(12/24)2002年の終わりに―「会議は踊り、危機は深まる?」
間もなく終わろうとしている2002年は、競馬界にとっては「踏んだり蹴(け)ったり」の1年だった。先日JRA報道室がまとめた今年の重要ニュース一覧を見ても、「よくもここまで」と思うほどのネガティヴリストぶり。競馬産業の直面する危機は深刻だ。
開催面ではJRAが5年連続の売り上げ減少。馬単、三連複の全国発売で、夏場に盛り返す場面もあったが、秋以降は失速した。もともと、少額で高配当を狙う“ユニクロ・マクドナルド型”のデフレ商品で、ここに来ての両社の失速を見れば、現在の流れも納得できる。現状を見て、「導入は失敗だった」と見るのは早計だ。利幅が薄いのを承知で、デフレ商品を投入しなければ、さらに客離れが進む。JRAの参加人員は横ばいで、新馬券導入の一定の効果は認めるべきだろう。地方競馬の惨状は相変わらず。今年は8月に島根・益田が廃止され、栃木・足利も今年度限りで開催を終える。
生産界も、競馬事業本体の苦境のあおりを受けている。早田牧場が11月末に破産宣告を受けたのは衝撃的な事件だったが、他にも、北海道・日高では秋以降、生産者の一家心中や有力な育成業者の失踪(しっそう)が相次いでいる。毎年1月に開かれる社台グループの繁殖牝馬セールも来年は中止。馬が売れない上、農協の融資姿勢も変わり、各生産者も牝馬の更新どころではない。かつての生産界は、社台グループ対日高という図式で語られたが、例えば社台グループの種牡馬事業にしても、日高に一定の体力があってこそ、収益も上がる。社台独り勝ちの裏で、土台は急速に崩れている。
その社台グループにしても、旗艦のサンデーサイレンスを失った痛手は大きい。ポストサンデーの期待を背負って導入されたウォーエンブレムにしても、日本での適性は未知数。生産界の現状を考えると、同グループが失敗すれば日本産馬のレベルは確実に落ちる。新たなサンデー産駒が世に出なくなる2006年はかなり先のことに思えるが、日本馬の国際競争力には、黄信号がともったと言える。
様々な難問が2003年に持ち越される中で、競馬界の外での動きも活発になった。11月14日には農水相の私的懇談会「わが国の競馬のあり方に係る有識者懇談会」が発足し、18日には第二回会合が行われた。一方、参院自民党は12日に「競馬推進議員連盟」(青木幹雄会長)をスタートさせた。ただ、両者とも今後何をしようと考えているかは、全く見えて来ない。まず前者だが、ほとんどの委員が競馬産業や関連メディアとかかわりの薄い人である。それでいて各委員は多忙というハンディを抱えており、8回の会合の後、報告書をまとめるのは来年の秋か暮れというから、悠長な話ではある。
18日の会合は8人中3人が欠席。2時間の議事の半分は、各委員が請求した大量の資料の説明に費やされ、残りの1時間でJRA本体の事業運営、特にファンサービス面について議論がかわされた。だが、JRAのファンサービスについて議論するなら、今回の各委員よりも、毎週のように馬券を購入しているごく普通のファンの方がはるかにふさわしい。また、ファンの希望があっても、様々な事情で実現が難しい施策は多いが、これらについては競馬メディア出身者の方が事情に明るいことも間違いない。例えば、東京や中山でのナイター開催が現状で困難な理由は、第一に地元住民との合意形成、他にも警察当局の了解、地方競馬との調整など挙げればキリはない。こんなことは、多少とも競馬を取材している人なら知っていて当然だが、事情を知らない委員の質問があれば、JRAはその都度、説明資料を作らされる。時間の浪費としか言いようがない。
外部委員の視点を取り入れて価値があるのは、むしろJRAや競馬界全体の組織文化の変革についてではないか。定点観測して感じることだが、JRAは確かに「会議大好き」「スローな意思決定」といった官僚機構の弊風がすっかり身に染みついている。また、競馬サークル関係者との向き合い方にも、もたれ合い的な面がある。外圧を用いてこうした欠点を改めるのは一つの策だが、そのためには外部の目がJRAや競馬界の日常に分け入り、問題点を肌で感じることが前提になる。複雑な競馬界の内情について、外部の人々が総花的に理解しただけで改革を議論しても、余り成果は期待できない。この点は、懇談会を振りつける農水省の側に問題がある。
次回からはJRAと地方競馬の関係調整が議題となるが、この問題のややこしさは並大抵ではない。農水省自体が昨年、地方競馬全国協会(NAR)をどうするかさえ、絵を描けなかった。放置すればNARの野垂れ死には近いが、筆者はそれもやむを得ないと考える。畜産助成という無駄遣いが終わるプラス面もある。裁決委員を自力で確保できないような主催者は、その時点で競馬開催の資格を欠いているが、現在、NARが抱えている裁決要員などの受け皿を経過措置として作る場合も、まず農水省OBの天下りを完全に排除し、究極までにスリム化した組織とすることが前提である。
さらに難しいのが、地方競馬の選別的な生き残りである。ここには競馬推進議連の存在も絡んで来よう。議連の母体となったのは、選挙区内に地方競馬を抱える道県の選出議員である。こうした政治力で地方救済に資金拠出を強いられる図式を、JRAは最も警戒している。競馬に相当明るいと言われる青木会長は、初会合で「地方全部の生き残りは不可能」とクギを刺したが、ではいくつ生き残れるのか? 競馬事業の構造はシンプルで、商品は馬券だけ、営業と広報・宣伝はほぼイコール。折々のキャッシュフローで競馬を運営しつつ、資産の劣化を防ぐ以外にすることはない。全主催者が赤字という現状は、全滅してもおかしくないことを意味する。JRAが一時的な救済策を取っても、個別主催者のキャッシュフローが回復しない限り、大手銀行への公的資金投入の二の舞いが関の山だ。
「生産地救済」を根拠に、成算のない地方救済策が進められる危惧(きぐ)は小さくない。日本の政治や行政の考えることが、その程度のレベルにあることは見えている。だが、生産地も地方主催者も、抱える問題は同じ。「自分の商品が売れない」ということだ。買い手のいない商品ばかり扱っている企業は、いつかは倒産する。現時点で可能なことは、落ちたとは言え、地方よりは状況の良いJRAの馬券を、地方が受託販売することくらいしか見当たらない。無論、これもJRAにプラスがあることが前提で、売り上げの何%をコミッション(地方の取り分)にするかが極めて難しいが。
農水省は11月22日、地方側主催者との会合で、競馬法改正を2004年の通常国会に提案する見通しを示したが、地方側からは「結論の出ている問題については早期の法改正を」と求める声が出された。「結論の出ている問題」とは、昨年の「地方競馬のあり方に係る研究会」で示された、JRAと地方競馬主催者間で馬券発売の受委託を可能にする懸案も含まれている。BSE問題という、およそ競馬とは無関係な問題の影響で先送りされた懸案を放置したまま、時間を空費している余裕は、今の日本の競馬にはないはずである。
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