(3/16)検証・競馬法改正(2) 具体性欠く地方競馬対策
1991年以来、13年ぶりの競馬法改正を検証する2回目は、今回の最重要テーマである地方競馬対策について検討する。キーワードは「ブロック化」と「委託」。まず、ブロック化について考える。
そもそも、「地方競馬」とは実体の乏しい概念で、「非JRAの競馬」とでも見た方がよい。大井から高知まで、全主催者が「ミニJRA」なのが日本の競馬である。すなわち、競馬開催に必要なコース、競走馬、きゅう舎人、発売網などのパッケージを、各主催者が個別に抱えている。だが、競馬はかかわる人の数も多く、競走資源の維持コストも他種公営競技よりかなり高い。JRAはこの欠点を、全国展開によるスケールメリットで補っているが、同じことのできない小規模主催者は、売り上げ低下局面では、たちどころに危機に直面する。現在の苦境の本質は、地方競馬の経営規模とコスト構造の間の潜在的ミスマッチが表面化したものと言える。
だが、いきなり地方競馬を全国一本の組織に統合するのは現実的でない。そこで「ブロック化」である。地域的に近い主催者や、もともと関係の深かった主催者が、様々な競走資源を共有することでコスト構造を改善し、質の高いレースを提供するのが狙いである。実は地方競馬にとって、ブロック化は古くて新しいテーマだ。90年代後半には、南関東地区が自主的にブロックの形成に動き、2000年以降は地方競馬全国協会(NAR)主導で、九州や北関東のブロック化が進められた。だが、結論から言えば、いずれも失敗だった。南関東は個々の主催者の抱える債務がネックとなり作業は中断。九州や北関東では、域内最弱の中津、足利が撤退に追い込まれた。
今回の改正法案の特徴は、ブロック化を収支改善に向けた計画とリンクさせていることだ。各ブロックは「競馬連携計画」を策定して農水省に提出。同省の査定をクリアすると大臣認定が与えられ、ブロックが展開する事業に助成金が交付される。助成事業としては共同場外発売所の設置や、発売システムの共通化などが想定されており、財源はNARとJRAが拠出する。NARの財源は1号交付金。各主催者から馬券の売上額に応じて吸い上げ、畜産関係への助成に投じられていたカネである。JRAは各年度の剰余金。JRAは従来から、「特別振興事業」の枠組みで個別主催者への直接助成を行ってきたが、今回の助成は別なカテゴリーに位置づけられ、NARが新設する「競馬連携勘定」と「競走馬生産振興勘定」に、JRAが資金を拠出する形となる。助成期間は2005―2009年の5年間で、NAR、JRAともに毎年10億円、計100億円を見込む。
法改正とほぼ同時に提出された「我が国の競馬のあり方に係る有識者懇談会」の報告書は、以下のようにブロック化を位置づけている。「これらの見直しで地方競馬の問題がすべて解決するわけではない。(中略)意欲を持つ地方競馬主催者が模索する方策にしか過ぎない」。これは「近い将来、相当数の地方競馬が姿を消す」という予見を追認したものだ。主催者によって、失敗の要因は違え、失敗した競馬を束ねても、即座に好転するとは考えにくい。それ以前に、現時点ではブロックがいくつ成立するかの方が問題だ。ブロックを立ち上げる際には、多くの主催者が抱える累積赤字の処理について方向性を定め、地元住民や議会の同意を得る必要がある。この“第一ハードルで”早々とつまずく主催者が少なくないだろう。
仮に、あるブロックが連携計画の大臣認定を得たとして、その先にいかなる問題があるか。九州や北関東の事例を見ると、最大の問題は開催規模である。九州の場合、集客の期待できる週末を体力のある佐賀に割り当て、月、火曜を中津、水、木曜を荒尾とした。この結果、域内では収支構造がある程度改善したが、供給過剰という根本問題は手つかずのままで、中津が著しく弱体化した。中津で競走馬を抱える側は、いかに交流があっても、能力的に佐賀や荒尾に参戦して賞金を稼ぐことは難しい。いかにブロックと言っても、会計は主催者ごと。売上が下がれば当然、賞金・手当も下がり、むしろ寿命は縮まる。開催日割を抜本的に見直し、売れる場、売れる日付に開催を極力、集中させなければ、供給過剰の解決は難しい。
だが、供給を絞るとなれば、競走馬ときゅう舎関係者の座布団の数は確実に減る。各主催者や、張り付いたきゅう舎関係者の利害を乗り越えて、リストラを敢行するためには、ブロックの中で確固たるリーダーシップが確立される必要がある。「M(みちのく)&K(九州)」を旗印に、岩手と九州のブロック確立を図ってきた岩手県競馬組合の藤原正紀・前事務局長は一昨年、「M&Kの真の狙いはM&A(企業の買収・合併)」と説明したことがある。一つの企業としての指揮・命令系統を持たなければ、ブロック化は所期の目的を達しないという指摘は、核心を突く。だが、今回のブロック化では、各主催者が法人格のない「協議会」を設置することを想定しており、十分なリーダーシップが確立されるかは疑わしい。
