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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (1/13)クラブ法人――我が世の春?
 以前、JRA発行の「優駿」の読者投稿欄に、こんな記事が載った。《昼は黄色と黒の縦じまの強さに驚き、夜は白と黒の縦じまの弱さにあきれる》――。「黄色と黒の縦じま」とは、社台グループや吉田照哉、勝己両氏の勝負服。白と黒の縦じまは阪神のユニフォームを意味していた。白黒の縦じまの方も、昨年は18年ぶりのリーグ優勝で気を吐いたから、当分はこんなことを言われずに済みそうだが、黄色と黒の方は輪をかけて強い。特に、クラブ法人「社台レースホース」の昨年の稼ぎっぷりは目を見張る。二冠馬ネオユニヴァース、菊花賞馬ザッツザプレンティ、フェブラリーS優勝のゴールドアリュールなどを擁し、昨年の獲得賞金は何と約32億3573万円に上った。一昨年は約20億5887万円だから、前年比57%増。会員に記念写真を発送する作業が激増し、社員総出で対応したという。

 社台RHに限らず、昨年のオーナーランキングを見ると、クラブ法人上位組の躍進が目につく。まずは(別表)をご覧頂きたい。2位のラフィアン、3位のサンデーレーシングがそろって、JRAでの獲得賞金を前年より4億円以上伸ばした。個人馬主も含めた総合上位3位まではクラブ法人が占め、4位がスティルインラブなどを擁するノースヒルズマネジメント。ようやく5位に個人名(平井豊光氏=冠号エイシン)が出てくる。賞金の伸びで極めつきは、総合9位の(株)ウインで、昨年は10億円を突破。一昨年の2.7倍である。タップダンスシチーが4億円以上を稼ぎ、10億円に迫った「友駿」(10位)を加えて、ベスト10の半分をクラブ法人が占めた。

 現在、クラブ法人は19団体あり、JRAはこれ以上増やさない姿勢を取っている。看板が変わるケースは時折あるが、これは既存のクラブの経営者が交代したものである。表に戻ると、クラブランキングで6位以下の団体でも、9位の「シルク」までが、軒並み獲得賞金を増やしている。賞金・付加賞の総計は一昨年より約3億8000万円(0.55%)増えただけだから、上位9団体はシェアを伸ばしたことになる。一方、2002年から存続していた18団体中、主に7団体は賞金額を減らした(経営危機が伝えられた「クローバー」は、昨夏に「ゴールドレーシング」に移行)。それでも、全団体の獲得賞金は約126億円で、賞金全体の18.3%を占めた。一昨年は約97億円(シェア14.2%)で、競馬界の中での存在感はますます大きくなっている。ちなみに、クラブの獲得賞金の9割以上に当たる約114億円を上位10団体が占め、10団体の賞金は前年比35.4%も伸びた。

 なお、表では完全なデータがそろわず、地方交流競走の成績を掲載できなかった。ただ、「ゴールド」は東京大賞典を勝ったスターキングマンの活躍で1億7620万円を獲得。カネツフルーヴを擁した「ローレル」は1億4558万円、マイネルセレクトなどで「ラフィアン」が8914万円だった。他の11団体は最高でも1364万円である。

 躍進したクラブには、それぞれ事情がある。社台RHとサンデーレーシングに関しては、サンデーサイレンス産駒の活躍を抜きには語れない。何しろ年間303勝、獲得賞金83億3028万円である。毎年7月のセレクトセール(日本競走馬協会主催)に行けば、高額のサンデー産駒が景気良く売れていく光景を見られるが、それもせいぜい20頭。多くの馬がクラブ募集に回ることを考えれば、両クラブの活躍は当然だろう。「ウイン」の活躍馬にもサンデー産駒が多い。また、G1馬ウインクリューガー(NHKマイルC)は、2000年のセレクトセール出身だった。この団体は保有61頭、出走機会241回で上位3クラブの4分の1の規模だが、少数精鋭主義で社台RHを上回るアーニングインデックスを記録したことは特筆すべきか。

 クラブ法人の隆盛と個人馬主の退潮はコインの裏表である。やはり伸長が目立つ「ラフィアン」は、高馬に手を出さないクラブとして知られていたが、「競走馬市場の低迷で、かなり質の高い馬が手の届く価格に落ちてきた」(関係者)ため、ここ数年は当歳市場での仕入れを厚くしているという。成績が上がり、出資者が多くなれば、馬はもちろん、育成部門の人にも施設にも投資できる。経済的強者にますます資源が集中する力学は、ここでも働いている。

