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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (3/22)検証・競馬法改正(3) 目玉は現状追認
 競馬法改正案について検証するシリーズの第3回では、地方競馬問題以外に関する改正内容について取り上げる。第1回で触れた通り、今回の改正は武部勤元農水相の“介入”によって、焦点があいまいになった面がある。武部氏が「JRA改革」と派手に拳を振り上げ、自ら招集した有識者懇談会(第1回の時点で更迭されていたが)も、地方競馬問題だけでは終わらせにくい人選にした手前、一定の「成果物」はどうしても必要だった。そこで、重勝式馬券の復活と、学生・生徒に対する馬券購入制限の見直しが盛り込まれた。いずれも、意義を否定するものではないが、必ずしも競馬界で機運が盛り上がっていたわけではなく、「なぜ今」という感がある。

 ただ、重勝式の復活について言えば、底流には控除率問題があった。控除率問題と重勝式にいかなる関係があるのか。以下、説明していく。JRAの馬券の控除率は「25%強」。旧競馬法時代の名残で、複雑な計算式を使用しており、実際は26%に近い(他種公営競技は、払い戻し率をシンプルに「75%」と規定している)。ただ、前回の1991年法改正で単勝式、複勝式については5%相当の「給付金」を設定。事実上の引き下げが実現した。同年のJRAの剰余金は実に2082億円に上り、当時の財務状況なら全賭式で控除率を20%にすることさえ可能だっただろう。ただ、地方競馬や他種競技との兼ね合いで、売り上げシェアの低い単勝・複勝のみとなった。

 給付金は、JRAの毎年の剰余金の一部をプールした「特別給付資金勘定」を設定。ここから支出していたが、98年以降の売り上げ低迷で、剰余金も細る一方となった。2001年には300億円を切り、このまま行くとプール金も底をつきかねない情勢だった。しかし、いかにシェアが低い賭式とは言え、ファンに定着した控除率の「引き上げ」は無理な相談。そこで、今回改正では「給付金」部分も通常の「払戻金」に一本化されることになった。だが、実体が看板の掛け替えであっても、控除率本体を下げる話には抵抗勢力が存在する。財務省である。そこで、同省を説得する材料として、ホコリをかぶっていた「重勝式」というカードが使われたようだ。実は当初の段階で、重勝式の控除率は30%に設定されていた。農水省としては、単勝・複勝を20%とする引き換えに、控除率の高い馬券を導入することで難所を超える腹だった。ところが、この案は国会議員にはすこぶる評判が悪く、「30%」だけが立ち消えとなったのだ。

 複数のレースの勝ち馬を選択する重勝式が、日本でも発売されていたことを記憶している人は少ないだろう。中央競馬では、客足が悪い午前中のレースを対象に「3重勝」が発売されていた。だが、1961年の悪名高い「長沼答申」(公営競技調査会答申)で、射幸心をあおるものとされ、63年に発売が中止されていた。改正法案を読んで驚くのは、理論上「同日に行われるレースなら何でも売れる」とされたことだ。重勝式は、単勝、複勝、連勝複式、連勝単式の4賭式(基本勝馬投票法)の組み合わせが可能とされており、おそらく世界のどこにも売っていない“トリプルトライフェクタ”(3つのレースの3連単をすべて的中させる)も「あり」なのである。香港には「一瞬で人生を変える馬券」と言われるトリプルトリオ(3連複3重勝)があるが、それを超える馬券が導入可能となった。

 ただ、競馬施行者の立場からすれば、この種の馬券は決して営業的にプラスではない。今夏、JRAは3連単の発売を開始するが、1頭でも人気薄の馬が絡めば、数万人が来場する競馬場で、的中者数人という世界が日常化する。早々に資金が尽きて帰ってしまう人も増え、資金は循環しない。これでは、システム構築に多額の投資をしながら、売り上げはマイナスという最悪の結末が待っている。そこで、当面は1日4レース程度の発売を想定。あとは少頭数レースで臨機応変に発売指定することを検討していると見られる。

