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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (9/30)第二期高橋理事長体制の課題
 JRAの高橋政行理事長(62)が、9月12日付で再任された。法令上の任期は3年だが、歴代理事長は2期目を全うしなかった例が多い。高橋理事長の場合、2年後の2004年がJRA創設50周年に当たるため、この前後が勇退の花道になる可能性がある。1期目の高橋体制の3年を回顧し、2期目の課題について考えてみたい。

 1期目、すなわち99年から2002年のJRAは、リストラとトラブルシューティングに明け暮れたといって良い。高橋理事長が就任した99年の競馬サークルで最大の出来事といえば、4月にきゅう務員春闘の交渉が決裂し、労組のスト通告により、19年ぶりに競馬開催が中止されたことだった。きゅう務員春闘で競馬が止まる事態は、80年まで半ば年中行事と化していた。その後20年近く、問題が沈静化していたのは、JRAの売り上げが右肩上がりで成長し、労組に対しても一定の経済的メリットが回ってくる状況にあったからだ。99年にスト戦術の封印が解かれたのは、前年に年間売り上げが5%減少したことを抜きには考えられない。難しい交渉相手でもカネを配りさえすれば対立を回避できる、幸せな時代の終わりだった。

 浜口氏から高橋氏への交代は唐突なものだったが、背後にはJRAと畜産行政の間合いという問題があった。競馬の建前上の存在意義が「畜産振興」とされていたこともあり、それ以前のJRAは畜産行政と一体で進んできた。だが、浜口氏は農水省時代に、旧畜産局との縁が薄く、人事面などで独自路線を進めた。その結果、農水省との間にすき間風が吹き、交代時期が早まったのは否めない。

 こうして始まった高橋体制が最初に直面したのは、単年度赤字回避という切迫した問題だった。97年に4兆円を超えた売り上げは、それ以降、平均で年1900億円のペースで落ち続け、昨年は3兆2500億円まで来た。当時、JRAの損益分岐点は3兆2000億円と言われていて、あっという間に危険ゾーンに迫った。一昨年からは「トータルコストダウン」と銘打った一連のコスト削減策が進められ、昨年度は決算段階で272億円を切り詰めた結果、昨年度の決算では剰余金(企業の利益に当たる)を298億円確保し、難を逃れた。

 この10年ほど、JRAは高コスト体質化が進んできた。91年当時には、売り上げに対する剰余金の比率が6%台を記録していた。ところが、この比率は年々落ち続けており、昨年は1%を切った。競馬場のスタンド増設や新種馬券の導入に伴うソフト開発など、投資がかさんだという事情もある。だが、いかに剰余金を多く確保しても、その半額が第二国庫納付金として吸い上げられるという設定の下では、コスト削減のインセンティブがないことも確かで、高コスト化はJRA自らが招いた側面もあった。だが、赤字転落の危機を迎えて、なりふり構わぬコスト削減にカジを切ったのである。

 ことここに至って、初めてJRAは馬主との関係の見直しに着手した。「売り上げの6%を賞金に充てる」としたJRAと馬主団体の“協定”の是非を巡って、70年代に双方の大抗争が火を噴いて以来、JRAは概して馬主には及び腰だった。幸か不幸か売り上げも伸びていたため、バラマキ的な賞金・手当が次々に拡充され、優勝劣敗とは程遠い、弱者救済色の濃い賞金体系が確立されていた。一昨年来のコスト削減で、ようやくこの聖域に徐々にメスが入る。使途の不透明さが問題となった馬主協会賞や、馬主団体のランニングコストに充てられる競走協力金などが大幅に削減された。一方、事故見舞金や特別出走手当のような露骨な弱者救済策に関しても、不十分ながら見直しが進められている。といっても、賞金・手当の総額はさほど減少してはいない。地方競馬の経営不振の反動で、JRAに登録馬が集中。出走頭数も増えれば、特別出走手当や事故見舞金も多くなる。こうした環境の下で総額を抑制するには、相当な削減幅が必要だが、馬主層の抵抗もあり、そう簡単ではない。

 コスト削減の一方で、1期目の高橋体制は外部からの様々な圧力への対処を強いられた。その最たる例が、横浜市の故高秀秀信・前市長が打ち出したウインズへの課税(勝馬投票券発売税)である。同税に対しては総務省がいったん不同意とした後、国地方係争処理委員会が不同意を取り消しており、今なお横浜市と総務省は協議中である。この税は、税制が最低限満たすべき合理性さえも欠いており、処理を任された中田宏現市長には気の毒な話だが、競馬界の外が今も、競馬をカネのなる木と誤解していることの現れである。

 総務省からも、今年1月に広範な業務の見直しを求める「勧告」が出された。勧告はJRAの高コスト化を問題視し、新規ウインズの抑制や既存施設の運営効率化などを求めた。ただ、こうしたテーマは優れて経営判断に属するもので、JRAが自ら解決するのが筋だ。財務、農水省からすれば、少々コスト高でも売り上げが増え、国庫納付金が大きくなる方が都合がよい。剰余金が多いのを良しとする総務省と、財務・農水両省の間で、十分な調整があったとは思えず、JRAに余計な労力を費やさせただけという面もある。

 2期目の高橋体制には何が求められているだろうか? 現在のJRAの抱えている問題は、大まかに3つの次元で整理できる。つまり、(1)JRAの自己責任で解決する問題(2)農水省が関与する制度問題(3)他の公営競技や賭事法制全般と関係する問題――の三段階である。番組・賞金や除外の問題、さらにファンサービスの細部は(1)に属する。(2)は現時点では、地方競馬との関係の問題に絞られるといっても過言でない。問題は(3)で、JRAの民営化論なども突き詰めて行けばここに属するし、3連単以外の新たな馬券導入を考えるに当たっても、他種競技との調整が必要になる。こう整理すると、JRAが自力のみで解決できる問題はいかに少ないかがわかる。

 (1)に属する問題では、現在進められている方向は大筋で正しいと筆者は考えている。レースの場できちんと優勝劣敗の論理を働かせる。競馬サークルの構成員との間に、合理的で第三者への説明責任を全うできるような関係を構築する。施行者が第一義的に重視すべきはファン=顧客であるという原則を外さないことに尽きる。地方競馬との関係は今後も、曲折の多いものとなろう。ただ、馬と騎手・きゅう舎関係者に、公正で開かれた競争の場を設定することが、ファンに支持され、競馬の質を向上させる道である。競馬サークルへの過剰な配慮や、狭い組織防衛意識は捨てる必要がある。

 問題は(3)だが、JRAを含めた公営競技関係団体の組織形態については、2006年3月までに一定の方向を示すことが、昨年に閣議決定されている。また、各自治体や議員レベルで進むカジノ合法化の論議は、賭事法制全体に影響を与えるだろう。現在、農水省はJRAのあり方を検討する有識者懇談会の設置を準備中だが、この懇談会に関しては、射程が(2)なのか(3)なのかがあいまいで、何を目指しているのか、非常にわかりにくい。少なくとも、(3)にかかわる問題に農水省単位で結論を出しても、実現性には疑問が残る。

 外部の議論の方向とは関係なく、競馬産業を取り巻く厳しい環境の中で、すでにJRAは民間の業者が追求しているような経営合理性を目指さざるを得ない。少なくとも、現実はともあれ、職員の頭の中は「民営化モード」に入っていることが求められている。その一方で、競馬に対する外部の不当な圧力をはね返すため、自らの立場を社会に理解させる力を高めることも、必要になっている。



 
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