結局、今回出された一連の対策は、地方競馬に事業継続の可否を自主的に判断するよう迫り、決断の背中を押すメニューを並べたと言える。こうした性格が最も色濃く現れているのは、ブロックに加わらない主催者に向けた助成措置だろう。1号交付金の支払いが滞るような主催者が、「事業収支改善計画」を策定して農水省と協議し、同意を得られた場合には最大3年の猶予が与えられる。猶予期間満了後、なお支払いができずに競馬から撤退する場合には、猶予された交付金を撤退に必要な経費に充てることが可能とされた。有識者懇談会報告は各主催者に対し、「事業継続のメリット、デメリットを検討して、将来の進む道を検討すべき」と明記している。
実際、現状を見る限り、ブロック化以前にもっと厳しい決断を迫られる主催者の方が多そうだ。何より、ブロックの核として想定される主催者が多くの問題を抱えている。大井は他場との連携には全く不熱心で、馬主やきゅう舎関係者も地方随一の高額賞金を独り占めしようという意識が強い。賞金額の割に馬が弱いのはそのツケである。JRAや他場との交流に熱心だった岩手は、ここに来て過剰投資のツケが回ってきた。兵庫は「地方他場よりJRA」という意識が明確。名古屋と笠松の仲の悪さは知る人ぞ知る。こんな状況では、ブロック化も絵に描いたモチに終わる危険性は非常に高い。また、物理的に他場から離れた北海道・道営や高知、福山は、ブロックに加わるのも困難で、より厳しい状況なのは言うまでもない。
次に、もう一つのキーワード「委託」について検討する。改正法案では、委託可能なパターンとして「地方主催者→JRA、民間」と「JRA→地方主催者、民間」の二つが位置づけられた。現時点で、地方主催者の関心を集めるのは「JRA→地方主催者」というパターンか。JRAの馬券の受託販売は、従来のように地方競馬場でJRAが"出店"を出す形と比べれば効率的と思われている。だが、問題は委託手数料だ。地方の場間場外発売の場合、手数料は売り上げの15%という受託側に極端に甘い設定となっている。おかげで場間場外はかなり広がったが、レースを行う側の収支への貢献度は低くなった。JRAの場合、地方にはない第一国庫納付金の10%分を抱えており、委託の際の手数料は3%程度が妥当と考えていると見られる。この手数料でも引き合うような売り上げを確保できる主催者がいくつあるか。おそらく、委託先は以前から太いパイプのあった兵庫、岩手などの比較的に力のある主催者になるだろう。
岩手の場合、すでにJRAに発売施設を貸してから10年以上になる。だが、発売はメーン競走のみに限定してきた。その理由はほかでもない。商品力のあるJRAの競走を多く発売すると、地元のレースが埋没してしまうからだ。岩手にしてこの状況だから、他場は推して知るべし。JRAの馬券の受託発売は、収支改善に役立っても、自場でレースを行う意味をより希薄にするリスクと背中合わせだ。南関東の馬券を日常的に発売している高知や北海道・道営などの小規模主催者でも、すでに同様の現象が現れはじめている。
では、「地方主催者→民間」というパターンはどうか。これは即時的な売り上げ向上と言うよりは、運営の効率化を狙ったものだ。公金取扱を含む馬券発売や、警備などの業務は民間に委託できる一方、レースにかかわる部分は各競馬場が設立している公社などの公益法人への委託が想定されている。例えば岩手では、委託の解禁を見越して、すでに「アールナック」という会社が存在している。今後、期待されるのは、民間事業者が道営で一定の成果を挙げたミニ場外のような小規模売り場の設立に手を挙げ、低コストで発売網を広げることだろう。ただ、ミニ場外と言えども警察や地元住民との協議というハードルがあり、参入する事業者の背後に暴力団関係者などが存在しないことを担保する必要もある。具体的な案件の推移を見ない限り、民間委託の効果は未知数といわざるを得ない。
「ブロック化」も「民間委託」も、どこか隔靴掻痒(かっかそうよう)の印象がある。「実施主体のあり方」という核心の問題に迫りながら、寸止めで終わっているからだ。失敗した主催者が何人束になっても、成功は望めない。業務の効率化も重要だが、前提として各主催者に戦略を持つ経営者が不在では、競馬の再生は難しい。自治体は好況期に地方競馬を消尽してきた。必要最小限の設備投資さえもさせず、ひたすらカネを吸い上げるパラサイト(寄生虫)だった。「競馬は残って自治体が実質的に退場する」のが、最も望ましい解決だが、その道は開かれないまま、2年が空費された。
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