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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (10/27)いつまで続く「国際化」論議
 11月2日の天皇賞・秋(東京・G1)の登録馬22頭を見て、読者各位は何を感じただろうか? 藤沢和雄きゅう舎が、1000万条件に昇格したばかりのエルノヴァを含め、5頭も登録してきた。「いくら何でもエルノヴァは…」と思ったら、さすがにすぐ回避が決定。ゼンノロブロイも菊花賞に回る一方、富士Sを予定していたヤマノブリザードは除外濃厚で天皇賞出走の方向となり、計3頭となる見通しだ。このほか、1600万条件のタイガーカフェ、マイルCSに回るバランスオブゲームも天皇賞を回避するため、登録のあった外国産馬4頭は、めでたく(?)出走可能になった。複数のG1を勝っている馬が「除外」という事態になれば、世界の物笑いの種になったはず。JRAはひとまず、胸をなで下ろしていることだろう。

 もしエルノヴァが「降り」なければ、一昨年の優勝馬で、今年も安田記念を勝っているアグネスデジタルが除外されていた。藤沢調教師は同馬を登録することで、現行ルールのおかしさをファンにアピールしたかった――。そんなうがった見方をしたくもなる。いずれにせよ、出走枠争いで注目された外国産馬では、タップダンスシチーが京都大賞典を勝ったほかは、いずれも凡走。急に熱が冷めたような雰囲気が漂っている。特に、毎日王冠で逃げて失速したファインモーションへの失望感は大きいのではないか。また、タップダンスシチーがジャパンCに直行するため、毎日王冠、京都大賞典という東西の二大前哨戦勝ち馬がともに回避となった。結局、登録馬の中で内国産のG1勝ち馬はゼロ。珍事というほかない。「内国産馬中心の競馬」に徹したら何が起こるかを、如実に示すものだ。

 JRAにすれば、「ここに来るだけで、どれだけ苦労したか…」と恨み言の一つも言いたいだろう。確かに、2000年までは天皇賞もクラシックも、外国産馬は全く出走できなかった。1999年10月、天皇賞とクラシックの段階的開放でJRAと日本軽種馬協会の合意が成立してから4年。タマネギの皮をむくように開放策は進み、来年の桜花賞開放で、全G1が外国産馬に門戸を開くことになる。当時の資料の表題は「平成12年度以降の国際化計画」となっているが、最初の項目に「計画期間は平成12年から16年までとする」と書かれていて、「5カ年計画」であることは明白だ。本来、変幻自在であるべき競馬番組を、旧社会主義圏の計画経済を想わせる「5カ年計画」が、縛っている。ここに、日本競馬の悲劇と喜劇がある。

 計画が策定された99年は、確かに外国産馬が最も輝いていた時期である。凱旋門賞でエルコンドルパサーが2着に入り、国内ではグラスワンダーがグランプリ3連覇を果たした。だが、輸入頭数を見れば、ピークの97年(453頭)から2年で115頭も減っていた。第一次国際化計画が論議されていた当時、馬産地では「輸入頭数が1000頭を超える」という三菱総研の予測が一人歩きし、実際に97年まで増勢が続いた。だが、同年の北海道拓殖銀行、山一証券の破たんに端を発した金融危機以降、情勢は一変。馬主の経済力低下は、国内外双方の市場に影響を与えた。「外国産馬の流入」ではなく、「外国産馬を買えない経済環境」が生産者を脅かすことになる。

 後知恵になるが、JRAは99年の交渉の段階で、こうした状況を踏まえた主張をすべきだった。当時、あと4年も不況が続くと予期した人は少ないが、輸入馬の急増も考えにくい情勢だった。国内生産頭数のわずか4%前後の外国産馬が、生産界をどれほど圧迫するというのか。しかも、楽屋落ちのような話だが、外国産馬は馬主だけではなく、生産者も相当な数を買っている。「アマチュア」の馬主にも、「プロ」の生産者にも、関税は平等に適用される。生産者の側には「自分たちだけ、関税を負けてくれれば良いのに…」という虫の良い声もあった。その辺を百も承知のJRAが、堂々と正論を展開しなかったのは、やはり農水省所管の特殊法人という属性ゆえの限界だった。同省は軽種馬生産対策をJRAに丸投げしているが、事があれば農水族議員も動く。すでに当時、外国産馬不在のクラシックはファンの不興を買っていたが、JRAにとって、監督官庁や族議員への対応の方が、優先度が高いのは言うまでもない。

 馬を生産国で差別するような競馬は、まがい物と言うほかない。それを世に主張できるのは、施行者たるJRAを置いてない。当たり前のことだが、わずか4年前までは別世界の論理だったのが、日本の競馬の現実である。「内国産馬中心の競馬」とは、お寒い現実を覆い隠す“イチジクの葉”に等しい。「ファンは血統にロマンを感じる」と言われる。そういう面を否定はしないが、今回の天皇賞のような事態を前に、「血統のロマン」で納得するファンが何%いるか? 施行者と生産者の関係のゆがみが是正されない限り、日本の競馬は常に、生産者(と背後の農水省、族議員)への過剰な配慮から、本質を損なわれ、足を引っ張られるリスクを負い続ける。

