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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/10)「11月3日の実験」の後で
 11月3日(月・祝)。国内で開催された公式競馬は、JRAの福島と公営の大井、そして北海道・北見のばんえい競馬だけだった。通常は土日開催のJRAが、福島開催を3日に移したのは、大井で行われる第三回JBC(ジャパン・ブリーディングファームズカップ)を一部施設で併売するためで、併売は12カ所で行われた。JRAの施設で、開催日に中央、地方双方を併売した例は、福島競馬場(岩手県競馬)が最も古く、今秋から東京(同)、小倉(佐賀県競馬)などでも始まった。ただ、今回は地方競馬で最も質の高い(はずの)JBCというソフトを、中央のレースと同じ売り場に並べた点が画期的だ。福島の12競走の内容は、2歳未勝利が1、3歳以上500万条件が9(特別1つを含む)、同1000万条件が2。オープンどころか、1600万条件戦もない、典型的なローカル番組である。JRAのローカル番組と、地方の統一G12競走。双方の商品力を測った大規模な実験の結果は、様々な波紋を呼びそうな気配だ。

 私事で恐縮だが、筆者は午前中、東京競馬場に立ち寄り、午後に大井に足を運んだ。JBCクラシックの終了5分後、福島の12競走(フルーツラインC=1000万条件)も終わり、ほどなく福島の1日売り上げが発表されたが、数字を聞いて正直、驚いた。96億14万1500円。昨年の3回福島4日目(エリザベス女王杯当日)と比べ3.1倍。福島では6―7月に関東エリアのメーン開催が行われるが、今年、96億円を超えたのは8日中3日だけ。2日はG3が組まれていた。この時期は阪神、函館も開催中で、単純に比較できないが、この数字は予想外だった。前日の2日、JRA関係者から「60億円は売りたい。70億まで行ったら、地方の関係者がどう思うかな…」との声を聞いていたからである。3日の大井は雨模様で、入場者は一昨年の第一回(ナイター開催)を44.2%下回る27027人。大井の関係者からは「売れ行きが伸びない…」という嘆きが漏れていた。

 結局、JBCスプリントの売り上げは9億215万4100円(第一回比15%減)、クラシックが12億3771万4300円(同8%減)。1日の売り上げは36億2926万4100円(同7.8%減)だが、実際にはJBC2競走の後、3レースを組んで12レース編成のため、一昨年の10レース編成とストレートに比較はできない。ちなみに、福島の各レースの売り上げは、10R(500万条件・一般)が10億7953万3300円、11R(福島放送賞、1000万条件)が20億7043万9400円。11R(フルーツラインC、同)が19億5174万9400円。JBCスプリントより、500万条件の平場戦の方が売れたというのは、考え込む数字だ。

 興味深いのは、福島とJBCを併売した施設の成績(別表)である。盛況だったのは大阪市のウインズ難波で、JBC2競走の合計が1億2916万8400円。12施設中最高だった。同じ日にプロ野球阪神の優勝パレードが御堂筋で行われ、雨に降られた見物客がウインズのある建物に流れ込んだ。多くの人が雨宿りだけでは済まず、カネも落としていったわけだが、他の施設と比べてもJBCの売り上げの比率は高かった。福島の方は11Rが関西馬4頭(全13頭)、12Rが1頭(全16頭)で、関西のファンには少々なじみの薄い顔ぶれ。JBCは2競走とも関西馬が1番人気。その辺で手が出しやすかったか。東京の8021万5500円は入場者の数(17040人)と比べて少ないが、これは発売場所が正門から離れた馬場内の5窓口だった影響が大きい。それでも、同じ場所で発売される岩手県競馬は、1日の総額が400万円台の日も多く、この辺はソフトの差なのだろう。

 別表の数字を見比べると、統一グレード競走の商品力が見えた感もある。JRAの1000万条件と並べていい勝負。重賞と併売ならもっと厳しい――。JRAのブランドや発売網、宣伝力を今さら強調しても始まらないが、問題は「地方競馬の祭典」JBCが、JRAにおんぶで抱っこということだ。JRA12施設での売り上げ合計は5億6027万8000円。JBC2競走の26.2%を占める。もともと、JBCも他の統一グレードと同様、賞金の半額はJRAが負担している。例によってJRA組が上位を占め、賞金(総額3億600万円)の86%を持ち帰った。これで「地方のレース」と呼べるのか?