 こうした状況下の重勝式導入だが、何カ所の主催者が発売するかは疑問だ。多額のシステム投資が必要なのは同じ。重勝式だけは、的中者がない場合のキャリーオーバーも導入されている。宝くじやtotoを意識したものだが、日本のファンに顕著な「学習競馬」の傾向と、ミスマッチになる可能性も高い。もともと、90年代以降の新賭式はすべて、主催者側に導入への動機があった。だが、今回は全く逆の構図。ないとは思うが、主催者の自立性の観点からも、「売りたくない賭式を無理に売らせる」ことはすべきではない。

 もう一つの重要な改正点に、馬券購入の制限対象から「学生・生徒」が外れ、未成年者のみとなったことが挙げられる。第二次世界大戦前に施行された旧競馬法以来の規定が、ようやく改められた。旧競馬法が制定された時代、高等教育を受ける人といえば、学齢人口の数%に過ぎず、夏目漱石の小説に登場するような「高等遊民」のイメージを背負っていた。こうした階層の中には、同世代の勤労者よりはるかに豊かな人も多かったはずだ。だが、ほぼ半数の人が高等教育を受ける時代となり、社会人になってから大学に入り直す人も増えた。従来のルールが時代に合わなくなったのである。

 ただ、立案作業の段階では「19歳未満」とする考え方も浮上していた。この場合、民法上は親権者が馬券購入契約を取り消すことが可能なため、未成年者のみを制限する方向で落ち着いたという。この辺の事情を見ると、年齢制限の根拠について、改めて整理する必要がある。馬券は本来、自分で稼いだカネで買うべきものなのだろう。その考えに立てば、10代でも自活している人は、購入しても構わないはずだ(現に男性は18歳、女性は16歳で結婚できる)。海外ではもっと低年齢でも鷹揚(おうよう)に考えている国もあるが、日本の場合、家庭も学校も金銭教育に全く無関心で、子供が過剰にカネを持っているために、悲惨な事件が起こる。逆に言えば、「成年、非学生」でも、親のすねかじりである間は馬券を買うべきでないかも知れない(立法論とは別次元の話だが)。ともあれ、大学の競馬サークルのイベント参加や、学生への電話投票の募集は大っぴらにできることになる。売り上げへの効果は未知数だが…。

 もともと、90年代の競馬ブームは、非合法のはずの学生の参入が起爆剤だった。その意味で、今回の改正法案は、控除率問題同様、やっと現状が追認されたという色彩が濃い。最後の論点は、ノミ行為防止のため、農水省の許可があれば、競馬主催団体の職員が「馬券購入類似行為」をできるとした項目である。JRAはここ数年、海外のギャンブルサイトの取り締まりを関係省庁に要望していた経緯があり、立法化はこうした流れの延長線上にあるが、その割に何をしたいかが不明確だ。第一、海外のギャンブルサイトの取り締まりは現行法体系の中では不可能である。英国ではこうしたサイトは合法であり、日本側がどれだけ「違法」と叫んでも犬の遠ぼえ。カード会社に決済への非協力を求める“兵糧攻め”が関の山である。実は農水省はギャンブルサイト規制で総務省(郵政事業庁)に協力を求めたが、色よい返事は得られなかったという。結局、改正法案では国内のノミ屋を対象にした部分だけが残ったが、JRAや地方の主催団体職員に、丸腰で裏社会に入り込めというのは無体な話。抜かずの“宝刀”に終わるに違いない。

 もとより、ノミ屋が違法な地位に置かれている理由は、ギャンブルの利権を独占したい国家権力の都合に過ぎない。おかげで日本の公営競技は「官業」のポジションに宙づりにされ、どれだけ経営が悪化しても身動きが取れずにいる。一方で、誰もがギャンブルと信じて疑わないパチンコが、「風俗営業」という境界的な立場で巨大化している。この状況について、海外のある賭事法研究者は「日本は法治国家ではない」と言い切るほどだ。「違法」と言いながら、取り締まりは形式だけ。きょうも非合法カジノを通じて巨額の資金が裏社会に流れている。この問題を本気で解決するには、賭事を合法化してカネの流れを透明化する一方、営業免許などを通じて裏社会と関連のある業者を徹底的に排除するには以外にないはずだ。建前と現実の乖離(かいり)に平気でいられる日本社会は、官僚と裏社会にとっては、揺籃(ようらん)のような場所なのである。



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