NIKKEIデイリースポーツ サラブnet HorseRacing Info サラブnet
ホーム 重賞レース情報 重賞レース結果 最新競馬ニュース 競馬読み物 予想大会
■ 競馬読み物
  ■専門記者の競馬コラム
  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/12)長距離戦は生き残れるか?――天皇賞を見て考える
 「3319分の7」という数字が何を意味するか。すぐにわかる人は相当な“番組おたく”だろう(そんな人が本当にいるどうか、かなり疑問だが)。分母は昨年のJRAの平地競走数、分子は3000メートル以上の競走の数である。もともと“希少種”だから、ちょっとした事情でも存続が危うくなる。4日行われた第127回天皇賞・春(G1・芝3200メートル)。今年は、グレード制施行20年目に当たり、天皇賞・秋も同年、2000メートルに短縮されている。とは言え、長距離戦の地盤沈下が目についてきたのは、90年代末になってからである。天皇賞・春の出走頭数が減り始め、ここ4年は11―12頭で推移していた。

 ところが、今回は突如、18頭のフルゲートとなり、除外される馬まで出た。18頭立ては、ライスシャワーが「春」2勝目をあげた95年以来である。現在のJRAの看板を背負うシンボリクリスエス、ファインモーションの両外国産馬は、当然のように不在。G1優勝経験馬もダンツフレーム、ヒシミラクルの2頭だけで「実質G2」と酷評する向きもあった。結果はご承知の通り、ヒシミラクルが押し切り、菊花賞に続く2つ目の長距離G1タイトルを獲得した。

 レースは最近では珍しい、特異な流れだった。優勝タイム3分17秒0はごく平均的なものだが、特徴的なのは、加速がつく前の最初の200メートルが13秒0だったのを除き、13秒台のラップがなかった点である。過去10年で同じケースは、93年(ライスシャワー=3分17秒1)と、97年(マヤノトップガン=3分14秒4)があるだけだ。後者は天皇賞・春の歴代の中でも、ベストレースに数えられる名勝負だった。前半から800メートルずつ49秒7―49秒1―49秒1の揺るぎないペースで運びながら、そこから11秒台が3回続き、ゴール前も12秒0。最後の800メートルは46秒5という速さで、このレコードは今も破られていない。上位3頭の死闘は歴史に残るものだった。

 今年の流れは、どちらかと言えば93年に近い。800メートルごとに刻むと、今回は49秒0―49秒9―50秒1―48秒0。93年は49秒6―49秒5―49秒4―48秒6。93年はほとんどペースの上げ下げがなく、上下1秒の差しかない。今年は上下2秒1の幅がある半面、200メートルごとの最速ラップでも11秒7にとどまり、あとは11秒9が3回あるだけ。93年でも、残り400メートルから11秒4にテンポアップしている。古馬のG1級で11秒代前半のラップがないのも珍しい例と言える。もう一つ、注意すべき点は馬場状態の差である。京都競馬場は93年の開催を終えてから大規模な馬場改修に入り、翌年秋に完工。94年からはかなり高速化している。それ以前は、春の開催ではラチ沿いに芝がないのが常態。ライスシャワーの走破タイムは当時のレコードだった。10年を経て同じタイムというのは、退行したに等しい。

 特異な流れを演出したのは、2番手にいたタガノマイバッハである。逃げたアルアランは芝の実績が乏しく、後続が控えれば2番手以降は超スローの形になるはずだった。だが、本質的には中距離型で、先行策を身上とするタガノマイバッハは抑えが利かず、直後を追走することになった。同馬は今回、4頭いたダンスインザダーク産駒のG2勝ち馬の1頭だが、全体の流れを速めたことは、結果的に他のダンスインザダーク産駒の持ち味を殺す結果になった。

 ヒシミラクルはこの流れを馬群の外目で追走。ずっと追い通しの手応えだったが、さすがに持久力は一枚上だった。エンジンがかかって進出すると、最後まで脚色は衰えなかった。ただ、最後の800メートル48秒0は96年以降で最も遅い。切れ味のないヒシミラクルが、特異な流れに助けられて勝ったというのが正当な評価だろう。人気を背負い、自分でレースをつくったわけでもない。この流れを追走して、最後の800メートルを47秒台前半でまとめる現役馬がいるかどうかは即断できないが、いても全く不思議ではない。途中まで97年に似た流れになったことで、顔ぶれのスケールダウンを露呈した形だ。

 今回の異変は、サンデーサイレンス産駒が不在だったことだ。登録段階で除外対象とならないのがコイントス1頭で、同馬は骨折により回避した。理由は現4歳(99年産)のサンデー産駒が非常に手薄だったためで、現時点での最強馬は芝を含めてもゴールドアリュールだろう。この状況がひいては、昨年のダービー以降の3歳路線のレベルダウンを招いたとも言える。今回、菊花賞馬が面目を保ったのは、年長世代のトップクラスがほぼ姿を消し、同世代のトップが回避。しかも、数年に一度という特異な流れになったためだ。

