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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/11)祝祭から遠く離れて――日常に埋没するニッポン競馬
 JRAのG1シリーズが小休止となる11月4日、盛岡競馬場で第2回JBC(ジャパン・ブリーディングファームズカップ)が行われた。G1と名のつくレースを1日で2競走行うのは、中央、地方通じてJBCだけである。舞台の盛岡は1996年に開場。内側に芝を持つ米国スタイルの本格的なコースで、JRAのローカル競馬場よりも、多様な距離のレースが実施できる。そういう舞台で行われる「地方競馬の祭典」だから、筆者も非日常的な祝祭の雰囲気を期待して現場に足を運んだが、結論から言えば期待外れだった。

 祝祭ムードが感じられなかった最大の理由は、スプリント、クラシックの両G1の出走馬が最高の顔ぶれとは言い難かったことだ。中央のゴールドアリュールも地元のトーホウエンペラーも、23日のジャパンCダートに回るため、JBCはパス。フタを開ければ、中央馬に場所を貸しただけのような結果。掲示板に入った地方馬はスプリント5着のハタノアドニス1頭に終わった。最高の顔ぶれでもなく、中央―地方対抗戦の色彩も薄いのでは、コンテンツとしての訴求力は弱い。本場入場者は約1万4800人で、96年の菊花賞を場外発売した日に及ばなかった。売り上げは21億8000万円。大井競馬場で行われた昨年の第1回に比べ、ざっと45%少ない額だった。

 盛岡競馬場生みの親でもある岩手県競馬組合の藤原正紀・前事務局長は「入場や売り上げの大きさは問題ではなく、やったことに意味がある」と話す。意義が大きいことは認めるが、余りに負担が大きいとイベント自体の存続が難しくなる。JBCで足が出ても、他でカバーできる体力を持った主催者は、今の地方競馬にはない。

 当日の10レースのうち、1つは芝の3歳限定の重賞(東日本・九州地区交流)で、あとはすべて地元馬のみのレース。これでは売り上げを伸ばすのは困難だし、何より祝祭の雰囲気にそぐわない。せめてもう2つ程度は、全国区の馬が集まるようなレースがないと苦しい気がする。JBCの当初計画には、2歳馬や牝馬のカテゴリーもあった。賞金水準を下げても、コンセプトは生かしたかった。

 最高のイベントにならなかった理由は、JRAがJCダートを創設したことだが、地方側にも問題がある。秋から2月にかけ、のべつまくなしに統一G1を並べたカレンダーの設定である。仮に力のある3歳馬なら、今年は9月23日のダービーグランプリから始まって、南部杯→JBCクラシック→JCダート→東京大賞典→川崎記念→フェブラリーSとG1を7連戦することさえ可能だ(まさか実行する馬主や調教師はいないと思うが)。これだけの選択肢があれば、JBCが優先される必然性は薄い。無秩序に統一G1を増やしすぎたことで、せっかくの祝祭も日常性に埋没してしまった。

 JRAもまた、「日常性のわな」に、がんじがらめに捕らわれている。以前、当コラムで触れた来年の有馬記念の日程問題は、12月28日の開催が今月末にも正式決定する。この場合、来年は52回ある日曜日にすべて、中央競馬が開催されることになる。ファンは無論のこと、きゅう舎関係者もメディアも休みなく競馬につき合うことになる。ここまで来ると、つき合う側も惰性に流されはしないだろうか? 業界関係者は別として、ファンは趣味や遊びとして競馬とかかわっているはず。非日常感覚を失った「遊び」のあり方には、疑問を感じずにいられない。だが、JRAも地方競馬も今や、レースがあると半ば条件反射的に馬券を買う人に支えられている。

 G1の配列もまた、惰性に依存している。96年の番組改編=G1増設で、秋は10週連続G1となった。2000年にスプリンターズSの前倒しされ、2週はG1のない日程となったが、基本線は変わっていない。近年、海外では凱旋門賞ウィーク(G16競走)や香港国際競走(G14競走)のように、大レースを集約する傾向が強く、ブリーダーズC(G18競走)やドバイW杯デー(G14競走)で生まれたワンデイイヴェントの流れが定着した。大レースを小出しにして売り上げ確保を図っている日本とは、全く対照的である。

 日本と状況が近い香港で、なぜワンデイイヴェントが可能かと言えば、香港には“馬券ファン”が多く、なじみの薄い馬が走る国際レースは、余り馬券が売れないという事情がある。どうせ売れないなら、1日にまとめて実施しても腹は痛まないのだが、これが外国馬を招く上では好条件となる。今年の香港Cには、今年の欧州王者ハイシャパラル(英愛ダービー、BCターフ優勝)が参戦する見通しだ。一昨年にJCダートを設置はしたものの、BCと香港という二つの“祝祭”に挟まれて、JCウィークはすっかり埋没した。

 メリハリなく、だらだらと続く開催の恩恵を受けるのは、馬主やきゅう舎関係者である。開催があれば賞金があるからだ。年中、大レースを組むのは不可能でも、未勝利や500万条件といった下級条件馬はあふれていて、少しでも間隔が開いた後は出馬ラッシュになる。有馬記念を12月28日に組むことには、出馬ラッシュ緩和という狙いもあるのだ。JRAの現状を見ると、ほとんど実現可能性はないが、実は筆者は競馬にもシーズンオフが必要だと考えている。現在でも、冬場に超一流馬は走らない。危険だからだ。有馬記念の日程問題は別にしても、2月くらいは休催しても良いのではないか。きゅう舎関係者の休日消化も現場では厄介な問題となっているが、シーズンオフがあれば、まとまった休暇も確保しやすい。少なくとも、JRAの年間288日の開催の相当な部分が、関係者のための競馬になってしまっている現状を、直視する必要はあるはずだ。

 祝祭という点で、もう一つ指摘したいのは、地域社会とのかかわりの薄さである。筆者は府中市に在住しているが、日本ダービーの週でも、地元挙げての盛り上がりはない。有馬記念の週の中山(船橋、市川市)も同じだろう。地域社会の側の競馬に対する不当な偏見という問題もあるが、施行者もそういう仕掛けを追求しただろうか? 一昨年のBCの際には、全米から募集した競馬の好きな中高生を、会場のチャーチルダウンズの一流馬の滞在するきゅう舎に招待する企画が実施されていた。様々な切り口から“非日常”を演出する工夫は、日常性に埋没している中からは出て来ないのか。

 今年はサッカーの日韓W杯が行われたが、こうした“祝祭の中の祝祭”では、ボランティアが運営を支えている。実際にゲームを見られなくても、参加することに喜びを感じる人が多い。別に運営にボランティアを入れれば良いと言うことではない。ただ、どれほどサッカーのイヴェントが整備されても、W杯は4年に1度。もう一度アジアで開かれるのは最短でも20年は先。イベントの希少であればこそ、多くの人の参加意欲を駆り立てるのではないだろうか。



 
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