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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (1/27)固定化した東西格差――不良資産と化した"美浦"
 今年は美浦トレセンが開場25周年を迎える節目の年である。1969年の栗東トレセン開場に続き、78年3月に美浦が動き始め、JRAのトレセンシステム=管理競馬は確立を見た。新世紀を迎え、競馬界もまた、大きな変化の波に洗われる中で、現行システムの功罪を検証する要請は高まっている。その作業を進める上で、最も見えやすい手がかりとなるのは、やはり両トレセン間の格差であろう。

 競馬ファンの間でも常識に類するが、JRA競馬では栗東所属馬が圧倒的な優位に立つ。以下に示す数字をどう評価するかは、見る人によって異なるだろう。ただ、評価の際に忘れてならないのは、現在のシステムが強者の手をかなり縛っていることである。

 まずは東西の勝利数比較。昨年は東1567―西1878。東は前年比でプラス11勝に対し、西はマイナス4勝。実はここ4年、関東の勝利数は1556―1567と、わずか11勝の圏内で推移している。関西にしても、きゅう務員春闘による開催中止で西の24競走が行われなかった1999年に1834勝だったが、2000年以降は1877―1882。たった5勝の枠内で動いているのだ。JRAの年間競走数は3450前後。つまり、10勝の差は年間レース数に対して0.3%程度に当たる。もはや、誤差の範囲の変化しかない。少しさかのぼって、97―2002年の東西の勝利数の変動幅を見ても、東は1538―1567、西が1834―1907で、99年を除けば1877―1907。全競走数の1%以内で固定化している。

 東西の年間勝利数が逆転したのは88年で、この年が1636対1682。ここから雪崩を打つように東西の力関係は西優位に動き、92年にはついに、西の勝利数が2051と2000の大台を突破した。その後は美浦が多少は押し返した。小倉や中京への遠征が多くなり、ある程度の結果も出たのだが、高額条件レースでの関西優位を崩すまでは行かなかった。過去4年の重賞競走の東西別勝利数を見ると、東は37―43、西が81―88で、ダブルスコアという力関係が定着している。

 もっと露骨な数字をご紹介しよう。まず昨年の東西の本賞金・付加賞の合計だが、東が294億368万円で西が383億1078万円。調教師の獲得した進上金合計は、35億7066万円対46億6327万円。きゅう務員に対する進上金はこの半額。これをきゅう舎従業員数(簡略化のため調教助手も加えた)で割ると、東は1人当たり約116万円に対し、西は約160万円。27.6%もの格差がある。こうした格差は、馬主による馬の再投資、有力騎手の騎乗馬選択、従業員自身のモティヴェーションといった様々な通路で格差を再生産していく。

 西が2000勝を超えた92年から起算して、東で48人、西で37人もの調教師が新規開業している。現在、開業している調教師は222人だから、38%が入れ替わっている。美浦の場合、115人中48人で42%も交代したのだ。過去10年以内の開業者に限って平均を取ると、勝利数は76対81。過去10年の全体の勝利数格差がほぼ4対5であるのと比べれば差は詰まっているが、焼け石に水といったところか。

 格差固定化の原因としては、高資質馬の流れのパターンがある程度、確立されたことが挙げられるだろう。JRAでは馬房数が原則として1きゅう舎20に制限されている(メリット制発動は来年)ため、巨大馬主の馬を一手に扱うことは不可能だ。そこで、生産界で独り勝ち状態の社台グループや、関係の深い馬主は東西を問わず様々なきゅう舎に馬を預ける。こうなると、信頼性が高い調教師の多い方に有力馬が集まる。調教師のモティヴェーションの高さの指標となる管理馬の頭数を見ると、美浦では8軒が50頭を超えている一方で、30頭に満たないきゅう舎が32軒に上る。うち25軒は97年以前の開業で、具体名は挙げないが高齢者が多い。栗東では50頭以上が2軒に対し、30頭以下は21軒(開業6年以上は17軒)。各きゅう舎の実力が平均化しており、どこに預けても外れが少ないのだ。