 もともと、「福島祝日開催+JBC併売」という枠組みは、昨年の盛岡JBCに向けて検討されていた。本場の入場者、売り上げが決定的に少ない岩手にとって、JRA施設の活用はJBCの成功に不可欠な条件だった。また、交流拡大に先駆けてJRAとの雪解けを進めた岩手こそ、併売という果実への優先権を持っていた。ところが、併売との取引材料が有馬記念の12月28日開催だったことで、大井を始め他の地方主催者が反発。昨年に関しては沙汰(さた)やみとなった。しかし、その大井も自場でのJBCが中央施設で併売される今年に関しては折れ、有馬記念はJRAの望み通り12月28日に移った。結局、福島で前年比65億円(年間売り上げの0.2%)の増収を確保したJRAが独り勝ち。割を食ったのが岩手である。

 地方は深刻なジレンマに陥った。埋没覚悟でJRAの集客力に頼るか、独自路線か。来年のJBCは11月3日の大井開催が決まっているが、ここは水曜日。ナイター開催が確実だが、ナイターではJRA施設だけでなく、他の地方競馬場での発売にも制約がある。来年もほぼ発売できそうなJRA施設は、北海道内とウインズ神戸だけ。併売の効果は期待薄だ。JRAと大井の確執は知る人ぞ知る。大井側は今回について、「落ち込みがこの程度で済んだのは併売効果」とは口が裂けても言わないだろうが、来年には答えが出る。

 それにしても、JBCの変質には目を覆いたくなる。もともと、日本の競馬には珍しい理念先行型のプロジェクトだった。理念とは(1)競馬と生産との連関をアピールする(2)主催者の壁を超えて、地方競馬全体の“ショーケース”を提示する――の2つである。理念を最も明快に示すのが、米国のBCと同じ各地持ち回り方式だった。だが、今年に続いて来年も大井開催となり、4回中3回が大井となった。このままでは「統一G1を2つ、大井に与えただけ」という評価が定着してしまう。併売がつぶれて大きな出血を伴った昨年の盛岡JBCの経験は、他の競馬場にとってもトラウマとなった。

 本来は「出血を伴っても、意義を理解した主催者が引き受けるべき」というのが、古川博前会長時代のJBC協会の立場だった。当初の会場選定で1200メートルと2000メートルの距離にこだわったのも、そういう意味である。会場は最低2年先までは決めておき、その間にコースやスタンドの整備とPRを進めるのが、大イベントのやり方だ。だが、明日への理念どころか、きょうの糧にも事欠くのが、現在の地方競馬の悲しい現実である。目先の収支を考えたら、船橋や川崎、園田でも開催は難しい。持ち回りの体裁を保とうと、JRAの競馬場での開催論まで出る始末だ(札幌、中京は地方にも開催権があるが)。前述したJBCの理念とは、言い換えれば「地方競馬のアイデンティティの確立」だった。距離の問題(1000メートル、1700メートルしかない)を無視して札幌や中京で開催すれば、ファンは集まるかも知れないが、賞金、馬、売り場と来て競馬場まで借りては論外だ。

 「借りる」と言えばもう一つ。JRA側の在宅投票の開放問題が一昨年、「地方競馬のあり方に係る研究会」でも議論された。ここはJRAが最も強硬に反対した。技術的な問題が理由とされたが、日進月歩のシステムの領域に「技術的」もないはず。「囲い込んだ客を取られる」という感覚が強いのだろう。JBCに代表される各種交流競走は、競馬に必要な様々な資源を「共有」する発想で行われている。騎手は「目減り」しにくい分抵抗が薄い。馬も競馬場間での奪い合いという面があるが、選択権は馬主側にある。一番ハードルが高いのは「ファンの財布」だろう。不況の中でアイデンティティの希薄な開催を続けたことで、地方競馬は「ファンの財布」を失った。アイデンティティの確立を掲げたJBCが、何から何までJRAからの借り物で占められるとは……。だが、JRAでも貸したくても貸せないものが、一つある。「競馬の存在意義」である。

 

別 表
◇併売施設での売り上げ(単位100円)
  JSP JCL 福11R 福12R
札幌132088245773156022139509
W釧路19866293533829337514
W室蘭22331329864088132311
函館30009475847222554739
福島――――――570823540678
東京502718739405555695503833
W汐留319985464390304520350210
W立川288999430883395037340200
中京124723202414206831167659
W難波489708801976854070729693
W神戸192490305365395719330721
小倉64489115245174130159110

※JSP=JBCスプリント、JCL=JBCクラシック

※東京のJBC分は福島との合計



 
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