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  ■藤沢和雄の「伯楽一顧」
  [藤沢和雄・中央競馬調教師]

  第5回 勝敗、施設次第なのか

 私のきゅう舎がある美浦トレーニングセンターでは、5月から坂路コースの延伸工事が行われている。現在の坂路は全長800メートルで、栗東の坂路よりも短いが、年末の完成後は1200メートルに延び、栗東を上回る。

 延伸工事に期待を寄せる関東の競馬関係者は多い。美浦と栗東の競走成績は、1980年代末に逆転して以来、「西高東低」が続いている。格差の一因に、坂路の短さを挙げる人は多い。短いと「追い切り」といわれるレース前の速い調教で、十分な負荷をかけられないというのである。

 だが、私は追い切りで坂路を使うことはまずない。普段はウッドチップ(木くず)コースで、芝コースに入れる場合もある。ウッドチップの調教コースは世界的にも珍しい。クッションがあり、故障の危険性が低いのが最大の利点だが、半面、多くの馬が入るので、頻繁に整備車両を入れてならさないと、すぐに荒れてしまう。

 荒れたコースを走ると、蹄(ひづめ)の外傷の原因になる。また、少し硬い走路を走らせて、脚に刺激を与える必要もあり、芝を併用しているが、速いタイムは出さないようにしている。

 確たる根拠はないが、実戦的なストライドを身につけさせるには、平らな場所を走らせた方がよいと私は考えている。それに、レースと同じように集団で走らせるのが重要なのに、坂路は幅が狭く、何頭も並べて走らせることはできない。だから、追い切りに坂路は使っていない。仮に栗東で開業していたとしても、同じだと思う。

 それにしても、本当にコースのせいで勝てないのか? 米国は、シービスケットの時代(1930年代末)も今も、小回りのダートコースをクルクル回るだけの調教スタイルを変えていない。それでも、強い馬が毎年出てくる。

 米国に比べれば美浦や栗東の施設は充実していて、私などは現状でも十分だと思うが、それでもドバイワールドカップのようなレースで、日本馬は米国馬に歯が立たない。

 コースという「器」にこだわるのは、調教で少しでも負荷をかけたいという人間の欲目があるからだ。私自身、ビシビシやりたいと思う。ただ、心すべきは、我々が扱う馬の多くが、心身とも未完成であることだ。

 競馬は勝つことより負けることの方が、圧倒的に多い。4回に1回勝てれば上出来。レースで能力を出し切れない場合の方が普通だ。毎回、勝つためにギリギリまで追い込んでいたら、次のレースで反動も出るし、長い目で見ても成長が止まってしまう弊害がある。

 5、6歳まで大事に使っていけば、心身も丈夫になり、色々な調教を試すこともできる。馬は口をきかない。せめて自分だけは、馬の味方をしてやらなければ、と思っている。


 藤沢 和雄(ふじさわ・かずお)
 1951年9月、北海道生まれ。52歳。88年3月開業。93年に初の全国最多勝。95年から9年連続全国最多勝を継続中。98年にタイキシャトルで仏GT制覇。シンボリクリスエスは一昨年から2年連続で年度代表馬に選出された。

[2004年06月22日/日本経済新聞 朝刊]



 
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■藤沢和雄の「伯楽一顧」
■北海道牧場紀行
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   第1回 馬に個性、難しい調教
第2回 馬を育てる騎手
第3回 発祥の地の光と影
第4回 クラシックに向けて
第5回 勝敗、施設次第なのか
第6回 ポストサンデー
第7回 世界と戦うために
第8回 従業員と向き合う
第9回 敗戦をどう生かすか
第10回 馬の頑張りに声援を
   


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