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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (3/18)“低資質馬整理”ルールと除外問題の行方
 競馬ファンは未勝利クラスや古馬500万条件の9着以下の馬の動向に、どの程度の関心を払っているだろうか。開催日は朝から競馬場に繰り出したり、自宅のPAT端末の前に陣取るようなヘヴィーファンはある程度の関心を持っているだろう。ただ、売上額というわかりやすい指標を見れば、それが少数派なのは明らかである。

 弥生賞の行われた3月3日の中山。1日の売り上げは188億7512万円で、うち39%に当たる73億2648万円が弥生賞1レースで占められる。10レースの1600万条件特別と、12レースの1000万条件の一般競走も20億円を超えており、売り上げの62%は最後の1時間余りの3競走に投じられている。一方、この日に5レース組まれた新馬・未勝利の売り上げはすべて5―6億円前後に収まっている。

 前置きが長くなったが、JRAは今年から未勝利や古馬500万条件の下級条件で新ルールを導入した。狙いは低資質、つまり弱い馬の整理を促すことに尽きる。具体策は大きく分けて3点ある。(1)未勝利、500万条件で3戦連続で9着以下となった場合、1カ月の出走停止とする(2)未勝利馬がタイムオーバー(勝ち馬から芝で4秒、ダートで5秒を超える着差で入線)となった場合、出走停止期間を2回目で2カ月、3回目から先は3カ月とする(3)タイムオーバーとなった馬には、特別出走手当(1カ月2戦までに限り、出走全馬に支給される)を支給しない――が骨子である。(3)については、新馬・未勝利は通常のタイムオーバーより1秒厳しい基準が適用されることになった。金銭面も含め、弱い馬の出走機会を削減、居場所を狭くすることで、早期の退きゅうを図ろうとしている。実際の効果を見ると、(1)の3戦ルールの適用を受けた馬が、3月9日の時点で100頭を超えた。東京、京都開催の終了時点で適用を受けた57頭のうち、約3分の1がJRAの馬名登録を抹消されたという。

 一連の措置の背景には、JRAの馬名登録数の増加がある。昨年から、1きゅう舎の管理頭数制限が緩和され、標準的な20馬房のきゅう舎で60頭まで管理できることになった。2月18日時点での登録数は、一昨年同時期より約12%増えた。サラブレッドの生産頭数自体は横ばいで、JRAへの一極集中が進んだ。この結果、下級条件馬が増え、年間3451レースという開催規模からオーバーフローし、出馬投票後に抽選で外れる馬も増えた。除外の数は前年比約4割増という。弱い馬の退出を促すには、諸手当を下げるか、成績で出走制限を課すしかない。JRAでは昨年来、前者も進めているが、今年からは出走制限の方も強化し、除外問題に対処している。

 最近、この問題を巡って馬主団体役員の意見を聞く機会があったが、彼らはもっぱら、「抽選での除外は公正競馬に反する」とし、1日13レースの実施をJRAに執拗(よう)に求めていく構えだ。除外問題が一時クローズアップされたのは98年。小倉の改修工事で冬場の開催日程が変わったため、一時的に出走希望馬が番組数をオーバーフローしたことが発端。抽選除外された馬は、1カ月以内は優先出走権を得られるのだが、各きゅう舎が優先権を取るための出馬投票をするようになり、特に500万条件では6回も除外されるケースが出てきた。そこで、同年秋から出馬投票の方法を改め、土日一括で受け付け、さらに、優先権のない馬を対象とした枠を各レースに5頭設定。権利確保のための投票がしにくいルールとした。これで一度は問題が沈静化したが、昨年から再燃している。

 だが、JRA、いや日本の競馬の現状を考えれば、馬主の唱えるレース数増加は、単なる馬主エゴという評価を下さざるを得ない。馬主団体は「レース数を増やせば売り上げが伸びる」と主張しているが、増えるのが未勝利戦や500万条件戦なのは、クラス別の在籍数を見れば明らかだ。JRAは昨秋から、東西のメイン競馬場の最終レースの相互発売を始め、東西とも最終レースの売り上げは大幅に伸びた。ところが、全体のパイは拡大しなかった。年間売り上げの3分の1を占める電話投票では、すでに99.5%の会員が1日で最大36レースを購入できる。場外売り場も大半は最大で1日27競走を発売している。ここまで増やしても売り上げが増加しない以上、下級条件戦を増やしても結果は見えている。しかも、現状では下級条件戦はコスト割れとなっている。馬主団体の主張は、形を変えた賞金増額要求に過ぎず、ファンサイドに立った話では決してない。

 ファンを除外問題の影響から遮断する方法はある。G1や重賞で行われているような序列づけを、下級条件でも導入するのである。獲得賞金や着順で出走馬の優先権を決める。新馬戦は一戦しか出走できないこととし、在籍馬の多い未勝利や500万条件はクラス分けを細分化。下の賞金水準は現状の半分程度に削減し、出走制限も厳格に適用する。どこで走れるかが予測可能なら、きゅう舎側も仕上げが甘くなることはなく、ファンは安心して馬券を買える。

 それにしても、昨年来の登録馬の増加からは、馬主層の大いなる誤解が読み取れる。預託枠は増えたが、レース数の総枠が増えたわけではなく、弱い馬が強くなるわけでも無論ない。稼げない馬を長く持てば、預託料が月額60万円台のJRAのこと、負担はかさむ。だが、「地方ではペイしない」と、預託料の低い地方競馬に馬がシフトする気配もない。新ルールと同時に、中央から地方に移籍した馬は、移籍先で最低1勝すればJRAに復帰できることになった。1995年から始まった認定馬制度などを含め、“JRA所属”にこだわらずに馬を動かす道は開かれている。にもかかわらず、JRAに登録馬が相変わらず一極集中するのは、賞金・諸手当の削減策が十分に実効を上げていない現れと見るべきなのかも知れない。

 現在進行中の事態は、馬を持つことの意味を鋭く問いかける。馬は趣味で、持ち出し覚悟で持つのか。それともビジネスなのか。優勝劣敗のルールを厳格に働かせれば、零細な馬主の多くが退出を迫られるが、優勝劣敗を否定することは競馬自体の否定に等しい。馬主団体は賞金・諸手当に関するJRAとの交渉のたびに、「このままでは馬主がいなくなる」とJRAにブラフをかけるという。ブラフが通じるのは、馬主登録の資格要件が厳しすぎるからだ。参入の道を広げる一方、競馬全体の低コスト化も不可欠だ。賞金、馬の価格、預託料と、すべての面でインフレ的なルールがまかり通ってきた競馬界。だが、今はそんなルールを維持できる時代ではない。



 
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