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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/24)極東型競馬と生産――韓国を見て考えた
 馬券発売を伴う競馬を行っている国の競馬関係者で、売り上げが多いことを喜ばない人はいない。この観点で世界を見ると、優等生は競馬先進地域の米欧ではなく、極東地区である。一時の勢いは失われたが、なお年間3兆円を売るJRA。700万人弱の人口で1兆円の売り上げを誇る香港ジョッキークラブ(HKJC)。ここ数年で韓国馬事会(KRA)も、完全に発売優等生の仲間入りを果たした。昨年の年間売り上げは日本円で7000億円を突破。売り上げのほとんどはソウル近郊・果川市のソウル競馬場一場の開催でたたき出され、年間開催日数は93日と、日本の3分の1にも満たない。韓国の物価水準や経済力を考えれば、7000億円というのがいかに高水準かがわかる。ただ、かつての日本競馬と同様、伸び過ぎた売り上げに競馬自体の質がついて行かない危うさも伴う。しかも、競走馬生産に踏み出したことも、競馬の将来への負荷となりそうだ。先般、韓国競馬を見る機会を得たので、現況の一端を報告したい。

 【現況】筆者がソウル競馬場を訪問したのは6月15日。昨年も開催のない日に訪れたことがあり、今回が2度目となる。通常通り12競走が組まれているほか、済州島のポニー競馬1競走を場外発売する。6月は夏場に向けて、高齢馬と若駒の入れ替えが進む時期という。だが、JRAのように外部育成牧場の運用が行われておらず、競馬場だけで調教を行うため、勢い少頭数のレースが多くなるという。この日は10頭を超えたのが3競走(11、10、10)にとどまり、残る9競走は7―9頭立て。12競走中、韓国産馬限定戦が10競走、外国産馬が出走できるのは2競走。外国産馬の大半は米国やオセアニア産だが、出走経験のある日本産馬も徐々に流入している。当日は中央1勝馬のギャザリングダークが出走、3着に入っていた。

 少頭数の影響か、道中から展開がばらけ、ゴールでは大きな着差がつくレースが目についた。行儀の悪いコース取りをする騎手も散見された。ソウルの1レースの平均出走頭数は約11頭。時期によってはJRA同様、18頭立てのレースもあるという。一昨年の1競走当たりの賞金総額は514万円で、南関東のB級に匹敵する。当日は雨のため入場者は少なめだったが、2万人は大きく超えていた。場内実況はゴール前で馬名より馬番号を連呼していた(競艇の場内実況に近い)。まだ番号が走っている世界というムードが色濃い。

 出走馬を見ると、今の日本では珍しくなった400キロを割る体重の馬が多い。きゅう舎の調教技術はもちろん、日本で近年、重視されている1歳秋以降の育成・調教に対する関心もまだ高いとは言えない。それが馬の質に影響を与えているように感じられた。

 【KRAの将来展望】韓国の競馬が今後、どのような発展を遂げるかは、日本の競走馬生産界にとっても関心事となるはずだ。馬産不況の長期化を受けて、アジアに馬を売るという取り組みに本腰を入れ始めたからである。韓国は2005年に釜山競馬場が開場予定で、馬の需要増加も見込まれる。一方で、今年に入って馬券売り上げが前年比15%の減少を見ている。また、KRA主導の生産対策も行われており、市場としての可能性には未知数の点も多い。KRAの朴昌正副会長は、韓国競馬の将来像について以下のように語った。

 (業績)現在の落ち込みは消費心理の落ち込みや、カードローン規制の影響が表れたもの。入場者はそれほど落ち込んでいないが、危機感は持っている。現在の傾向が一時的なものかどうかを見極める必要があり、作業部会を設置して原因分析を行っている。

 (釜山競馬場の運営)先進国に近い、より競争的なシステムで運用する。競走馬の質は現在のソウル競馬場より一段上のレベルを目指し、外国人騎手の参加も考えている。ソウルに所属する人馬との交流も視野に入れて、競走体系の見直しも必要となる。

 (生産対策)競馬の施行の基本は畜産振興であり、まだ韓国の馬産は幼い段階。当面は保護していく。ただ、内国産馬を優遇しすぎると、逆に質が低くなることにも注意を払いたい。韓国の生産規模は速いピッチで拡大したが、その割に質が変わっていない。質の向上には、良質の繁殖牝馬の確保が必要とつくづく感じる。今後は競走でも牝馬限定戦の編成に力を入れたい。現在、国内の牧場は90カ所あるが、いずれも零細な規模で、KRAが現在果たしているような役割を代行できるかどうかは疑問がある。一方で、ここに来て過剰生産の傾向も目につくので、抑制する策を講じていきたい。

 (国際協力)生産に刺激を与える意味でも、将来的には馬の国際交流が重要と考えている。2005年のアジア競馬連盟総会(釜山開催が決定済み)に合わせ、国際化計画を公表できるよう準備中だ。

          ◇          ◇

 現在の売り上げ水準を見れば、韓国を「馬券大国」の一つに位置づけても間違いではない。ただ、香港と比較しても社会全体の競馬への関心度は決して高いとは言えない。KRAは現在、「イメージ改善チーム」を設置しており、ギャンブルへのマイナスイメージという悩みは、むしろ日本と共通しているようだ。筆者は70年代の日本の競馬を肌身で知ってはいないが、今の韓国については「30年前の日本に近い」という評価を耳にすることが多い。ただ、その70年代の日本にはハイセイコーがいた。また、今年で没後20年となる寺山修二が、健筆を振るってもいた。結局、戦前戦後に導入された優れた血統資源と、多くの文化人が競馬に関心を寄せたという事実こそが、日本の競馬にとって、計り知れない財産だったのである。

 逆に言えば、韓国の競馬は日本以上につくり込まれた、競輪や競艇に近いものと言える。こうした競馬と馬産の関係がしっくり行くかどうかは、難しい問題である。生産とは本来、種牡馬や繁殖牝馬をつくることが目標で、レースは選定の場という位置づけのはず。だが、韓国ではまだ内国産種牡馬は存在せず、つくった馬も消耗品というのが実情。「生産規模に質が追いつかない」ことにKRAは危機感を持っており、以前掲げていた「競走馬需要の75%を国産馬で賄う」という目標を、ここに来て見直す機運が生まれている。

 競馬先進国に追いつく上では、内国産と外国産が別々の競走体系で走っている現状を改めることが不可欠だろう。どの時点でこうした策が打ち出されるかが問題だが、これは"鎖国競馬"と言われた過去の日本の競馬がたどってきた道でもある。一方で、出走経験のある外国産馬は、どんな実績がある馬でも最下級条件からスタートするルールもある。今後、馬主に経済力がつくと、高額の外国産馬輸入に拍車がかかる可能性もある。零細な国内生産者に自立を促しつつ、開かれた合理的な競走体系をつくるのは容易ではない。

 日本の生産界にとって、韓国競馬の行方は一つの関心事だろう。ただ、従来も日本と韓国の間には細いながらパイプはあり、馬の行き来もあった。だが、種牡馬であれ競走馬であれ、期待通りの働きをしては来なかった。もともと価格面での競争力に問題があり、輸送費もネック。今後、韓国とのビジネスを大きな流れにするには、結果を出せる馬を送り、競争力を証明することが前提となろう。



 
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