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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/31)迷走するパート1入り
 13年ぶりとなる競馬法改正案は参院先議で国会に提出され、4月21日に参院を通過。6月1日には衆院農水委員会で審議が行われ、7日の週の本会議で成立の見通しとなった。改正法案の内容については、3月の提出段階で3回に分けて詳しく紹介したが、法改正に向けた一連の作業で、なお固まっていない問題がある。「生産対策をどうするか」である。生産界の現状を見れば、今後打ち出される対策の核心は、生産継続が難しくなった農家の転廃業や負債対策、さらには多額の不良債権を抱えた地元農協の扱いであることは明白だ。ところが、生産対策を巡る議論の中で、およそ次元の異なる問題が取引材料にされつつある。2005年から新たな段階に入る、外国産馬、外国調教馬への出走制限緩和――「国際化」問題である。折あしくも法改正と重なり、開放策は迷走の気配を見せている。

 まずは国際化の流れを復習しておこう。1970年の活馬(競走馬)輸入自由化、81年のジャパンC創設も、今では“前史”扱いが妥当だろう。米国やオセアニア諸国の開放圧力を受け、92年から「8カ年計画」がスタート。安田記念を初めとするG1、G2級競走が外国調教馬に開放され、混合競走の編成率が55%に設定された。ここで見送られたクラシックと天皇賞の外国産馬への開放は、99年に策定された「第二次5カ年計画」に取り込まれ、タマネギの皮をむくような速度とは言え、残った桜花賞も今年から出走可能になった。ここまで来れば、残された課題は少ない。(1)クラシック、天皇賞で外国産馬と国産馬の差別を撤廃する(2)外国調教馬の出走できる重賞競走の大幅拡大(3)一般競走も含めて、外国産の出走できないレースを“例外”扱いとする――といったことか。これらは、日本が国際セリ名簿委員会(ICSC)の「パート1」入りする際の条件とされていた。ICSCは現在は、パリ会議(国際競馬統括機関会議)傘下の小委員会に改組される方向となっており、すでにJRAも番組担当者やハンディキャッパーを委員会メンバーに送っている。

 実は今回の「パート1」問題の発端は、生産界側の要望だった。昨年12月にJBBAはJRAに提出した要望書の中で、「現在の低い国際格付けを是正することは、海外有力馬の参入と内国産馬の海外流通促進に寄与する」という趣旨のくだりがあり、これを受けたJRAがパート1入りの条件を具体的に提示した。内容は、(1)国際競走は現在の24から111に増やす(2)クラシックを輸入競走馬に対しても半数オープンとする(3)内国産馬限定競走を、父内国産や市場購買馬の限定戦と同じ「特殊競走」と扱う――などだった。パート1入りに最も重要な条件は、国際競走の数。現在、ICSCに登録のあるレースは、地方のダートグレード競走を含めて221で、111は過半数に相当する。JRAは2歳、3歳の限定戦を除く重賞競走などを外国調教馬に開放すると、条件を満たすと想定していた。

 ところが、5月11日に行われた今年2回目のJBBAとJRAの懇談会で、JBBAの役員を務める生産者の多くが、パート1入りを含めた対外開放策の進展に強く反対する意見を相次いで述べたのだ。JBBAが先に提起していた話を、自ら否定したのだから、格好が悪いことこの上ない。ある理事に至っては「パート1になれば日本産馬が売れるのだと言ったとすれば、間違いだったので訂正したい」と発言。他の役員にたしなめられる一幕もあったという。

 この一件は、日本の生産者団体の不思議な構造の現れである。JBBAは長く会長を務めた山中貞則氏が今年3月に死去し、後任には河野洋平・衆院議長が就任した。問題は副会長ポストで、日高や青森といった生産地代表に、JRA役員OB(現在は今原照之・元常務理事)が加わっているのだ。JRAの幹部経験者にとって、パート1入りは悲願と言える。国際会議などで長く、“二等国”扱いを受け続けたトラウマの裏返しである。だが、生産界の同意なしに事態は動かない。輸入馬の開放にさえ、相当に抵抗した経緯を思えば、パート1などは絵空事のはずだった。だが、国内需要減退に、長く保護政策の恩恵を受けてきた生産界も、海外需要の発掘に動かざるを得なくなってきた。ターゲットは香港、韓国だが、最後発の韓国も近年は、「パート1」を輸入元の条件に挙げるようになっている。「海外流通促進への寄与」とは、そういう意味である。

