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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (4/1)内国産種牡馬の新たな波・活力見せる在来血統
 3月24日の高松宮記念は、サクラバクシンオー産駒のショウナンカンプ(牡4)が、3馬身半という決定的な差をつけて逃げ切り、同産駒として初のG1を制覇した。1200メートルを前半32秒9、後半35秒5のラップでカバーし、後続を寄せ付けなかった。短距離のG1競走を逃げ切るのが意外に難しいことを考えると、混戦状態だったこのカテゴリーに新たなスターが誕生したと言える。懸念された左回りを克服し、新潟施行のスプリンターズSへの展望も広がった。

 短距離、マイルといった領域は、従来は外国産馬の独壇場だった。過去5年間の1200メートル、1600メートルG1(計20戦)の勝ち馬は、1600(安田記念、マイルCS)で、外国産馬が10戦8勝で、国産馬はエアジハードが1999年に2勝しただけ。一方、1200(高松宮記念、スプリンターズS)は外国産、内国産が5勝ずつと、国産勢が健闘しており、特にここ2年は内国産馬が4連勝。その意味ではショウナンカンプの勝ちもトレンドに沿った結果だったのかも知れない。

 とは言え、今回のショウナンカンプはレース内容のインパクトも強かった。父サクラバクシンオーにとっても、短距離系種牡馬として確固たる地位を築く一戦となった。3月24日現在のJRA種牡馬ランキングで、サクラバクシンオーは4位。フジキセキを抑えて、内国産トップの座に立っている。この上にはサンデーサイレンス、ブライアンズタイム、トニービン(2000年に死亡)のいわゆる三大種牡馬がいるだけ。今年はメジロマイヤー(きさらぎ賞)で重賞初勝利。サンターナズソング(アネモネS)も、桜花賞の伏兵に挙げられるなど、供用開始から7年で実りの時期を迎えたようだ。

 サクラバクシンオーの影に隠れてはいるが、トウカイテイオーもランキングで10位に食い込んでいる。こちらは、昨年にタイキポーラ(マーメイドS=繁殖入り)で初の重賞を勝ち、今年に入ってからはトウカイポイント(せん6)が中山記念を制した。現3歳世代でもホーマンウイナーがアーリントンC2着、スプリングS4着と堅実に走り、コスモディグニティ、トウカイアローなどもクラシック出走権を争う位置にいる。現時点で牡の重賞勝ち馬は出ていないため、今後は後継種牡馬になりうる素材の出現が期待される。

 サクラバクシンオーとトウカイテイオーは1995年に、北海道・早来町の社台スタリオンステーション(以下社台SS)で種牡馬としてのスタートを切った。この年は、わずか4戦でターフを去ったフジキセキも同じスタッドに入った。今では30頭近いサンデーサイレンス二世種牡馬の第1号である。フジキセキは3世代目が競走年齢に達した2000年に、早くも7位に入ったのに対し、サクラバクシンオーは昨年が初のトップ10(9位)入り。トウカイテイオーは昨年はまだ20位だった。熟成に時間のかかる内国産種牡馬の傾向通りと言えるが、早くから結果を求められる近年の馬産業界では不利な状況である。それを克服して評価を高めていることは意義深い。

 それにしても、サクラバクシンオー、トウカイテイオーが種牡馬としての活躍は、キャリア20年以上の競馬ファンにとっては感慨深いものがあろう(筆者もその一人である)。サクラバクシンオーはサクラユタカオーをはさんでテスコボーイに、トウカイテイオーはシンボリルドルフを介してパーソロンにつながる。テスコボーイ、パーソロンは、70年代の日本の競馬をリードした大種牡馬だが、海外での評価は低く、口さがない評論家は「テスコボーイやパーソロンの産駒が活躍するのは、日本の競馬が三流である証拠」と評したものだ。シンボリルドルフ、サクラユタカオーは80年代半ばから後半にかけての活躍馬で、両馬の晩年の傑作だった。この間、ノーザンテーストやサンデーサイレンス、ブライアンズタイムなどの種牡馬が輸入され、日本馬の血統レベルは飛躍的に向上した。

 95年はサンデー第二世代のフジキセキが種牡馬入りした年で、後から考えれば、日本の生産界のターニングポイントであった。社台SSだけを見ても、その後にダンスインザダーク、バブルガムフェローなどが次々に加わり、サンデー人気もあって多い馬は年間200頭近い種付けをこなしている。種牡馬の世界は“数の論理”が強く働く。勝ち馬率やアーニングインデックスといった指標はあるが、出走馬が多ければ獲得賞金も増え、ランキングは上がる。多くの繁殖牝馬駒を集めることで、種牡馬としての生き残りは保証される。サクラバクシンオーの場合、芝、ダートを問わないタイプでイメージ以上に距離に融通が利くことが、年間100頭前後の交配数をコンスタントに確保する原動力となっていた。しかも、今年の勝ち馬率が24.4%とサンデーをもしのいでいる。高いアベレージを武器に数を確保し、それが質に結びつくという好循環に入りつつある。

 それにしても、90年代の「血統革命」後、後景に退くはずの父系が息を吹き返したのは意外である。もしかすると、国際化以前の日本の競馬は、言われるほど弱くはなかったのではないか。確かに、海外遠征馬は悲惨な成績だったが、輸送や調教技術など、人間サイドの問題が大きかった。加えて、馬に合ったレースを選ぶための情報力も欠けていた。例えば、テスコボーイの最高傑作であるトウショウボーイは、1600メートル―2000メートルの軽い芝なら海外でも通用した可能性がある。だが、同馬が古馬になってから1600メートルを走ったのは一度だけ(中山で1分33秒6のレコード勝ち)。国内でも、馬の適性より、そこにある番組を優先した使い方が当たり前の時代だった。

 もう一つ、指摘したいのは血統資源の配分の場となる種馬場の機能である。トウショウボーイは三冠馬ミスターシービーを出したものの、父系としてはそこで絶えてしまった。同馬は日高軽種馬農協に供用され、「お助けボーイ」の異名を取った。種付け権利の配分は社会主義的に行われ、多くの零細牧場を救ったが、集まった繁殖牝馬の質は低く、種牡馬としての可能性を狭まった。市場原理に任せたなら、後継種牡馬不在は避けられたのではないか。経済原則に従った運用をすれば、ポテンシャルの高い種牡馬は相応の結果を出す。サクラバクシンオーやトウカイテイオーの活躍を見ると、種馬場がきちんと資源配分の機能を果たしていることがわかる。

 日本軽種馬協会の種牡馬に関しても、90年代にようやく、繁殖牝馬の選別が始まったが、市場原理が貫徹されているわけではなく、種牡馬の能力が殺されるリスクは残っている。かつての日本が「名馬の墓場」と言われたのは、社会主義的な資源配分で、多くの種牡馬をスポイルしたのが遠因だったことは忘れるべきではない。



 
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