第2回 馬を育てる騎手
JRA現役最年長の岡部幸雄騎手(55)が、1年1カ月の休業を経て復帰した。私の管理するダンスインザムードで初勝利をあげた後、勝ち星を9に伸ばしている。
この人のすごさについては、今さら多くを語る必要もない。レースに騎乗したことのない私が、調教師としてここまでこれたのは、コースで起こることの機微を知り尽くした岡部騎手の多くの助言のおかげである。
1990年ごろから、騎乗してもらうことが増えたが、今も印象に残るのは、ホッカイカオリという牝馬のことだ。ダートの中距離戦が得意で、1600―1800メートルのレースを16戦続けて使ったことがある。その間に岡部騎手も一度勝ったが、90年の暮れに彼は、「この馬、飽きちゃったみたいだ」と言った。似た条件のレースを走り続けるうちに、闘志が薄れたというのだ。
そこで、目先を変えようと、年明けに3回続けて小倉の1000メートルのレースに出し、集中力を増すために遮眼帯も着用した。すると、3戦目を逃げ切り勝ちし、翌週には上のクラスの芝2000メートルのレースも逃げて連勝した。
騎手と調教師は、「馬を育てる」という共同作業を日々続けている。ホッカイカオリは古馬だったが、岡部騎手に乗ってもらいたいのはレース経験の浅い馬である。
もともと馬は好きなように走りたいもの。だが、レースで全力を出すべきは後半の勝負どころで、前半は我慢して余力を残さないと勝てない。岡部騎手は経験の浅い馬に、我慢を覚えさせる。最初は抑えが利かない馬でもあきらめず、根気よく言うことを聞かせようとする。繰り返すうち、いつしか馬は人間の命令に従うことを覚える。
また、馬に「レースは苦痛なもの」という意識を植え付けない点でも秀でている。私は外国人騎手を多く起用するが、彼らは1年で最大3カ月の免許期間中に、結果を出そうという意識が強過ぎ、若い馬に過剰な負荷をかけることがある。その点、岡部騎手はあまりムチを使わないなど、配慮が行き届いている。
日常的に調教に乗ってもらっているが、「もう少しいい状態のときに乗ってほしい」と思う馬もいる。だが、そういうときでも彼は平気で乗る。馬に乗るのが余程好きなのだろう。3週間前に、私の管理馬がゴール前で彼の乗った馬に抜かれて負けたことがあった。1頭になると気を抜く癖のある馬で、岡部騎手はその癖を計算に入れて、直線でわざとかなり外を通って抜き去ったのである。敵に回すと怖い相手である。
復帰から約1カ月半。まだ体調や勘が戻り切っていないことは、本人が一番よくわかっているだろう。早く回復して「さすが岡部」という姿を取り戻してくれることを、ファンも我々も待っている。
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藤沢 和雄(ふじさわ・かずお) 1951年9月、北海道生まれ。52歳。88年3月開業。93年に初の全国最多勝。95年から9年連続全国最多勝を継続中。98年にタイキシャトルで仏GT制覇。シンボリクリスエスは一昨年から2年連続で年度代表馬に選出された。[2004年03月09日/日本経済新聞 朝刊]
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