 そこで、「内国産馬中心」の実態だが、95年以降は「サンデーサイレンス産駒中心の競馬」にほかならなかった。とは言え、スーパー種牡馬にも、年ごとに当たり外れはあり、産駒の出来不出来が競馬全体の様相を規定した。別表では、生年別に牡のG1勝ち産駒を挙げてみたが、今思えば94―96年産は層が薄く、97年産は世代全体が低レベル。98年組は高レベルだったが、エース格が早々に引退。99年組も手薄だったが、今年はエンジン全開である。今回の天皇賞には3頭の登録があるが、どれも脇役の域を出ない。結局、サンデー産駒が手薄な世代は、全体のレベルも落ち、外国産馬やトニービン、ブライアンズタイムの産駒が穴を埋める構図となる。今後は、産駒数が多い2002年産組のデビューまでは、エンジン全開状態が続き、その後は一気にレベルダウンすると思われる。社台グループは別として、生産界にサンデー級の種牡馬を買う余力はもうない。地盤沈下を防ぐため、唯一残された手段は輸入競走馬の導入である。タイキシャトル、エルコンドルパサーのような自家生産で行くか、セリで購入するか。幸い、為替相場は円高に振れている。サンデー産駒に投じていた資金を、外国産馬に振り向けるべき時だ。

 JRAに求められるのは、輸入競走馬を邪魔しないこと。外国調教馬への出走制限も、すでに無用の長物。日本の競馬の地位を低くするだけで、百害あって一利なしだ。よく知られている通り、外国調教馬を主要競走から締め出す代償として、日本は国際セリ名簿委員会(ICSC)の格付けでパート2国とされている。開けているだけで、ほとんど遠征馬が来ない豪州や南アフリカもパート1国でいられる。だが、輸入競走馬にさえ壁を設ける国が、パート1入りとは笑止千万である。現在の5カ年計画が完結する来年には、次の「国際化計画」の議論が始まるだろう。だが、筆者は思う。もはや「国際化」論議を終わらせる時ではないか――。本来、調教師や馬主など「人」の開放問題も一括解決すべきだが、少なくとも、不毛なだけでしかない「馬の国際化」問題に、ピリオドを打つ時だ。

 なぜ不毛か。日本の生産者が抱える病と、「国際化」問題はほとんど関係ないからだ。今や、主要競走の開放問題は、生産者団体が内部向けに、存在意義をアピールする道具と化している。「ダービーのマル外枠が2頭か4頭か」で、小規模牧場の命運が左右されるか。売れない馬は、枠が何頭だろうと売れない。巨額の負債や資本力の乏しさ、経営能力の低さこそが問題で、輸入競走馬、外国調教馬を封じ込めても、何の解決にもならないのは言うまでもない。

 改めて確認する必要もないが、生産のために競馬があるのではない。競走馬はしょせんバクチの道具。「日本産」にこだわる必要もない。ただ、生産物が「バクチの道具」であっても、産業として自立していれば、むしろ尊敬に値する。貿易立国の日本が、諸外国の自由貿易協定(FTA)締結の動きに乗り遅れているのは、農業関係団体の市場開放への激しい抵抗のためであり、政治ともたれ合って保護を求める姿を、非農業者は冷たい視線で見ている。他の農業分野と違い、票にならない競走馬生産者を本気で守ってくれる政治家などいない。競馬の命であるファンの支持を失えば、行き着く先には「崩壊」の二文字が待っていることを知るべきだ。

 

別 表
◇主なサンデー産駒(牡)
1992   フジキセキ
    ジェニュイン(2)
    タヤスツヨシ
    マーベラスサンデー
93   バブルガムフェロー(2)
    イシノサンデー(2)
    ダンスインザダーク
94   サイレンススズカ
     ステイゴールド
95   スペシャルウィーク(4)
96   アドマイヤベガ
97   エアシャカール(2)
    アグネスフライト
98   メジロベイリー
    アグネスタキオン
    マンハッタンカフェ(3)
99   ゴールドアリュール(4)
    デュランダル
00   ネオユニヴァース(2)

※カッコ内はG1勝利数。地方、海外を含む



 
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<2000年>
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<参考>国際ルール「自然交配だけ」・希少だから高額取引される種牡馬
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(8/10)女性騎手、懸命の手綱・中央競馬にわずか5人
<参考>女性騎手、偏見との戦い・「地方」では延べ43人
(8/7)出走馬選定ルールが一部変更・日常的な「除外」、「機会均等」ルールの見直しを
(7/24)実感される層の薄さ・見直すべき騎手育成のあり方
(7/11)4月誕生の馬に3億2000万・北海道の競走馬せり市
(7/10)ジョセフ・リーさん・ドバイの名馬を手がけた調教手腕を「育成牧場」で
(6/26)故障に泣いた「未完の大器」グラスワンダー
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(5/29)最強の騎手と調教師が連携・世界を見据える藤沢=武豊タッグ
   


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