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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/24)内きゅうと外きゅうの間
 11月8日の百日草特別(東京・芝1800メートル)。当歳市場で1億5000万円の値がついた大本命ハイアーゲーム(父サンデーサイレンス)を破ったのは、北海道・道営所属で価格400万円だったコスモバルク(父ザグレブ)。37.5倍の価格差を逆転した付加価値が、どこで与えられたかが問題である。読者各位もご承知の通り、この馬は静内町真歌の「ビッグレッドファーム」で調教される外きゅう馬だった。道営競馬が今年4月に導入した「認定きゅう舎」制度の適用第一号としてデビューし、地元で4戦2勝2着2回。中央初挑戦で長距離輸送と初の芝を克服、1分47秒9の2歳レコードで走った。

 地方競馬での外きゅう制導入は、農水省が一昨年設置した「地方競馬のあり方に係る研究会」の中間報告で打ち出された。報告書は2年を経た今もほぼ放置されており、道営の外きゅう制は数少ない“果実”の一つである。ただ、制約も多い。簡単に言えば「調教師は外部育成牧場からも、当日輸送で馬をレースに使える」という趣旨。北海道競馬事務所が、調教コース、発馬機、外部との仕切りなど、基準を満たした育成牧場を「認定きゅう舎」に指定するが、申請ができるのは道営の調教師に限られ、馬房の管理も調教師が行うとされる。中央競馬でも現在は、多くの調教師が外部育成牧場を活用しており、物理的には“セミ外きゅう”である。中央がレース10日前(未出走馬は15日前)に美浦・栗東や競馬場に入きゅうする義務がある点を除くと、道営の新制度も中央とさほどの差はない。

 結局、免許のある調教師だけに馬を使う“特権”を認める限り、さほどの改革にはならない――。と言いたいところだが、一つだけ抜け穴がある。実際に外きゅうを運営する人が、地方競馬全国協会(NAR)の調教師試験を受けてしまえば良い。冒頭に挙げたビッグレッドファームは、ご存じ「マイネル」の育成場である。JRA所属馬も調教されており、期限ギリギリの10日前にトレセンに移動していきなり出走する馬も少なくない。この場合、トレセンでの追い切りは多くて1本。追い切り抜きで出走する馬もいて、困ったことに(?)勝ってしまったりもする。内きゅう制度の目的は(1)公正確保(2)検疫(3)情報提供――の3点とされるが、これでは(3)は尻抜けだ。レース当日であれ、10日前であれ、ギリギリまで外部で調教された馬が活躍する状況は、「誰が調教師か」という疑問を増幅させる。免許のある調教師は、馬房を貸しているだけではないのか。

 この点を明確にするためにも、外部育成場の運営者は調教師免許を目指すべきである。現在、道営の認定きゅう舎には、ビッグレッドファームのほか、帯広軽種馬育成センター門別支場の計2カ所があり、出走実績があるのは4頭。来年以降の話だが、複数の大手牧場の系列育成場に申請の動きがあるという。しかし、制度が定着すればするほど、本来の趣旨と現実との齟齬(そご)が著しくなる。もともと、道営に外きゅうが導入された理由は「出走馬の確保」だった。だが、“予備軍”となる大手牧場系列の育成場の預託料は月額30―40万円で、門別競馬場の内きゅうより高い。道営のレースだけを使っている間は、全くメリットがないのだ。賞金水準の高いJRAや南関東に進出する橋頭保となって初めて意味が出てくる。

 実際には、道営の外きゅう制は「当面の運用」として、「申請できる調教師は、道営で就業することを目的に免許取得した者」とされ、「地方他場からの移籍調教師も認めない」とされる。この2点は、いま免許を持つ調教師の既得権を保護する条項であることは明らかだ。特に後者は噴飯物というほかない。山形・上山が11日に廃止されたばかりだが、調教師の再就職は難航を極めている。だが、彼らも免許を持っていて、本来なら道営の外きゅう調教師も再就職の受け皿になり得る。第一、馬房を貸し付けなくても良いのだ。

 不吉な想定をする。道営も来年には累積赤字が200億円を超える公算が大で、いつ廃止になっても不思議はない。一方、道営以外の主催者には外きゅう導入の動きがあるという。もし、道営が廃止された際、「他場の外きゅう調教師に」と思っても、導入した競馬場が道営と同じルールを採っていたら…。世の中は相身互い。自分の利権を守るはずのルールが、今度は一転して自分の首を絞める。

 本来、免許のありようを決めるのはNARのはずだ。競馬場の廃止が相次いでいる折、こんな非人道的なルールを認めることは、免許権者としての怠慢である。もっとも、NARの責任放棄は過去にもあった。騎手が地方間で移籍する際、1年間きゅう務員をさせるといった、たちの悪いローカルルールは、問題を指摘されて久しいが、相変わらず放置されている。クラブ法人の馬主登録にしても、「中央→地方→中央」の移籍が容易になり、ますます必要性は高まっているのに、動きはない。以前、ある関係者は「きゅう舎管理の問題があり、どうしても個別主催者の権限が大きくなる」と説明したことがある。だが、主催者といってもしょせんは地方公務員。きゅう舎関係者の利権につながる領域は野放しである。NARの存廃を考える上でも、外きゅう運営者は調教師免許試験を受けるべきだろう。安藤勝己騎手のJRA騎手免許試験受験は、現在の免許制度の矛盾を満天下にさらした。もし、受験に何らかの障害があれば、それはNARが存在意義を失ったことの証明となるだろう。

 それでも、外きゅうの導入は地方競馬にさざ波を立てたことは確かだ。相変わらずのベタなぎ状態なのが中央である。19日の運営審議会で承認された来年度予算では、競走事業費(賞金・諸手当)が約50億円、削減された。大きく削減されたのは事故見舞金などで、本賞金では障害未勝利(1着で950万円→850万円)も対象になった。削減率は4%弱とは言え、賞金が右肩上がりだった時代は今は昔である。ところが、東日本馬主協議会が美浦所属の1592頭を対象に調査した結果、昨年8―10月の預託料は平均647046円で、0.8%とは言え、前年を上回った。同時期の関西の預託料は636321円(対象1696頭)だった。昨年はローカル開催が増えた分、出張経費が増加したという特殊事情があったが、相変わらずの高止まり。競馬ブームさなかの1993年と比べて、10万円近く値上がりしている。

 馬券が売れずに徐々に賞金が下がり、馬の維持コストとの間尺が合わなくなって、馬主が離れていく。賞金を維持すれば主催者の赤字が増す――。地方競馬が崩壊に進むパターンはいずこも同じである。体力のあるJRAが、簡単に同じパターンを踏襲するとは思えないが、内きゅう故の高コスト体質は、むしろ地方以上である。国際競馬統括機関連盟(IFHA=パリ会議)では毎年、競馬賞金で馬の維持費を何%カバーできるかの国際比較を出しているが、日本は昨年が70%。地方の賞金削減で近年の数値は低下しているが、JRAの賞金を加えてもなお、8割にも満たないのは、いかに高コストかの証明である。このコスト構造が変わらなければ、JRAも長期的には地方と同じ道をたどる可能性は高い。JRA所属馬が多く滞在する外部育成場のコストは、トレセンの約2/3。価格1.5倍で、成績も上がらないきゅう舎が生きていけるのは、免許と馬房をリンクさせる、主催者側の保護策のおかげだ。しかし、この保護策こそが、日本の競馬を存立の危機にさらす最も危険な病なのである。



 
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<参考>女性騎手、偏見との戦い・「地方」では延べ43人
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