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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/13)2002年ダービープレヴュー・90年代の変容を映す
昨年の日本ダービーで優勝したジャングルポケット(東京・府中市の東京競馬場)
 開幕前は「まれに見るハイレベル」と言われながら、皐月賞の大波乱でにわかに「混戦」へと評価が移り変わった今年の牡馬クラシック。だが、見方を変えれば「玄人受けする」のが2002年のダービーではないか。1990年代以降の国際化と、それに連動した番組改編に対し、馬を使う側が一定の回答を示してきた。新たに生じた要素が、従来の力関係にいかなるインパクトを与えるかが興味深い。

 見た目のインパクトという点では、藤沢和雄きゅう舎の本格参入が大きい。このきゅう舎が牡馬クラシックに管理馬を送り出すのは91年皐月賞のレガシーオブゼルダ(16着)以来、11年ぶりである。ダービーに関しては、開業2年目の89年にロンドンボーイ(22着)を出走させただけだった。藤沢調教師は自著「競走馬私論」で、このダービー出走を「失敗だった」と振り返っている。クラシックという目に見える目標がある故に、馬の事情より人間の事情を優先させた無理使いをしてしまい、結果的に馬をスポイルした後悔があった。当時の経験は、このきゅう舎の「大事に使いながら心身の完成を待つ」というスタンスにも大きく影響したように思える。

 そんなきゅう舎が、今年は3ないし4頭をダービーに送るのだから、様変わりである。陣容は青葉賞を楽勝した米国産馬シンボリクリスエス、サンデーサイレンス(SS)産駒のマチカネアカツキ、北海道・道営所属時に札幌2歳Sを勝ったヤマノブリザード。SS産駒の3勝馬サスガが、現時点で4分の3の抽選を待っている。

 クラシックを意識した動きは、一昨年に現4歳世代(98年産)の有力馬を札幌でデビューさせたところから始まった。出走馬こそなかったが、今年は札幌デビューのマチカネアカツキがダービーに駒を進めようとしている。この背景には、預託頭数制限の緩和(20馬房60頭)で管理馬が増えたこともあるだろう。使える馬は使うというスタンスを取らないと、きゅう舎事情がひっ迫するのである。また、この時期は日本競走馬協会のセレクトセールで取引された馬が競走年齢に達した時期と重なっている。一昨年夏にデビューしたハッピールック、昨夏のマチカネアカツキもセール出身馬である。一方で、外国産馬へのダービー開放も生かしている。シンボリクリスエスは最近死亡したクリスエスの産駒で、シンボリ牧場の米国における生産馬。クリスエスは米国では数少ない芝長距離型種牡馬で、ダート中心の米国での活躍は期待薄だった。何やら、海外工場で国内向け製品を生産する近年の日本の産業界に似ている気がする。

 こう見ると、このきゅう舎が近年の競馬の国際化、それを受けた国内生産界の改革の波にいかに敏感に反応しているかがわかる。ただ、3歳の春に厳しいクラシックを戦うダメージという問題はなお残る。3歳時点での完成度は、きゅう舎のほか、生産・育成の技術水準とも関連する。ダービーに出走組の今後も注目される。

 今年のもう一つの特徴は、ローテーションを巡る異変である。何しろ、1番人気の可能性が高いタニノギムレットが、皐月賞―NHKマイルC―ダービーと3週おきに出走する。アーリントンCから起算すると、13週の間に重賞を5戦することになる。あのハイセイコーが73年に弥生賞、スプリングS、皐月賞、NHK杯、ダービーと12週で5戦した強行日程に近い。皐月賞出走馬で、ダービーまでに一度でも出走した馬が、ダービーでも複勝圏内に入ったのは、92年2着のライスシャワー、96年3着のメイショウジェニエと、過去10年でわずか2例。後者は皐月賞とダービーの間隔が7週間あった年だ。近年、「皐月賞はダービーの最重要トライアル」と言われ、タニノギムレットのような使い方はすっかり少数派となった。

 定石破りに出た松田国英調教師は、技術調教師時代は森秀行きゅう舎で研修。調教助手時代にはハードな調教で鳴らす山内研二きゅう舎に籍を置いていた。栗東の有力きゅう舎は概して、美浦よりも調教が厳しく、レースへの出走数も多い傾向がある。一般に、馬房数は美浦より少ないのに、栗東の方が年間の出走延頭数が多い。美浦―小倉の輸送の負担が大きい事情もあるが、馬主や調教師の実利優先の考え方も影響していると思われる。調教は馬なり主体、レースでも無理使いを避ける藤沢式の手法に対し、栗東では違和を表明する声が少なくない。タニノギムレットの強行日程も、藤沢和きゅう舎の手法との対決という構図で見ると、なかなか興味深い。同馬を含め、現時点では皐月賞出走組の11頭が次の一戦を走った。別路線に回った馬が2頭、賞金不足の馬が3頭いたが、残る6頭はダービー出走圏内にある。2週間でいかに体調を整えてくるか。

 96年に創設されたNHKマイルCの位置づけの変化も、今年の特徴と言える。内国産馬として初めて勝ったテレグノシスは、10日に杉浦宏昭調教師がダービー出走へ前向きな姿勢を示した。日本に入る外国産馬が質量ともにレベルダウンする一方、今年から皐月賞も外国産馬に開放されており、今後は同じ母集団が、クラシックを含めた3つのタイトルを奪い合う構図が成立するのではないか。この流れの中で、日本に入る外国産馬の変質が進む可能性もある。

 血統面でも、今年はなかなか多様性に富んでいる。SS産駒が後景に退き、現状では主役はブライアンズタイム産駒だが、内国産種牡馬でも2世代しか産駒のいないナリタブライアン、新種牡馬のフサイチコンコルド、マヤノトップガンのほか、ダンスインザダークやウイニングチケット、ニホンピロウイナーと多士済々。さらにタイキブリザードの産駒もいる。サクラローレル産駒のローマンエンパイアのリタイアは惜しまれるが、新種牡馬シングスピールの持ち込み馬ローエングリンが抽選を通れば、展開も引き締まるだろう。その抽選だが、3勝馬(収得賞金1750万円)がボーダーラインとなっている。混戦の影響もあるが、2歳戦を充実させてダービー出走のハードルを上げるJRAの政策の意図は実現されつつある。

 一国の根幹レースは、本来オールカマーであるべきで、日本では昨年の外国産馬への開放で、地方馬も含め、やっと最低の条件を満たした段階だ。遠からぬ将来、外国調教馬にも門戸を開く必要もある。ただ、今年に関する限り、外国産馬も地方出身馬が絡み、東西の偏りも例年ほどではなく、血統もステップも多様な点で、近年に比べ、“オールカマー”色を感じさせてくれるのである。



 
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