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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/27)新種馬券導入とファンの変容・浸透するか馬単と3連複
 今年はダービー開催終了後、福島、阪神、函館の3競馬場が一斉に夏季番組に移行。2歳新馬戦と3歳以上の混走が始まる。この時期、JRAが目玉として浸透を図っているのが馬番連単、3連勝複式という2種の新投票法である。今秋はスタンド改築のために東京競馬が休催。売り上げ面でのマイナスをどこまで補いうるかはともかく、ファンの関心を少しでも引きつけたいところだろう。すでに南関東公営では4月から、3連勝単式、3連勝複式が導入されており、3着以内までを勝馬投票の対象とする現行競馬法体制の下で、想定される9種類の投票法が完全に出そろったことになる。

 投票法を巡っては、当コラムで再三、問題にしたのが頭数制限の問題だったが、この問題は予想外に早く解決に至った。5月14日に農水省令が改正され、3連単9頭以下、3連複16頭以下という頭数制限は「農水大臣の承認があれば」撤廃できることになった。すでに、南関東では3連単が9頭以上の競走でも発売されている。制限撤廃の要件は、(1)一開催以上、当初の限定の下で発売する(2)発売したことで、著しい弊害を生じていない(3)多くのファンが制限撤廃を望んでいる――の3点である。第三の要件に関しては、大井競馬の3連単の発売実績に明確な結果が出た。大井は4月からの新年度、すでに3開催を消化。3連単は「1日2レース、9頭立て」という設定で発売したが、対象レースでのシェアは46.9%に上る。9頭立てとなれば他の投票法の妙味が薄れるとは言え、支持率は高い。

 また、制限撤廃後の浦和、川崎では毎日、後半の6レースを対象に3連単が発売されているが、5月20―24日の開催では、総売り上げ約38億2487万円のうち、3連単の売り上げは7億7781万円で2割を超えた。発売対象外の前半5レースを除くと、シェアは3割前後に上るはず。また、売り上げへの貢献も大で、川崎の場合、昨年度の同時期(5月13―17日)を18%も上回った。昨年の場合、初日がJRAと競合する日曜だったが、刺激剤になったことは確かだ。27日からは大井が制限撤廃後、最初の開催を迎える。大井の場合、重賞などに限られるが16頭立ての競走もあり、発売されれば組み合わせは3360通りに上る。本稿執筆時点で、最初の発売レース(4月8日、第8競走)で飛び出した1125420円を破る高配当はまだ出ていないが、早晩、記録は塗り替えられることになろう。

 新種馬券の導入は、競馬事業にいかなるインパクトを与えるか。大井競馬の場合、都心に近い立地でナイターを開催しているという特徴から、「もともと新規ファンの数は多い」(広報係)という。競馬へのアプローチのし方は、極力シンプルなものから入るケースと、宝くじ的な感覚で的中のハードルが高いものから入るケースの2通りだが、日本、特に地方競馬では単勝と複勝が全く不人気。そのため、地方で後者のアプローチに適した投票法は成功の可能性が高いと言えるだろう。また、相変わらず本場の売り上げシェアが高いこと、スターホースを育てる難しさなどからも、宝くじ感覚の投票法は新規ファンの来場促進策としては有力だ。ただ、「問題はリピーターになってくれるかどうか」(同)。そのためには、競馬本来の魅力もアピールすることが不可欠。10月末のナイター開催終了後は、よほど質の高い競走馬、レースをそろえない限り、平日の午後に客を呼ぶのは至難の業。むしろ、課題はそこにあるだろう。

 一方、JRAの事情は少し異なる。何しろ、まだ馬単さえ発売していないのである。JRAの新投票法は、1991年の競馬法改正で馬連が導入された後、99年秋にワイドを導入。今回は2年半ぶりで、3連複、馬単の2種を同時に導入するのは初のケースとなる。ワイドの場合、大井が8カ月先行したためか、やや鮮度が薄れた印象があり、投票法別のシェアを大きく動かすほどのインパクトはなかった。今回も3連複は組み合わせこそ多いものの、ワイドの延長線と言う面もあり、むしろ馬単の方がインパクトは大きいだろう。JRAでは2種類で計50%のシェア、うち馬単が40%を占めるとの予測をしている。日本では長く連勝複式が主力商品で、2着なら「責任を果たした」という雰囲気は競馬サークル全体にもあるが、連単のシェアが大きくなれば、こうした雰囲気が変わるかも知れない。

 JRAは概して、新投票法の導入には慎重だった。組織が大きい分、導入のコストも大きいからである。今回も2種類同時で、ソフト、ハード両面の投資額は1種類につき40億円前後と考えられる。投資効果を考えると二の足を踏まざるを得ない面もある。また、売り上げへの効果という点も、大きな期待はできない。今も売り上げが本場主体の地方なら、「新種馬券→来場促進→売り上げ増」という図式が成り立ちやすいが、場外と在宅投票が売り上げの90%以上を占めるJRAではそうは行かない。ただ、地方が先行する形で新種馬券が浸透すると、JRAのファンのニーズが高まる。また、レースは生き物で少頭数や力関係によっては、今の投票法だけでは、十分にファンの期待に応えられない場合もある。JRAにとって、新種馬券導入はリスクヘッジの色彩の方が濃いと言える。

 残った3連単に関しても、JRAは「地方の動向を見ながら」と慎重姿勢だ。最大18頭のレースで3着までを順位通り当てるのは至難の業。ふんだんな情報を頼りに、綿密な予想を組み立てるタイプの顧客には、「そこまでは」という意識が強いかも知れない。発売が始まった地方競馬場でも、4―5頭を選び、100円ずつボックスで購入する人が目立っている。オッズを見ない人も多く、結果的に配当に大きなばらつきが出る。大井での発売対象となった32レース中、上位人気馬4頭の中から1―3着が出たケースは13レースあったが、配当は1720円から33800円までの広がりがあった。

 競馬の場合、ランナーが少ない競艇や主として2―4人の「ライン」を単位に予想を組み立てる競輪と異なり、3連単のような投票法は「走るスピードくじ」のような色彩が濃くなる。「学習競馬」とまで言われる日本、特にJRAのファンが、こうした馬券を支持するかどうかは未知数だ。ただ、近年のJRAは移り気な若年層のファンの獲得に苦戦しており、顧客の高齢化が徐々に進んでいる。いずれ、3連単発売にも踏み出していく可能性は高い。その場合、「いかに競馬本体の魅力を伝え、リピーターを育てるか」という、大井が抱えているのと同じ課題と向き合うことになろう。



 
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