴論と思われそうだが、この夏の惨状は相当なダメージになったはず。普通の企業なら、不採算部門の縮小・廃止は当然の選択肢である。ファンの興味を引かない開催をダラダラと続けるより、一時的にファンの飢餓感をあおってから、良質な商品をぶつける戦術も「あり」だろう。

(3)重賞出走頭数と前年比売上
03 04
プロキオンS16→1593.7
宝塚記念17→1590.0
ラジオたんぱ賞15→1593.5
函館SS11→15115.7
七夕賞13→1084.0
マーメイドS10→1097.2
北九州記念10→13211.0
函館記念15→1380.3
関屋記念16→1592.8
函館2歳S14→16105.1
クイーンS11→1392.9
小倉記念11→1188.9
札幌記念9→11155.5
アイビスSD15→1272.0
新潟記念17→1382.1
エルムS13→1391.8
新潟2歳S18→1285.1
小倉2歳S15→1395.2

 未勝利馬が馬房に滞留する状況は、秋競馬が始まっても続いている。9月12日の中山では、激戦区とされていた1000万条件のダート1200メートル戦がわずか9頭、同条件の阪神の芝2000メートルに至っては6頭立てである。重賞も軒並み少頭数。3歳未勝利の編成が終わる10月第1週まで、この状況は続くだろう。勝てなければ退出だが、一部は地方で1勝して戻ってくる(北関東2場の撤退問題も影響を与えそうだが…)。置かれた状況は大きく異なるが、地方競馬や他種公営競技の失敗は、「配分」が自己目的化した結果である。今夏の状況を単なる季節的な現象ととらえ、「配る」機能の肥大化を根本的に改めない限り、同じような結末が緩慢に忍び寄って来るだろう。



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