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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (10/28)ポスト三大種牡馬の模索
 1年を振り返るにはまだ少々早い時期だが、今年の日本競馬界の最大の出来事と言えば、8月に種牡馬サンデーサイレンス(以下SS)が16歳で死亡したことだろう。本来は「日本の」というより、「世界の」競馬界の大ニュースだが、SSはそのポテンシャルとは不相応なほど、日本に囲い込まれていたため、海外の競馬界はさほどの実質的なダメージとは受け止めていないかも知れない。逆に言えば、日本だけが大きな打撃を受けたわけで、生産界がいかなる次の一手を打つかが注目された。実際、ここに来て民間と生産者団体の双方で、新種牡馬導入の動きが出ている。種牡馬の更新は年中行事だが、このタイミングでは例年と違った視線を浴びるだろう。

 主な動きを挙げると、社台グループは今年の米二冠馬ウォーエンブレムを1700万ドル(約21億2500万円)で購入した。浦河を中心とするイーストスタッドは、10月6日に凱旋門賞を勝ったばかりのマリエンバードの権利の50%を獲得。日本軽種馬協会(JBBA)は来年から、1999年の米二冠馬カリズマティック、昨年のブリーダーズカップ(BC)スプリント勝ち馬のスクワートルスクワートの供用を開始する。前者はJRAからの寄贈、後者は自ら購入した。

 社台グループにとって、今年は厄年だった。SSの前には、やはり人気の高かったエンドスウィープ、エルコンドルパサーが死亡。一昨年にはトニービンを失っており、90年代の同グループの支柱が短期間で姿を消した。そこでウォーエンブレムである。もともとは安馬。今春に頭角を現し、ケンタッキーダービーを前に、サウジアラビアのサルマン殿下に90万ドルで電撃トレードされた。ケンタッキーダービーとプリークネスSを連勝し、三冠達成が期待されたが、ベルモントSは出遅れて大敗。ラストランとなる26日のBCクラシックは勝ち馬から18馬身以上離された8着。二冠プラスBCクラシックというSSに並ぶタイトルコレクションは出来なかった。

 ウォーエンブレムの日本導入には、サルマン殿下が7月に43歳の若さで急逝したことも影響していた。殿下はアラブ首長国連邦・ドバイのモハメド殿下の後を追うように競馬に傾倒していった人で、その死が所有馬整理の機運を高めたと言える。購入原資は一説に30億円と言われるSSの保険金。編成されるシンジケートのメンバーも、SSからの横滑り組が大半と見られ、後継の期待は大きい。

 だが、日本にはすでに多くのミスタープロスペクター系種牡馬が導入されながら、成功例はアフリートとフォーティナイナーのみ。社台グループのティンバーカントリーも今一つの成績だ。後述するように、SSとトニービン、ブライアンズタイムの重しは確かに大きかったが、この系統の日本の競走体系との親和性の低さを指摘せざるを得ない。競走で最も成功したエルコンドルパサーは、母系に欧州の重厚な血を「これでもか」と言うほど補強していた。

 イーストスタッドが導入するマリエンバードは、父カーリアンに母の父ダルシャーンという配合。イーストスタッドは過去に、アイルランドのクールモアとのパイプを生かし、デインヒルやスピニングワールドなどをリースで導入した実績がある。一転して今回はモハメド殿下の「ゴドルフィン」との取引だが、ゴドルフィンも同馬をトレードで手にしていた。昨年まで長距離路線を戦っていたが、今年は中距離に路線転換して成功。凱旋門賞での2分26秒7というタイムは、日本の高速馬場への適性を感じさせる。カーリアン産駒の日本での活躍はよく知られているが、種牡馬としてはジェネラスとフサイチコンコルドで「1勝1敗」と言ったところか。シンジケート価格は1200万円×50株=6億円。これで権利の50%だから、実際の価値は10億円弱か。ゴドルフィン側がサキー級よりは落ちると考えていたためか余り高額ではなく、値ごろ感はある。

 JBBAは、JRAが購入した種牡馬の寄贈を受け、市場実勢より安い価格で供用。プールした種付け料で数年に一度、自らも種牡馬を購入している。近年の自主購入馬にはオペラハウスがいた。JRAの購入馬は元来、血統の偏りを是正する意味もあって、流行からやや外れた選択が多かった。だが、90年代以降は生産界の希望もあってか、ダンシングブレーヴやジェネラス、フォーティナイナーなどのビッグネームが目立つ。同じ種牡馬を巡って、日本の民間牧場と競合する例もあり「民業圧迫」の批判を常に背負っている。

 今回のカリズマティックはサマースコールの産駒で、クレーミング競走の出走歴もある安馬だった。価格は未公表で、1000万ドル前後と考えられる。スクワートルスクワートは、父マーケトリーからコンキスタドールシエロを経てミスタープロスペクターにつながる短距離馬。日本の競馬の短距離・ダート志向を反映した選択か。80年代前半、生産界の購買力が落ち、G1勝ち馬を買えるのがJRAだけという時期があったが、現在の不況は当時以上に深刻だ。種牡馬という核心部分をも施行者に依存する日本の馬産は全く異常だが、JBBAの安い種付け料さえ払えない生産者も少なくない。

 では、今後の日本の種牡馬事情はどう変わるのか? 10月25日現在の種牡馬別獲得賞金(JRAのみ)を見ると、SSが約53億円。以下、ブライアンズタイムとトニービンが21億円台で続き、4位アフリートで約14億円。三大種牡馬の牙城は揺らぐ気配さえない。上位3頭の供用が始まったのは89―91年にかけてである。4位以下を見ると、20位までで95年が5頭、96年が4頭。上位3頭に頭を抑えられながら、ランキング上位に入るには、最低でも5クロップ(2―6歳)程度は必要ということだ。95年、2歳と3歳の2クロップだけでリーディングに立ったSSの破壊力を改めて痛感する。

 ここに来て、ラムタラ産駒のメイショウラムセスがようやく重賞(富士S=G3)を優勝した。ラムタラ産駒の初重賞制覇は、生産界、特に日高にとっては遅すぎた。44億円などという巨大シンジケートが日本で組まれることは二度とないだろう。一方で、初産駒が今年デビューしたタイキシャトルは早くも8頭が10勝。ブレイクを予感させる。現時点では10勝すべてが芝だが、自身はユニコーンS(G3)を含めダート3戦3勝と適性は実証済みで、今後の見通しは明るい。2クロップしかないフサイチコンコルド、バブルガムフェローも、社台グループの数に支えられて30位以内に入っている。こうした日本で競走生活を送った馬から、三大種牡馬並みにブレイクする存在が現れるかどうかが、生産界の将来を左右しそうだ。



 
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