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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (10/14)『新出走馬決定方式』のインパクト
 10月の東京、京都開催のスタートとともに、現在の3歳世代の未勝利戦がなくなり、やっと名実ともに秋競馬がスタートする。季節の変わり目に際して、JRAは今年、下級条件の出走馬優先順位決定に新たな方式を導入した。フルゲートを超える数の馬が出馬投票した場合、どの馬を出走させるか。競馬の基本にかかわる重要なテーマに対して、従来は「同じ競走条件では能力も同じはず」というフィクションを前提に、各馬を平等に扱ってきた。「抽選」を基本とし、漏れた馬に次回の出馬投票の際の優先権を与える。近年、競走数と馬の数のミスマッチが表面化するに及んで、この方法は「除外」という奇妙な問題を引き起こし、JRAと馬主団体との間で、競走数を巡る論争に発展した。新方式は、出馬投票する側の行動パターンにスポットを当てて、除外という現象に歯止めをかけ、馬主側の競走数増加論を封じ込めるのが狙い。だが、それだけでなく、騎手の選択を初めとして、インパクトは広範に及びそうだ。

 新方式は、除外が多発する2(3)歳未勝利、3(4)歳以上500万条件が対象。前回着順と出走間隔を基準に優先順位を決める。ここでは、新方式の概要を簡単に紹介する(丸数字は優先順位)。

 〔2(3)歳未勝利〕
(1)新馬戦出走後、最初に未勝利戦に出走する馬
(2)過去4週以内の前走で3着以内に入った馬
(3)初出走馬
(4)前走からの出走間隔の長い馬(間隔が同じ場合は抽選を行う)

 〔3(4)歳以上500万円以下〕
(1)過去4週以内の前走で3着以内に入った馬
(2)地方競馬から移籍後初戦の馬
(3)前走からの出走間隔の長い馬
(4)収得賞金0円で出走間隔の長い馬

 新ルールの基本的発想は「計画的に出走できる環境を整える」ことにある。前走着順の良い馬を優遇することで、実績主義的な考え方も取り込む一方、未勝利戦については、新馬の1戦のみを消化した馬を最優先とし、今夏始まった「新馬戦一走化」との整合性を持たせた。また、古馬500万条件で、収得賞金0円の馬は、前走着順が良くても優先権は与えない(この点については後述する)。

 東京、京都の第一週に、新方式が適用されたレースは計24あったが、「過去4週で前走3着以内」で優先権を得た馬は1―3頭にとどまった。あくまでも推測だが、新潟、小倉で上位に入りながら、中山、阪神の間に除外され、「過去4週」という条件を満たさず、逆に出走間隔で拾われた馬も多かったのではないか。一方、未勝利戦ではまだ、投票数がフルゲートを超えないレースも多いが、全般的に「新馬に続く2戦目」の馬が多く、東京では7頭というレースも2つあった。この週は年間12週だけの「ローカル開催がない週」で、全般的な状況を判断するのは早計だが、どちらの条件も「間隔を開ければ出走できる」という方向に収れんして行きそうだ。

 もともと、「除外」という現象は、馬の数とレース数とのミスマッチから生じる。馬の数が増える(もしくは減らない)背景には、様々な事情があった。例えば、賞金が高くても、8着にさえ入れないような弱い馬は恩恵に浴さない。だが、JRAの場合、「特別出走手当」が現在でも約35万円(以前はもっと高かった)出る。1開催で2戦までは支給されるため、2戦すれば1カ月の預託料相当になる。また、1980年代には、JRAが馬主に妥協して弱者救済的な番組を編成していた。一昨年まで、秋の福島で8週間に130近い未勝利戦を組んでいたのは、その典型だった。この時期は、地方競馬の不振、各きゅう舎の預託頭数規制の緩和策などが重なった。以前なら地方に入るレベルの馬が、受け皿を得て中央に流れてきた。