 JRAの3000メートル以上の番組を整理すると、7つの競走はAクラスの3つ、Bクラスの4つに分けられる。Aクラスは菊花賞から大きく開いて阪神大賞典→天皇賞・春と続く。BクラスはドンカスターS→ステイヤーズS→万葉S→ダイヤモンドSの流れである。Aクラスの馬は、菊花賞と阪神大賞典の間は、ジャパンCや有馬記念を走る。毎年、Bクラスからも天皇賞路線には、かなりの参戦があるが、ほとんどは阪神大賞典の段階で、ジャパンCや有馬記念を戦ってきた馬に頭を抑えつけられる。今回が特異だったのは、Bクラスで3戦して(2)(1)(3)のダイタクバートラムが、阪神大賞典を勝ってしまったことだろう。BクラスからAクラスへの“昇格”を果たした同馬は、天皇賞・春でも単勝2倍の1番人気に推されたが3着。結局、BクラスのトップでもG1では足りないということだ(ヒシミラクルの阪神大賞典12着は、たたき台と見るべきか)。

 今回のように、メンバー構成も流れも特異なレースから、3000メートル以上の競走の今後を一般化して議論するのは、あまり適切とは言えないかも知れない。だが、トップクラスの総出演が珍しくなったレースを、競走体系の基軸に据えることに無理があることに変わりはない。今回、18頭が集まったのも、トップの空白が招いた、あだ花的な現象と見るべきだろう。頭数がそろえば馬券が売れるという経験則も裏切られた(前年比3.8%減=もちろん、例年並みの頭数なら、もっと落ちていた可能性もあり、一概には言えないが…)。

 折しも10日、昨年の年度代表馬シンボリクリスエスが美浦に戻ってきた。目標の宝塚記念まで、残り7週で仕上がるかどうか。ファインモーションも8日に栗東に帰ったが、こちらは札幌記念で押っ取り刀の復帰となりそうだ。3000メートル級のレースが、“異種格闘技”に扱われる状況は、今後も進みこそすれ覆ることはないだろう。4歳の二枚看板が1年の半分を、どこでも走らずに(調教はしているが)過ごすような競走体系は、問題があると言わざるを得ない。