 美浦の劣位の理由を探る上では、(1)立地条件の悪さ(2)関係者のスタンスの差(3)トレセンシステム自体の欠陥――という3通りのアプローチが考えられる。まず立地の差だが、確かに否定はできない。いかなる駅、高速インターからも自動車で最低30分はかかる美浦。栗東インターから約20分で、新幹線の駅設置計画もある栗東。美浦の場合、東京や新潟とのアクセスの悪さは致命的とも言える。

 しかし、それ以上に(2)(3)の要素は大きい。一般に、同じ目的の施設をつくる場合、後発の方が優位なはずで、実際に美浦はコースを2本も持っている。ところが、栗東には関係者の創意で坂路コースが設置され、栗東の成功を見て美浦が追随した。こうしたスタンスの違いは、きゅう舎の人員配置にも現れている。よく知られているように、美浦では持ち乗りの調教助手を認めていない。美浦と栗東の労使関係の違いが遠因なのだが、歴史的な背景をたどると、関東の調教師は概して、きゅう務員労組の運動の活発化を力ずくで抑えようとしたとされる。過去の誤った対応のツケは今も残っている。実利優先の考え方が支配的な関西では、互いの利益を確保するという共通認識から、現場レベルでかなりの規制緩和が進んでいる。

 JRAとしては、「栗東はうまく行っている」ことを挙げて、トレセンシステムの欠陥を正面と向き合うことは避けたいだろう。だが、栗東の成功の最大の理由は、関東の競馬の“植民地化”に成功したことではないか。JRAの幹部職員でさえ自嘲(ちょう)気味に「ガチガチの内きゅう制」と呼ぶ閉じたシステム。その中で、栗東はたまたま比較優位に立っただけ。馬房数に合わせて調教師の定員を設定し、出走資格との完全なリンクできゅう舎を保護するシステムの欠陥が、美浦に顕著に現れたと見る方が妥当ではないか。

 本稿執筆に際し、大橋巨泉氏の「巨泉競馬界を斬る パート2」を参考にしたが、同書にはこんなエピソードが出ている。巨泉氏は開場前から美浦移転に強く反対し、開場後も美浦の問題点を次々に取り上げたが、「巨費を投じており、簡単には廃止できない」として、美浦の外きゅう化を唱えていた。ところが、ある読者が「成田空港でさえ、廃港・羽田再拡張論がある。美浦くらい何だ」という趣旨の投書を寄せたという。成田の開港も美浦とほぼ同じ、78年3月の予定だった(反対派の管制塔占拠で5月に延期)。四半世紀を経ても、使い勝手の悪さは相変わらず。アジア諸国の国際空港に、競争力で著しく劣る。最近では、羽田の国際化に向けた動きが国、自治体双方で活発化している。成田も美浦も、用地選定の不透明さ(政治家の関与も指摘された)、関係者との調整不足といった問題を抱え、競争力低下という帰結を招いた点で、実によく似ている。要するに、いくら時間がたってもダメなものはダメなのだ。

 最近、美浦の一部の調教師が坂路延伸を求めている。売り上げが好調な時期ならいざ知らず、現在では難しい。仮に30億円かかるとして、売り上げが200億円伸びないと投資効果はないことになる。こう考えると、過去の投資もどこまで実を上げていたのか、検証する必要がある。JRAという巨大組織の一部であるため、トレセンや競馬学校については、職員もきゅう舎関係者も単体でのコストと効用を比較検討する意識に乏しい。13日発行の週刊競馬ブック誌上で、山野浩一氏がトレセンの民営化を唱えているが、美浦ほどの巨大施設を独立採算で動かすためには、相当な受益者負担が求められるが、JRA丸抱えの体制に慣れ切った調教師や馬主はどう反応するか? 今や美浦は、不良資産化の道を突き進もうとしている。



 
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<参考>女性騎手、偏見との戦い・「地方」では延べ43人
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