NIKKEIデイリースポーツ サラブnet HorseRacing Info サラブnet
ホーム 重賞レース情報 重賞レース結果 最新競馬ニュース 競馬読み物
■ 競馬読み物
  ■藤沢和雄の「伯楽一顧」
  [藤沢和雄・中央競馬調教師]

  第7回 世界と戦うために

 アテネ五輪が29日で幕を閉じた。日本選手は過去最多のメダルを獲得する活躍だった。中継を生で見る機会はほとんどなかったが、選手たちが世界のトップクラスを相手に、高い動機付けで戦った成果だと思う。

 近年は競走馬も海外で戦うことが珍しくなくなった。だが、動機付け以前に、馬は何のために長時間、狭い貨物便に閉じこめられ、知らない土地に渡るかを理解してくれない。到着後は1日、調教を休むので、その影響は出るし、緊張感から休んでも大したリフレッシュにはならない。馬にすればいい迷惑だろう。

 それでも交通の便が良くなり、馬の側も様々な形で空輸を経験することで、以前よりは耐性がつき、海外遠征も盛んになっている。私のきゅう舎からも7月に、ダンスインザムードが米国のアメリカンオークス(G1、芝約2000メートル)に出走して2着に入った。勝てなかったのは残念だが、現地ではいつになく落ち着いた様子で、能力をほぼ出し切ってくれた。

 牝馬が平均的に牡馬よりも我慢強いと私は思っているが、日本ではなぜか「牝馬を厳しい環境に置くのはかわいそう」という考えが支配的だ。確かに、牝馬は食の細いことが多く、そういう馬は海外を避けた方が良い。だが、ダンスインザムードに関する限り心配はなかった。

 海外に出ると試されるのは、馬を扱う人間の技術や経験である。今回は調教助手1人と生産者の社台ファームのスタッフが同行したが、どちらも遠征経験があり、不安は感じなかった。

 問題はむしろ、帰国してからの馬の状態であろう。海外にいる間は緊張感のためか、変調が表れにくい。だが、帰国して馬を緩めると、国内のレースの疲労までが一気に出る場合がある。帰国した後は、次の目標をあまり早く決めずに、様子を見ることにしている。

 馬にすれば負担でしかない遠征も、人間には大きな意味がある。何といっても、海外のホースマンの技術に触れることができるのが大きい。騎手やきゅう務員といった職種を問わず、彼らは動物の扱いが上手だ。海外で勝つことがあっても、それは馬に勝たせてもらったもので、技術的にはまだまだと思っている。

 JRAは来年以降、国際競走を増やす意向と聞く。今後は国内でも外国馬と戦う機会が多くなるが、日本のきゅう舎の態勢はまだ整ってはいない。

 毎週月曜に一斉に調教を休む慣行も一例で、馬をスポーツ選手と考えれば、週に一度、トレーニングを休むようなやり方を続けるべきでない。きゅう舎従業員の労働条件への配慮も必要だが、人間の側の都合で、明らかに馬にプラスになることをしないようでは、決して世界とは戦えない。


 藤沢 和雄(ふじさわ・かずお)
 1951年9月、北海道生まれ。52歳。88年3月開業。93年に初の全国最多勝。95年から9年連続全国最多勝を継続中。98年にタイキシャトルで仏GT制覇。シンボリクリスエスは一昨年から2年連続で年度代表馬に選出された。

[2004年08月31日/日本経済新聞 朝刊]



 
■コラム一覧
■藤沢和雄の「伯楽一顧」
■北海道牧場紀行
■初心者入門

  ■コラム一覧
   第1回 馬に個性、難しい調教
第2回 馬を育てる騎手
第3回 発祥の地の光と影
第4回 クラシックに向けて
第5回 勝敗、施設次第なのか
第6回 ポストサンデー
第7回 世界と戦うために
第8回 従業員と向き合う
第9回 敗戦をどう生かすか
第10回 馬の頑張りに声援を
   


著作権は日本経済新聞社またはその情報提供者、およびデイリースポーツ社に帰属します。
Copyright 2006 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.
Copyright 2006 Daily Sports, Inc., all rights reserved.