 
■コラム一覧
■北海道牧場紀行
■初心者入門

  ■コラム一覧
   (1/13)クラブ法人 我が世の春?
(12/8)JCウィークの決算
(11/24)内きゅうと外きゅうの間
(11/10)「11月3日の実験」の後で
(10/27)いつまで続く「国際化」論議
(10/14)『新出走馬決定方式』のインパクト
(9/29)つぎはぎルールをシンプルに……
(9/16)"出戻り"の考察 進む地方の「植民地化」
(8/26)変容する騎手事情と裁決
(8/11)"発祥の地"を覆う改革の波
(7/28)ファーディナンドの"廃用"をめぐって
(7/14)祭りは終わった――第6回セレクトセールから
(6/24)極東型競馬と生産――韓国を見て考えた
(6/9)禁じ手に踏み出した生産対策――種付け料を債務保証
(5/26)マネーゲームは見て楽しいか?
(5/12)長距離戦は生き残れるか?――天皇賞を見て考える
(4/28)一服した除外ラッシュ――投票する側にも問題あり?
(4/14)ベットエクスチェンジの衝撃――競馬産業は生き残れるか?
(4/1)2003クラシック・プレビュー
(3/17)"農政の一環"であることの悲劇
(3/3)安藤勝騎手、中央へ――統制経済は維持された
(2/10)摩訶(まか)不思議な免許取り消し劇
(1/27)固定化した東西格差――不良資産と化した"美浦"
(1/14)年度代表馬決まる――壁を超えることへの評価
<2002年>
(12/24)2002年の終わりに―「会議は踊り、危機は深まる?」
(12/9)早田牧場の破たん――生産界の危うさを露呈
(11/25)官と民のはざまで――問われるJRAの自浄能力
(11/11)祝祭から遠く離れて――日常に埋没するニッポン競馬
(10/28)ポスト三大種牡馬の模索
(10/15)ダブル免許問題とJRA
(9/30)第二期高橋理事長体制の課題
(9/9)有馬記念日程問題が決着――JBCの行方は不透明
(8/26)ポストサンデーの日本競馬――名種牡馬の死は何をもたらすのか?
(8/19)失われた?競馬の発信力――市場の開放性高め、スターを生む環境を
(8/5)騎手、ダブルライセンスの行方――公正な競争の実現を
(7/22)活況の背後に迫る危機?――セレクトセールから
(7/8)高齢化するオープン馬――進まぬ世代交代
(6/24)供給過剰とダウンサイジング・「冬の時代」の公営競技のあり方
(6/11)番組の再検討――宝塚記念をどうするか?
(5/27)新種馬券導入とファンの変容・浸透するか馬単と3連複
(5/13)2002年ダービープレヴュー・90年代の変容を映す
(4/29)JBC発売問題――中央・地方協調時代に幕?
(4/15)馬主登録という迷宮・調教師の馬所有の是非
(4/1)内国産種牡馬の新たな波・活力見せる在来血統
(3/18)“低資質馬整理”ルールと除外問題の行方
(2/25)ダート競馬の成長・変容するニッポン競馬
(2/12)総務省勧告とウインズの行方
(1/28)高まるきゅう舎制度への風圧――預託料自由化の波紋
(1/17)伸び悩む若手騎手――背後に競馬界の構造変化
<2001年>
(12/31)競馬この1年(下)あえぐ地方競馬――経費削減いばらの道
(12/30)競馬この1年(中)若手伸び悩み――「結果第一」かからぬ声
(12/29)競馬この1年(上)海外躍進の陰で――カネかけぬ育成法探る
(12/28)地方競馬は生き残れるか?――模索すべき中央と地方の新たな関係
(12/17)“居場所”がない競馬・見送られた独立行政法人化
(12/3)世界の技量に最強馬が沈黙――固定的な騎手選びに一石
(11/19)芝・ダートの“クロスオーバー”進む
(11/5)“凡戦”菊花賞と長距離戦の行方
(10/22)田原調教師逮捕――管理競馬の限界が見えた
(10/9)待ったなしの賞金削減・主催者の裁量権行使で改革実現へ
(9/25)競走馬の耳に発信機、田原調教師の処分・管理競馬のゆがみ映す
(9/10)JRAのリストラと生産界・自立の道は遠く
(8/27)危機深まる地方競馬・自治体の責任を問う
(8/13)“ミスター競馬”の遺したもの
(7/29)横浜新税、国地方係争処理委員会の責任回避
(7/16)セレクトセールの3年・影落とす日本競馬の先行き
(7/2)宝塚記念などが国際格付けへ
(6/18)再論―馬主団体のあり方を問う
(6/4)“三冠セット論”を卒業しよう
(5/21)農水省とJRAの不可解な関係・口蹄疫問題で表面化、国際化の妨げに
(5/9)きゅう舎制度改革の行方
(4/19)東西格差ときゅう舎制度改革
(4/2)横浜新税問題、第2ラウンドへ
(3/19)サッカーくじ発売と日本のギャンブル
(3/13)危険な“血の飽和”・サンデー産駒増殖で深刻な活力低下の恐れ
(3/7)馬券と税・英は控除金廃止へ、日本では引き上げの懸念も
(3/7)際立つ欧州騎手の活躍・短期免許で日本競馬が“草刈り場”に
(2/26)「組合馬主制度」は機能するか?
(2/19)「狭き門」調教師試験・進まぬ新陳代謝、求められる“荒療治”
(2/12)芝から砂へ―日本のダート競馬の可能性
(2/8)ダート戦、マイナー扱いは時代遅れ
(2/8)日本で少ない競走馬のトレード・調教師確保がハードル
(1/31)新種馬券をめぐって―“制限”の根拠を問う
(1/22)「1歳の差」――タイムリーな満年齢表記
(1/16)問われる馬主団体のあり方・運営ゆがめるJRAの“過剰サービス”
(1/16)競馬界の「西高東低」――従業員の仕事に質の差?
(1/1)ファン不在、財政のための競馬――問題はギャンブルをめぐる不条理
<2000年>
(12/18)課税の根拠は矛盾だらけ――JRA“狙い撃ち”の「横浜新税」
(12/4)最強馬の2001年は? テイエムオペラオーの今後
(11/20)JRA“総見直し”の限界
(10/30)オペラオーと和田騎手、難コースを強気の攻略・1番人気連敗「12」で止める
(10/23)クローン名馬は夢のまた夢
<参考>国際ルール「自然交配だけ」・希少だから高額取引される種牡馬
(10/10)横浜市長の“ローブロー”・横浜場外の課税問題
(9/25)「予備登録枠」拡大は、きゅう舎間競争の促進につながるか
(9/10)名伯楽逝く・地方から中央に挑戦
(9/4)大量種付け時代の到来、人気種牡馬の経済的価値急騰・強い馬の引退などの弊害も
(5/15)世紀末に神様が与えてくれた2頭の傑物
(8/21)関東のメーン開催、低調な夏・各競馬場で高額条件馬の綱引き、北海道に資源の集約を
(8/10)女性騎手、懸命の手綱・中央競馬にわずか5人
<参考>女性騎手、偏見との戦い・「地方」では延べ43人
(8/7)出走馬選定ルールが一部変更・日常的な「除外」、「機会均等」ルールの見直しを
(7/24)実感される層の薄さ・見直すべき騎手育成のあり方
(7/11)4月誕生の馬に3億2000万・北海道の競走馬せり市
(7/10)ジョセフ・リーさん・ドバイの名馬を手がけた調教手腕を「育成牧場」で
(6/26)故障に泣いた「未完の大器」グラスワンダー
(6/12)香港発の黒船・安田記念から
(5/29)最強の騎手と調教師が連携・世界を見据える藤沢=武豊タッグ
   


著作権は日本経済新聞社またはその情報提供者、およびデイリースポーツ社に帰属します。
Copyright 2004 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.
Copyright 2003 Daily Sports, Inc., all rights reserved.