 4月から5月にかけて、韓国馬事会(KRA)は九州、千葉、北海道の調教済み2歳馬セールで、相次いで馬を購入した。橋渡しをしたのは在京のJBBA事務局。しかも、JBBA自体も馬を購入し、ソウルや釜山(来年秋開場)に寄贈する。寄贈馬は現地で模擬レースを行った後、馬主にセリで売却する予定。こうした作業は、JRA出身の役員主導で行われている。しかし、KRA自体が購入した馬の多くは100万円台。産地側は韓国の市場としての可能性になお懐疑的だ。その辺がパート1入りへの温度差を生んでいる。

 競馬産業の外に身を置く限り、パート1入りを巡る議論は他人事である。JRAのメンツと生産界の実利が衝突しただけである。パート1入りは生産界に新たな実利をもたらす可能性もあり、一概に実利を侵すとは言えないが…。しかし、争点は競走番組である。番組のあり方を巡る議論を、業界の実利だけに回収してしまうのは妥当か。番組とは「スポーツのルール」であり、かつ馬券購入者向けの「商品」でもある。スポーツのルールである以上、差別や排除は本来、あってはならない。しかも、差別や排除のない明快さが、商品価値を高める。「強い馬を集めると馬券も売れる」ということである。結局、ルールとしての透明性を追求すれば、結果的にパート1の条件は満たされるのだ。「海外流通促進」のため、パート1入りが持ち出された経緯自体、ゆがんだものと言わざるを得ない。

 今年のダービーは北海道・道営のコスモバルクの参戦が話題を集めた一方で、昨年に続いて外国産馬の参戦はなかった。現在のルールの下で、2頭の出走枠を確保できなかった。今回、出走に値するかどうか、議論があるとすれば青葉賞3着のシェルゲームか。内国産馬なら、同じ結果でも出走できるのだ。内国産限定で、出走馬の大半が1―2勝というプリンシパルSの上位2頭と、どちらが「出走に値するか」は、見方が分かれるはずだ。昨秋の天皇賞などは、もっと高いレベルの実績馬が「2―4頭枠」に翻弄(ほんろう)された。実績主義一本の透明なルールを採れば、こんな議論が起こる余地はないし、おそらくは馬券購入者にも支持されるだろう。

 今年の血統登録された3歳世代は、内国産8809頭に対し、外国産は206頭。昨年、招待でない国際競走で、馬券の対象になったのはタイガーテイル(エリザベス女王杯3着)1頭である。輸入競走馬、外国調教馬の影響といっても「この程度」だが、実はピンポイントで社台グループの下に位置する上位牧場に累が及ぶ。法改正とセットで行われる政策の対象は、転廃業を考えるような下位の牧場群で、この層は良くも悪くも、輸入馬や外国調教馬の影響をほぼ受けない。開放策への抵抗は、法改正というタイミングを捕らえて、上位牧場が下位牧場をダシに使った個利個略に等しい。

 第一、内国産馬保護を続けたところで、生産界に明るい展望があるとも思えない。仮に鎖国策を取っていても、競馬が健全に開催され、馬券マネーが業界に還流されなければ、生産界は即座に行き詰まる。現在の地方競馬の状況を見れば明らかだ。もはや輸入馬、外国調教馬抜きの競馬は考えられず、変な制限のし方は馬券購入者の理解も得にくいだろう。需要減退の現状、生産界はJBBAのような組織に頼らず、自発的に販路を開拓する努力を求められている。「売れるはずがない」と内にこもっていても、何の展望もない。JRAは従来も生産対策に巨費を投じており、今回の生産対策でも同じことが繰り返される。社台グループの独り勝ちという帰結をいかに総括するか。透明なルールづくりという当たり前の作業だけでなく、「生産対策」自体を問い直す時期に来ているのではないか。



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