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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (2/25)ダート競馬の成長・変容するニッポン競馬
 2月の競馬、それもダートの競走にG1勝ち馬が10頭も集まる。こんな風景を、10年前に想像した人はいないだろう。日本の競馬は1990年代に、激しい変化の波にさらされたが、ダート競走の位置づけも、最も変わった部分の一つであることは間違いない。

 2月17日のフェブラリーS。16しかないゲートを埋めたのは、中央・地方のG1優勝馬10頭。うち5頭は中央でG1を勝っており、アグネスデジタル、トゥザヴィクトリー、イーグルカフェの3頭は芝のG1を勝っていた。これに、フェブラリーSの優勝経験馬2頭が加わった。一方、地方で行われる統一G1の勝ち馬も5頭。中でも、アブクマポーロ以来、南関東から久々に現れた大物トーシンブリザード(ジャパンダートダービー)、メイセイオペラの後継者となる水沢のトーホウエンペラー(東京大賞典)の地方馬が加わったことは特筆すべきである。G1昇格後5回のフェブラリーSで、地方のチャンピオン級が出走したのはメイセイオペラの2回だけ。現在の地方競馬で有力馬を輩出しているのは主に岩手、南関東、東海の3地区で、うち2地区からトップが出走したことは意義深い。

 結果はご承知の通り。国際G1勝ち馬のアグネスデジタルが検疫明けの厳しい条件を克服して快勝。2着にはトーシンブリザードが食い込んだ。以下、前年優勝馬のノボトゥルー、昨年のドバイW杯で2着に入ったトゥザヴィクトリー、トーホウエンペラーと、着順掲示板を占めたのはすべてG1勝ち馬だった。掲示板に入った中央馬はいずれも、昨年に海外遠征を経験していた。地方の2頭も、初めて経験する高速レースを克服したことは収穫と言える。ノボトゥルーのペリエ騎手が「自分の馬より強いのが2頭いた」と話したのは象徴的である。このレースの出走馬の質は年々、向上しており、前年と同程度の力を出しても勝てなくなっている。左回りが懸念されたトーホウエンペラーにしても、メイセイオペラが勝った99年の顔ぶれなら、際どい勝負になっていた可能性がある。

 もしクロフネが健在で参戦していたら、「相手が悪い」と他のレースに回る馬も出たことだろう。世界を狙う存在だったクロフネが現役を去ったのは競馬界にとって大きな痛手だが、クロフネ不在でもこれだけの質が確保された。レーティングは未発表だが、辛く見積もってもアグネスデジタルには118は与えるべきであろう。勝ち馬が118の場合、2着以下は116、115、110(牝馬で4ポンドのアローワンス)、113となる。4着までの数値を平均したレースレートは114.75となる。国際G1認定基準は115だが、今回のレースはその評価に値する水準で、外国調教馬への早期開放が望まれる。

 ダート路線の充実は、日本の競馬の底流の変化を反映している。90年代以降の国際化は、競走馬、種牡馬の流入を加速させたが、供給源は主として米国であり、必然的にダートの適性馬が多くなる。勝ったアグネスデジタルはダート専用と思われたクラフティプロスペクター産駒で、むしろ芝のG1を3勝したことの方が、日本でも驚きを持って受け止められている。輸入種牡馬の王座にあるサンデーサイレンスの産駒も、従来は芝の主流を歩む馬がほとんどだったが、トゥザヴィクトリーの後を追う馬がいずれは出るだろう。

 番組面でも統一グレード競走の設置で、トップクラスの活躍の場が広がった効果が大きい。97年に41競走で始まったが、昨年は59競走まで増えた。過去3年の中央、地方の勝利数を見ると、99年が中央40―地方10、2000年は中央40―地方13、2001年は中央46―地方13で推移している。増やしすぎた弊害もあるが、関係者の目標になるのは間違いない。新馬や未勝利ではダートの編成が多いため、適性があれば勝ち上がる機会が増える。従来は、上級の番組が少なく、ダート馬を育てるインセンティブが乏しかったが、現在はG1が9競走あり過剰に感じられるほど。活躍の場には事欠かない。

 昨年の有馬記念の出走馬が13頭にとどまり、売り上げも伸びなかったことで、JRA内部ではテコ入れ策が検討されている。「香港国際競走があるために空洞化した」との見方も公然と語られてもいる。だが、客観的に見れば、有馬記念に“実害”があったのはステイゴールド1頭。香港ヴァーズと有馬記念の勝つチャンスを比較すれば、関係者の選択は極めて理にかなっていた。他の遠征馬は2500メートルの競走への適性に大きな疑問があった。有馬記念の空洞化は芝の中長距離を軸とするJRAの競走番組と、実際に走っている馬の適性の間に、ミスマッチが生じていることの現れである。フェブラリーSの充実も、そうした日本の競馬の変容を逆側から証明する。要は短距離、ダート志向の米国型に急速に近づいているのだ。

 だが、番組にしてもファンやメディアの意識にしても、そう簡単には変化に対応できない。フェブラリーSの入場者は約75000人。売り上げも179億円。過去に入場者が10万人、売り上げが200億円に達した例もあり、不況やソルトレーク五輪の影響を考慮しても、軽く見られた感はある。フェブラリーSに限らず、後発のG1競走は、旧八大競走のような人気を得られないが、強い馬の集まったレースが関心を呼ばないのは、結果として資源の浪費につながる。

 米国の場合、ダート(メイントラック)はスタンドに近い外側、芝が内側にあるが、JRAの競馬場は逆である。来場したファンにダート戦を見せるという点で、すでにハンディがある。距離にしても1600メートルは東京のみ、基幹距離の2000メートルは中央にはない。ダート路線をプロモートするにも、思い切った策が打ちづらい中で、ファンの関心を集めるとすれば、ドバイW杯やブリーダーズCクラシックのような大レースを日本調教馬が勝つ以外になさそうだ。

 勝てなくても、メディアの注目を浴びると思われるのは、地方所属馬が海外に挑戦するケースである。フェブラリーSに出走した両地方馬の関係者は、ともに将来の海外挑戦を視野に入れている。特に、トーシンブリザードは競走面で南関東を席けんする船橋の所属で、年齢も4歳とまだ若い。世界のトップクラスと戦える馬が出れば、各地で存廃が論議されている地方競馬の存在意義を、何よりも強力にアピールできるだろう。ダービーや有馬記念は今や、季節の風物詩のような付加価値を持っているが、ダート路線にはそのような財産はなく、実力だけで価値を示していくしかないだろう。



 
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