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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/24)供給過剰とダウンサイジング・「冬の時代」の公営競技のあり方
 中央競馬の売り上げは今年上半期も低落傾向に歯止めがかからなかった。春季番組がすべて終了した6月9日の時点で、売り上げは前年比4.3%減。昨年は函館開催のスタートが1週早かったことを差し引いても、約4%の低下となった。こうした傾向は競馬に限ったことではなく、公営競技全体が冬の時代に入っている。

 各競技が再建策を探る中で、競輪界は昨年暮れ、一つの方向を示した。経済産業省所管の産業構造審議会車両競技部会競輪小委員会が「競輪事業の再生に向けて」と題した報告書をまとめた。多岐に渡る問題点を示した報告は、他競技の現状を見る上でも示唆に富んでいるが、目を引くのは「レースの供給過剰」との見方である。

 競輪の売り上げは2000年度が1兆3783億円で、ピークの1991年度より37%落ちている。各主催者の実質的な収支も、2000年度は91年度の4分の1に減った。ところが、開催日数は3783日と、ピーク時より4.5%削減されたに過ぎない。全国に47カ所ある競輪場は、原則として月に6日、年間で72日の開催が可能で、計算上はほとんどの場が枠を消化していたことになる。この日数を埋めるとなると、常に一流選手の集まるレースを組むことは不可能で、通常は旧A、B級選手による開催が中心となるが、これが不人気なのだ。

 今春から新たな選手の格付け制度が導入され、従来の3級(S、A、B)9斑から、2級(S、A)5班に改められたが、A級を中心とするF1、F2の開催は611のうち450が赤字だった。最も格の低いF2開催では、売り上げに対する賞金・手当の比率が13%。地方競馬でもかなり厳しい部類の主催者と肩を並べる水準である。こんな事態に招いたのは、近年の競輪ファンの動向の変化だ。電話投票や場間場外の拡大で、ひいきの有名選手が出場する特別競輪や記念競輪といった大レースを追いかける半面、地元でレースを開催していても、格の低ければ見向きもしないようになったのだ。

 これはちょうど、米国競馬でサイマルキャストが普及した状況と似通っている。サイマルキャストは、場間場外の一種だが、各競馬場が他場のレースを番組の中に取り込む。単純化すれば、2つの競馬場が5つずつレースを行い、両場が1日10レースの番組を組むような形である。この場合、全体のレース数が少なくても済むため、一時的に競走馬の需要が減り、生産頭数が落ちた時期もあった。競輪界でも、新級班制度導入に伴い、格付けの低い選手への淘汰(とうた)圧力は強まっている。今後、さらに競輪場が減ったり、各場がレース数の削減に動けば、圧力はさらに強まるだろう。要は、ファンの需要がないレースをやっても意味がないということだ。

 日本の競馬では、地方の状況がこれに近い。地方では90年代半ばから場間場外発売に力を入れてきたが、施行者が馬券を売るという大原則があるため、他場のレースを番組の中に取り込んで、レース数自体を見直すという発想は出てきていない。むしろ、内きゅう制に規定される形で、「自場の馬による自己完結したレースの実施」という建前で競馬を行っている。だが、売り上げ低下局面にあっては、現在の手法は非現実的ではないか。新陳代謝は進まず、いつも同じような顔ぶれでレースを行っている場は少なくないが、供給側の独りよがりの論理にはファンはついて来ないだろう。

 小さな競馬場がきゅう舎まで抱えて自場完結型のレースを施行するという現在の枠組みは破たんに近づいたと見るべきだろう。そこで、競馬場を維持する策として残されているのは、極力“場外売り場”に徹し、売れそうなレースの発売に特化する。自場の開催規模は最低限に抑えるとともに、コスト面を考慮して、きゅう舎は規模の大きい競馬場か外きゅうに集約する。開催日数が少なければ、希少価値は高まり、売り上げ面にもむしろプラスかも知れない。

 中央に関しては、全体として供給過剰を問題にする段階にはまだ来ていない。ただ、昨年度は赤字回避のために厳しいリストラが進められた。さらに収支が悪化すれば、コスト削減に拍車がかかる。中央の現状は、未勝利や500万条件のコストを重賞やオープンなどの収益部門で補てんしている。JRAは所属馬だけでピラミッド型の構造をつくることを追求していて、下級条件戦を減らす方向にはまだ動いていないため、当面はレース数は動かさず、賞金や手当の削減に動くことになる。昨年来、その方向は現実化している。

 競馬界がこうした方向を推し進めれば、生産のダウンサイジングは避けて通れない。ここ数年、サラブレッドの生産頭数は一時の減少傾向から底を打って微増しているが、これは各地方競馬場のアラブ競走の廃止、縮小に伴い、一部の牧場がサラブレッドに転換したためと考えられる。一昨年の軽種馬生産頭数は9062頭だったが、今年から来年にかけ、8000頭の水準をうかがう状況が予測される。注目すべきは、馬産地である北海道・日高地区の農協の融資動向である。ある生産者は「種付け料の融資が受けられないため、閑古鳥の鳴いている種馬場が多い」と話す。種付けをしても、代金が支払えなければ、産まれた馬の競走馬登録ができない。金融界はペイオフの実施で、利用者の厳しい選別にさらされている。農協にとっても対岸の火事ではなく、その影響は生産界にも及んでいる。

 90年代に外国産馬の出走制限緩和が始まった当時、生産界では約1000頭の流入を想定。これを受ける形で、競馬界でも「生産のすそ野を維持するには、8000頭の生産頭数が必要」と主張されたことがある。だが、果たして実態に即した議論だったのだろうか? すでに、外国産馬の流入は年間300頭規模で落ち着き、高額馬も減少。にもかかわらず、生産の基盤は国内の不況により自壊に向かっている。確認すべきことは、(1)馬主と競馬ファンの懐が、競馬産業のスケールを規定する(2)馬産業はリスクの高い業態で、資本力、資金管理能力がなければ生き残りは不可能――の2点である。

 馬主とファンの懐が冷え込んでいる今、開催規模も生産規模も縮小に向かうのは当然のことだ。自体を逆の方向に動かすには、どこかから競馬ファンと馬主を開拓するしかないが、これは至難の業。すでに地方競馬場の廃止というドラスティックな形で、開催規模のダウンサイジングは始まっている。生産規模の維持には、ダンピング以外に手はない。日本で競走馬をつくることの意味が問われているという認識なしに、個別生産者の生き残りも不可能である。



 
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