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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (1/17)伸び悩む若手騎手――背後に競馬界の構造変化
 JRAが千葉県白井市(旧白井町)に競馬学校を設立してから、今年で20年となる。この20年、特に1990年代後半から、競馬界は激しい構造変化が進んでいる。国際化、きゅう舎事情の変化、地方競馬との交流といった大きな流れの影響は騎手育成にも及び、近年の若手騎手は、先輩が経験しなかったような厳しい環境にある。

 企業社会ではここ数年、「独り勝ちの時代」が叫ばれているが、騎手界も急速にトップへの集中化が進んでいる。昨年、初の全国リーディングの座についた蛯名正義騎手(32、美浦)の場合、特筆すべきは騎乗数で、実に年間905回。昨年は海外に出る機会がなかったこともあるが、年間104日騎乗したとしても1日平均で8.7回。除外で乗れなかった部分を加味すると途方もない数字である。

 蛯名を筆頭に、上位10人の勝ち星は1033で、JRA全レースのほぼ30%。上位20人となると48.3%でほぼ半数弱に上る。騎乗回数でも上位10人が16.6%、上位20人が30%弱を占め、寡占化が進む。これを1981年と比較すると、勝ち星の占有率は上位10人が20%弱、上位20人でも32%止まりだった。騎乗回数は上位10人で13%、上位20人でも23%しかなかった。上位10人の勝ち星が1000を超えたのは、98年に一度あるが、この時は武豊騎手が無人の野を行くように勝ち星を伸ばしていた。その武豊は2000年から米国、フランスと拠点を移しており、昨年はJRAでは65勝(13位)にとどまった。それでも、他の上位組は満遍なく勝ち星を伸ばし、大台を突破した。

 上位騎手に騎乗馬も勝ち星も集まる傾向は、きゅう舎と騎手との人間的なつながりが希薄になったことを反映している。80年代、預託料の高騰に歯止めをかけるため、JRAと馬主団体、日本調教師会の三者は「預託料問題に関する懇談会」を設置し、一きゅう舎当たりの従業員数にガイドラインを設定。管理馬6―7頭につき、騎乗スタッフ1人が基準となり、標準的な20馬房のきゅう舎では3人となった。このため、枠からはみ出した騎手がいや応なくフリー化したが、きゅう舎に所属していると支給される月々の給与がなくなり、技量が伴わないと生活は苦しくなる。こうした事情から、騎手の数は81年の256人をピークに減り始め、昨年3月1日現在で175人まで減少。大半は調教助手に転じたものと見てよいだろう。

 騎手側の事情も違ってきた。上位組の周辺には、海外なら代理人と呼ばれるような「マネジャー」が必ずと言って良いほどついている。殺到する騎乗依頼を交通整理し、騎手の意向に沿った形で優先順位をつけ、乗れなかった馬の関係者に断りを入れる。最後の一点は特に重要で、とかくしがらみの多い競馬界では、騎手が直接、断ると角が立ちやすいが、間に第三者が入ることでドライに事を運べるようになる。一方で、きゅう舎育ちでない調教師も増えており、こうした人は純粋に技量で騎手を選ぶ傾向が強い。上位騎手に馬が集中する傾向の背後には、このような事情がある。

 さらに、94年から外国人騎手の短期免許制度が発足し、翌95年には中央競馬と地方競馬の交流が一気に拡大した。昨年、外国人騎手は8人で109勝。地方騎手は15人が勝ち星を上げ、合計で115勝に上った。外国人と地方所属騎手で全レースの6%を占める。地方所属騎手で騎乗数が多いのは、主に東海、兵庫の騎手で、関西地区のきゅう舎に重用されている。騎手交流に制約が多い南関東にも人材は多く、規制緩和が行われれば、勝ち星はさらに伸びるだろう。

 こうした環境の下で、若手の伸び悩みが続いている。過去2年、デビューの年に30勝に到達した騎手は出ていない。昨年デビューの10人は64勝にとどまり、勝てなかった騎手も2人残った。過去3年にデビューした28人の中で、初年度から活躍した北村、ここに来て頭角を表しつつある二本柳の3年目2人が気を吐いている。過去2年に限ると、梶、鈴来の2人が成長の兆しを見せているが、2人の昨年の勝ち星が22勝ずつ。彼らにとっては、減量特典がなくなってから、どれだけ騎乗馬を集められるかが問題である。

 競馬学校と言えば、開校当初は柴田善、横山典、松永幹、蛯名、武豊と競馬界を背負う人材を次々に送り、その後も藤田、四位、後藤が続いた。彼らにベテラン勢を加えると、G1競走のレギュラーが出そろう印象だ。井上敏夫校長は「開校以前の養成を行っていた馬事公苑では、1日に2本の騎乗訓練をしていたが、開校後は3本に増やした。練習量の差が初期の卒業生の活躍の原動力」と話す。だが、学校卒業者が主力を占める今、練習量のアドヴァンテージはなく、実戦経験豊富な者が若手を抑えて勝ち星を重ねている。地方でも昨年は石崎隆之(船橋)が400勝を突破。岩手の菅原勲も200勝をクリアするなど、一流騎手への集中化の傾向は進んでいる。

 騎手の育成コストは高い。未熟な騎乗者に実戦並みの騎乗調教を行わせるため、次々に馬が故障する。競馬学校の場合、1人当たり年間数千万円かかる。地方競馬の場合、栃木・那須に地方競馬教養センターがその機能を担っているが、資金難のため、馬を壊さない程度の調教しかできない状況に追い込まれているという。だが、そんな窮状から一昨年の地方競馬全国協会(NAR)新人王の御神本訓史(益田)が地区のリーディング2位に浮上。昨年デビューの吉原寛人(18、金沢)が95勝を上げ、中央でも1勝した。デビュー前の練習量で劣っても、実戦経験を十分に積めば、より大きな伸びしろが期待できる。騎手の数が少ない小規模競馬場には、素質のある若手を急速に成長させる土壌がある。ただ、そこからより大きな舞台に出ていくにも、交流競走に参戦できる馬がいなければJRA参戦はできない。地方主催者間の騎手交流にも様々な制約がある。

 こうした現状を踏まえると、今後の騎手の育成には難問が多い。馬主も調教師も結果重視で、若手に経験を積ませるためにレースを“捨てる”余裕はなくなる。また、ファンの側にも、技量の高い騎手同士の競い合いを求める要請は強くなる。そこで、一般レースの減量特典を拡張するかわりに、大レースの騎乗資格を厳しくする。また、現在は一律5%の進上金を、実績に応じてランク付けするなどの策が考えられるだろう。一方、教育の場は極力、複線的であった方がよい。中央、地方だけでなく、海外で騎手のキャリアをスタートした者に対しても、技量が水準に達していれば免許を発給すべきである。日本の競馬界には、身内意識が強く、外部で育った者には極めて冷たかったが、こんなことを続けていては人材倒産の憂き目にあう。また、中央と地方、地方相互間の騎手の移動を活発にすることも欠かせない。出場機会に恵まれなければ、収入減を覚悟で機会のある別な舞台に移るのがプロの本来の姿である。騎手免許が「社員証」と化している現状は、決して正常ではない。



 
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