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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (12/17)“居場所”がない競馬・見送られた独立行政法人化
 小泉内閣が進めている特殊法人の整理合理化計画は、18日に閣議決定されるが、JRAを含む公営競技関係5法人の扱いは、“集中改革期間”とされる2005年度末まで、論議を先送りする方向が固まった。一度は独立行政法人化の観測も流れたが、後述するような多くの問題があり、また政府系金融機関、成田、関西の両国際空港の扱いといった難題の処理の方が優先度が高かったと見られる。

 公営競技関係団体が特殊法人であること自体、競馬の本質と離れた歴史の所産である。今回、JRAは他の法人と一律で論議のそ上に上げられ、一時は独立行政法人化の観測まで流れたため、改革論議の行方に強い警戒感を示した。問題は先送りされたが、日本社会の中での競馬の“居場所”がきちんと論議された形跡はなく、本質においてファン不在という公営競技の姿は変わりそうもない。

 独立行政法人とは、サッチャー政権時代の英国で、政府が直営で行っていた事業を移管する受け皿となった「エージェンシー」の方式を取り入れたものである。日本でもすでに数団体がこの形態となったが、競馬、あるいは公営競技の関係団体を移行させる上では、余りに問題が多かった。独立行政法人通則法によると、この形態の組織が担うのは「国民生活および社会経済の安定等の見地から確実に実施されることが必要な事務事業」であるとされる。いかに競馬(競輪や競艇でもよい)を愛したとて、競馬がこの定義に当てはまると考える人は少ないだろう。馬を持つのであれ、馬券を買うのであれ、やりたい人が自己責任でやるのが競馬本来の姿である。

 独立行政法人は、3―5年のスパンで中期目標を設定して所管官庁と総務省の「評価委員会」の認可を仰ぐ。中期目標を設定するとなれば、各競技の“振興”が目標となる。だが、公営競技全般に関して「現状維持」の方向を打ち出した1961年の公営競技調査会答申(長沼答申)は、今もゾンビのごとく生き残っている。公営競技関係法人の扱いが先送りされた背景には、こうした事情もあった。

 もし、公営競技団体のあり方を正面から論じようとすれば、刑法の賭博罪・富くじ罪の適用除外という問題を避けて通れない。5団体の中でも、実際に顧客と向き合い、馬券を売っているのはJRAだけである。乱暴に区分すれば、他の4団体は各主催者=自治体が得た売り上げの一部を吸い上げ、関係方面に配るのが仕事だ。

 JRAは特に収益事業の色彩が濃く、より民間色を強くするのがふさわしいことは、容易に理解できる。だが、刑法の適用除外という詭(き)弁としか言いようのない理屈は、時代に適合した経営形態を探る道をふさいでいる。刑法の適用除外とは、「普通の人がやれば犯罪となる賭博行為が、公共機関の主催ならセーフ」という理屈である。まず法の下の平等との整合性が疑われる。しかも、「公共機関だから違法でない(違法性阻却)」とのお墨つきを受けた各団体には、所管官庁のOBが天下りして来る。パチンコの換金をお目こぼししている現状では、賭博罪・富くじ罪は、高級官僚に天下りの場を提供することが最大の存在意義となっている。特殊法人改革への社会的関心の背景には、官僚の天下りに対する反発がある。だが、公営競技団体の天下り官僚は、刑法の保護を受けてアンタッチャブル。近年はキャリア官僚の不祥事が相次ぎ、資質低下が叫ばれているが、JRAも今のままでは、いずれ使い物にならない人物をリーダー(理事長)として押しつけられることになる。

 ただでさえ、競馬の置かれた状況は厳しく、組織改革やリーダーの資質が命運を左右する場合もある。にもかかわらず、大胆な改革が封じられている状況は、日本社会に、競馬(公営競技)の“居場所”がないことの証明である。特殊法人問題で小泉首相のブレーンとなっている作家の猪瀬直樹氏は、11月の政府税調でカジノ合法化を提起したが、その前に賭博罪や富くじ罪が日本社会に必要か、というカビの生えた問題に決着をつけることを訴えるべきだった。

 “居場所”に関して言えば、政府レベルで別な看過できない問題が進行している。小泉政権の「国債発行30兆円枠」という目標の達成が税収不足で危うくなり、JRAが特例法で国庫納付金の積み増しを強要されようとしている。JRAは過去3回、国庫納付金の臨時納付を押しつけらたが、売り上げが伸びている80年代で、いずれも当該年度の剰余金の範囲内だった。ところが、今年度の剰余金はは100億円前後と見られ、特別積立金の取り崩しで対応せざるを得ない見通しだ。積立金といえば、すべてキャッシュと錯覚されそうだが、実際は大半が競馬場などの固定資本に姿を変えており、JRAの手持ちの現金は2500億円程度しかない。「余力がある」と思われそうだが、内実は一般企業の運転資金である。しかも、剰余金を充てる原則だった単勝・複勝の特別給付金(配当の5%上乗せ)の先行きが、近年の売り上げ不振で怪しくなっている。続ける場合は特別積立金に手をつける以外ないが、特別納付が繰り返されれば、特別給付金廃止=実質的な控除率引き上げも現実味を帯びて来る。賭事税を廃止した英国や、馬券の控除率を引き下げた米ニューヨーク州と比べ、日本のファンがいかに粗略に扱われていることか。

 控除率の引き上げが落ち目の競馬に致命的なダメージを与えることは論をまたないが、問題はそれだけではない。すでにJRAでも利益の上がるレースは上級条件に限られてきた。民間企業なら利幅の薄い開催、レースからの撤退を考えるところだが、主催者の収支と関係なく、売り上げの10%の第一国庫納付金が入ってくる国がそれを許すだろうか。国庫に金を入れるために、主催者が赤字を背負うという転倒した構図が、現実になりつつある。新潟、中津が廃止となった地方競馬にしても、地方競馬全国協会(NAR)への交付金が重荷となっている。多くの主催者はNARから裁決委員などの派遣を受けており、その委託コストならともかく、赤字を出しながら畜産振興事業向けの交付金を出すのも、やはり転倒している。

 10年前まで、競馬は金の卵を産む鶏だったが、状況は変わった。卵を食べ続けていた国や自治体は今、絞めて肉を食べるか、肉もなければ捨てるという姿勢だ。数十年後、「日本に競馬があった」と過去形で語られる。そんな最悪の未来図は、絵空事ではない。



 
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