 ただ、除外の件数が年間1万を超える状態になるには、短期的なトリガーが必要となる。過去の例を見ると、年末年始の間隔が2週間前後となる年に、件数が一気に増える。有馬記念の週に走った馬でも、東西の金杯の週まで中1週あるからだ。ここが出馬ラッシュとなって除外が増え、優先権を持つ馬も増える。翌週は優先権を持った馬同士の抽選となるため、ダブル、トリプル除外が出始め、各きゅう舎は優先権狙いの投票に走る。こうした投票を封じるため、98年には、優先権のない馬にも5頭の出走枠が設定されたが、抑止力にはならなかった。連闘馬がいる一方で、ダブル・トリプルの除外馬も出るというのは、確かにバランスを欠いた状況だった。

 新方式は、レース数を巡るJRAと馬主団体のスタンスの違いをあぶり出した。ありていに言えば、馬主の本音は「どんな弱い馬でも、月2回は走らせろ」ということだ。かつての地方競馬では、月2走分の手当で、預託料分だけはねん出するという馬の持ち方が一般的だった。馬の新陳代謝が進まず、番組がマンネリ化する弊害もあった。だが、賞金の根幹に手を着けていないJRAでは、玉石混交でも、次々に馬は入ってくる。かつての地方のような"悠長な"やり方を認めたら、たちまち頭数がオーバーフローしてしまう。新方式はJRAが馬主に、「月間1走で十分でしょう。それ以上、面倒を見る気はありません」というメッセージを送ったに等しい。

 JRAのレース数は、競馬法や関連規定で決まっている。本来、施行者の裁量で決めるべき問題であり、規制を受けている状況は、確かに不正常である。だが、レース数増を求めることは、形を変えた賞金増額要求である。現在でも採算ベースで見れば、JRAの下級条件戦は明らかに赤字。賞金が高すぎるか、ファンの支持が乏しいか(あるいは両方)である。除外問題から生じる「馬の仕上げにくさ」は、「計画的な出走」で解決すべきであり、質の低下につながる安易なレース数増加に走るべきでないのは当然のことだ。

 今回の新方式には、様々な反応が出ているが、中にはあきれるものもある。「前走2、3着組と休養明けばかりで、堅いレースが増える」という声があったが、しょせん最下級条件の話である。馬券的には最も難解な領域であり、少しルールを変更したところで、走る馬は同じである。うがった見方に過ぎるのではないか。「前走上位で優先権を持つ馬の陣営が、相手の軽い競走に矛先を向ける」という見方もあったが、これもさほど多いとは思えない。現実には、条件反射のように(ダートの短距離などに)出馬投票を繰り返すきゅう舎の方が多数派ではないか。間隔を開ければ出走できるという状況は、仕上げにもレースの選択にも十分、時間をかけられるという意味だ。戦略戦術に優れたきゅう舎の優位性が高まるだろう。

 もう一つ、見逃せないのが騎手選定の問題である。従来のルールでは、1人の騎手が除外を見越して、2頭との組み合わせで投票されることも可能だった。投票の際、第一希望のA馬と、第二希望のB馬に同じ騎手の名で投票し、Aが除外、Bが出走となった場合、B馬に騎乗する。それでも、フルゲート16頭に対し投票80頭といったケースがしばしばあり、成績上位騎手が不在のレースも現実にあった。結果的に、下位騎手の騎乗機会が増えていたのだが、今後はこうしたことが起こらなくなる。第一週の騎乗者数は、東京が初日58人、2日目54人、京都が初日47人、2日目56人だった。東京が多頭数だったため、予想より多かったが、「いつ走れるか」の見通しが立ってくると、徐々に上位騎手に騎乗依頼が集中すると考えられる。現在、JRAの騎手は168人だが、将来的には、「障害を含めても100人程度で十分」という状況が生まれても不思議はない。

 「若手騎手の育成をどうするのか」という声も出ている。だが、本質的な問題を見過ごしてはならない。武豊や岡部幸雄と、デビュー間もない新人が、こと進上金に関しては同じ5%なのだ。あえて「悪平等」とは言わない。ただ、この設定が若手に不利になっていることは間違いない。品質の優劣が明らかな商品が、同じ値段で売られている。この状況で、売れない商品を扱っている側が価格に手を着けないのは、全く異常と言わざるを得ない。進上金を自由化するか、格差を容認しない限り、根本的な解決は望めないだろう。

 重賞やオープンではすでに、「出走馬の決め方」が改革され、一定の成果を上げている。除外の多発する1000万、1600万条件などでも、現状を絶えず見直していく姿勢をJRAには期待したい。



 
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