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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (4/1)2003クラシック・プレビュー
 主要競馬国のレース体系は、単純化してしまえば、その年々の2―3歳馬の中から、1年がかりでダービー馬を選んでいくプロセスの繰り返しである。ただ、欧州と異なり、一流馬の現役期間が長い部類に入る日本では、毎年つくられるチャンピオンの水準が先行世代との競い合いの中で問われていく。今年も選別の季節が近づいてきたが、単なる年中行事レベルの馬では、競馬人気の下降の流れは変わらないだろう。そんな観点から今年の行方を占ってみた。

 本題の3歳馬に入る前に、現在の4歳勢の水準に触れる。昨年の今ごろ、クラシック路線は「ハイレベル」と言われていたことをご記憶の向きも多かろう。各馬のローテーションが分かれたため、強敵と対戦しないままに勝ち続けた馬が多かった。当時からその評価には疑問を感じていたが、1年を経た今、答えが出たようだ。「ダービー上位馬以外は弱い」。困ったことに、ダービー上位馬と言っても、タニノギムレットはすでに種牡馬生活を送っている。マチカネアカツキ(3着)、メガスターダム(4着)は故障休養中で、復帰にはかなりの時間を要しそうだ。残るはシンボリクリスエスとゴールドアリュール(5着)だけ。ゴールドアリュールは今後、芝に出走するプランもあると言われ、期待されるところだが…。

 それ以外の4歳勢はふがいない。23日の阪神大賞典では、ノーリーズン、ヒシミラクルの両クラシックホースが、それぞれ5番人気と7番人気。上位人気は重賞未勝利のダイタクバートラム、コイントスで、結果も人気通りとなった。天皇賞・春への路線の軸となるべき4歳勢がこんな状況だから、皮肉なことに本番はかなり頭数が集まりそうだ。馬券の売り上げもむしろ伸びそうだ。皐月賞2着馬のタイガーカフェに至っては、2月に1000万条件にいたカナハラドラゴンに別定戦で完敗した。むしろ、クラシックと縁の薄かった馬や、後発組が、短距離・マイル路線で健闘しているのが目立つ。

 今年の場合、無傷の馬の多さゆえに「ハイレベル」とされるような美しい誤解の余地はない。逆に、期待馬が次々につまずき、混迷の度を増す流れだった。その流れはスプリングSで一応の歯止めがかかった。人気のネオユニヴァース、サクラプレジデントが1、2着を占め、後続を大きく離したことで、まずは主軸の座を確保した形だ。前者は5戦4勝で重賞2勝。唯一の敗戦もタイム差なしの3着なら、実質「無傷」と言って良い。サクラプレジデントも、重賞で(1)(2)(2)。2度の敗戦にも、出遅れ、騎手交代と一応の言い訳はつく。両馬は昨夏死亡したサンデーサイレンスの産駒。前者はチョウカイリョウガ、アグネスプラネットと全兄が活躍しており、後者もサクラナミキオー(父リズム)など、活躍馬が多い系統。その分、目新しさには欠ける。このスプリングSのタイムは1分48秒2。前年より1秒3遅いが、似たような馬場状態だった中山牝馬Sが1分46秒7。やはり前年より1秒3遅い。この部分は前年並みか。

 それ以外のステップ競走は、内容的に見るべきものに乏しい。弥生賞は良馬場の発表以上にタイムがかかる状態だったが、1000メートル59秒7のハイペースで2分2秒3は平凡。最後の600メートルが37秒9、上位5頭が0秒1差でなだれ込んだゴール前は、傑出馬不在の状況を反映していた。勝ったエイシンチャンプは、朝日杯FSでも1分33秒5を出しており、タイムより勝った事実を評価すべきか。このタイプは、実績を重ねても人気が伴わない点も記憶しておきたい。

 若葉Sは少頭数もあって63秒7―59秒4。スローペースの末脚比べで、2歳の早い時期の新馬戦を思わせる内容だった。牝馬のアドマイヤグルーヴと、1勝クラスで足踏みしていたビッグコングの接戦を、高く評価するのは危険に思う。むしろ、同じスローでも、60秒6―59秒3で2分を切った毎日杯の方が意外に収穫が多かった。勝ったタカラシャーディーは北海道・道営出身で父シャーディー。地味な要素を集めたような存在だが、中央の芝で(4)(5)(1)(2)(1)。昨年のヤマノブリザードに続く掘り出し物だった。ただ、皐月賞は回避し、ダービー一本に進む模様だ。2着ユートピアは、国際情勢悪化でUAEダービーを回避して出走したが、2度目の芝で適性を示した。こちらも距離を考えて、NHKマイルCからダート路線へ回る公算が大。クラシックの前哨戦としての意味合いは薄くなった。

 全体的には昨年と同様、賞金が分散して2勝馬の出番はなさそうだ。新馬戦のスタートを早め、3勝かそれに準ずる馬をクラシックに集めるJRAの意図通りにはなっている。ただ、そうした事情とは別に、日本の競馬からは傑出馬が出にくくなっているのではないか。馬資源が乏しい時代とは違い、今日では各馬の力は基本的に接近しているため、仕上げや騎手の技量などの小さな差が勝敗を分ける。サンデーサイレンス産駒がいくら強くても、一世代で150頭以上もいては、つぶし合いが起きても不思議はない。全体の血統レベルが上がったことで、スターが生まれにくくなり、興行的に苦境が深まるという皮肉な図式は、今年も基本的に変わっていない。

 既にサンデーサイレンスはこの世にいない。次を担う種牡馬の台頭が期待されるが、昨年来、期待されたダンスインザダークはここに来て、ザッツザプレンティ、マッキーマックスが人気を裏切るなど勢いを失った。新種牡馬タイキシャトルも好調だが、距離には限界があり、ウインクリューガー、ゴールデンキャストはNHKマイルCに回りそうだ。近年は大物の輸入種牡馬も少なく、この分だと2006年までは、サンデーサイレンスの天下が続きそうだ。

 今年、牡牝を通じて最も注目を集めるのは、もしかすると牝馬路線のアドマイヤグルーヴかも知れない。当歳時に日本競走馬協会のセレクトセールで2億3000万円。サンデーサイレンス×エアグルーヴという血統。デビュー前からの注目度という点では、世代ナンバーワンだろう。近年では、1歳時に400万ドル(約5億6000万円=当時)で取引されたケンタッキーダービー馬フサイチペガサスに近い存在と言えるか。だが、日本ではこの手の有力馬が、過去数年でも次々に出てきた。しかし、そういう馬が競馬界の枠を超えた形で話題になることは少なかった。アドマイヤグルーヴにしても、桜花賞やオークスを勝つ程度(これも実は大変なのだが)では、競馬界の内輪の話題にとどまるだろう。馬づくりの領域で、成功の方程式が半ば確立されたことが、興行としての競馬を難しくする。この厄介な問題の解決の糸口は、まるで見えていない。



 
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