 こうした数字を並べると、個人馬主、というより馬主団体から、ますます怨嗟(えんさ)の声が上がるかも知れない。社台系クラブが勢力を伸ばした1980年代以降、馬主団体は陰に陽にクラブ攻撃を続けてきた。89年には、明らかにクラブを狙い撃ちした1馬主当たりの入きゅう頭数制限を実施。当初の120頭が、2001年11月からは100頭に。また、クラブ所属馬が勝った場合も、会員を表彰式(口取り)に参加させない規制も、一昨年まで続いていた。この規制は個人馬主にとって、1円の得にもならないが、この種の嫉妬(しっと)丸出しの要求でも、JRAは顔を立ててやる必要があった。

 クラブ法人が力を持つ原因を突き詰めると、きゅう舎制度、馬主制度の問題に行き当たる。多くの会員を集められるのは、JRAの馬主資格の要件が厳しすぎるからだ。真っ当な生活者は、中央競馬の馬主にはなれない。66年は年間所得350万円、資産2000万円だったが、その後はインフレ率に応じて数年ごとに基準が強化され、92年には直近2年の所得2000万円、資産1億4000万円となった。優良企業のサラリーマン役員でさえ絶望的な設定とした結果、馬主席にはバブル紳士たちが集まったが、後の10年で多くが退場。やむなくJRAは一昨年、所得を1800万円、資産を9000万円に切り下げた。また、昨年は農水省の働きかけを受けた形で、国税庁は馬主の収入を事業所得扱いとする際の基準を大幅に緩和する見解を示した。

 しかし、この程度で馬主数が回復するとは思えない。それ以前の問題として、資産要件はきゅう舎側が預託料を取りはぐれる事態を回避するために存在している。きゅう舎の取引先の信用状態までチェックするのだから、何という甘やかし方か。2001年から、JRAは組合馬主制度を新設しているが、昨年末の時点で登録数は27。大勢に影響のない数字と言える。また、クラブの出資会員でいる分には、手間のかかるきゅう舎との折衝は事務局が代行してくれる。きゅう舎の“敷居の高さ”が、クラブ法人を支えている面がある。

 では、「クラブ法人主体の競馬」は今後どうなるか? それを左右するのは、JRAの姿勢である。現状を良しとする立場なら、もっと力を増すだろう。ただ、馬主制度・きゅう舎制度を本気で改革する気があれば、話は違ってくる。競馬産業にとって、新規参入者を増やすことは大きな課題であり、現状の馬主制度を維持するマイナス面は多い。この点の改革を進める場合、きゅう舎に対しても、自己責任のルールの徹底を求めて行かざるを得ない。「客(馬主)が破たんしても、後始末は自分でしなさい」ということだ。もし、こうした改革が進み、小規模のシンジケートが簡単に設立できるようになれば、現在のクラブ法人は、手続きの代行や競走馬、調教師の紹介などのサービス業務に進出するのではないか。もちろん、現在のやり方の手軽さも捨て難く、馬主資格の要件が緩和されても、クラブ法人は残るだろう。その限りにおいて、出資者の保護を今以上に厚くする必要がある。「出戻り」についての記事でも触れたことが、地方競馬もクラブ法人を早急に解禁する必要がある。25日の平安S(京都)には、ラフィアンの馬だったマイネルエクソン(中央未勝利)が、別の組合名義で出走予定だ。クラブにも元の所属きゅう舎にもバツの悪い話だが、改善のきっかけとなって欲しい。

 昨年の米二冠馬ファニーサイドはニューヨークのある高校の同窓生6人の共有馬だった。6人は最初、5000ドルずつを出し合って1頭買い、その後は安い馬を売買しながら馬主を続けていた。ファニーサイド購入の話が舞い込んだ際、当初は7万5000ドルという価格に二の足を踏んだが、1頭の牝馬がクレーミングで6万ドルで売れたため購入に踏み切り、幸運をつかんだ。日本でもこんな具合に、普通の人が、馬を転がすようになれば、競馬産業はより懐が深く、持続可能性の高いものとなるだろう。多くのファンが出資をさらに有効に生かしていく方途を、業界全体が探っていく必要がある。

 

別 表
◇2003年クラブ法人成績(中央、単位1000円)
  出走 勝利 獲得賞金 前年賞金
社台RH113512432357322058874
ラフィアン13019118400951418273
サンデーR8989616390461188391
ウイン241451006528375097
友駿HC72134982891881559
ロードHC25225620879544402
ヒダカBU55139590472496266
ターフS48037573706449507
シルク53540559369513486
大樹F26221351091493256
キャロット20815247647263636
サウスニア11517242416143639
ローレル17610160550199621
グリーン95131930107015
ジョイRH101101888185504
荻伏RC10188409158678
ゴールドR1585879
JHMC1337857895648
ユーワ8570945123338

※金額は本賞、付加賞の合計

※2002年はクローバークラブ。獲得賞金24844



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