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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (12/3)世界の技量に最強馬が沈黙――固定的な騎手選びに一石
 馬産の世界には、「ベストトゥベスト」という言葉がある。最良の繁殖牝馬に最良の種牡馬を、と言う意味だ。近年で最も活躍したエアグルーヴには、早速サンデーサイレンスが交配された。もちろん、配合には相性があり、この考えで常に正解が導き出されるわけではない。だが、ランク付けは厳然とあり、一流の繁殖牝馬の相手に、名も知れぬ三流種牡馬が選択されることは皆無に等しい。

 だが、馬と騎手の関係になると、この論理が通用しない。過去3年ほどの中央競馬をリードした馬に乗っていたのは、一部の例外を除けば、失礼ながらセカンドクラスの騎手ばかりだった。この関係にクサビが打たれたのが11月25日のジャパンCである。現役最強馬を沈めた3歳のダービー馬の背には、主戦の角田晃一ではなく、現在の世界でも5指に入る存在、オリビエ・ペリエがいた。

 筆者はジャングルポケット=ペリエのコンビが成立した時点で、この結末を予期していた。ペリエと角田では2400メートルで何馬身違うだろう? 騎手交代を決めた斉藤四方司オーナーは「色々な人に乗ってもらうことが、馬の成長につながる」と説明したが、角田は渡辺栄調教師のまな弟子である。相当な決断であっただろう。きっちり答えを出したペリエはさすがのひと言だが、一歩踏み出して、同じ馬が勝ち続ける秩序に風穴を開けたオーナーも称賛に値しよう。

 対照的なのが、5歳の3強である。テイエムオペラオーは和田竜二しか乗っていない。ナリタトップロードは主戦・渡辺薫彦のほかに、的場均が2回。メイショウドトウは主戦が安田康彦で、それ以外は的場が2回のほか、武幸四郎(2000年日経新春杯)、河内洋(同年宝塚記念)となっている。勝ち続けたテイエムオペラオーはともかく、同じ相手に小差で負け続けたあとの2頭の関係者が、騎手交代には極めて消極的だった。引退間近だった的場が両方に乗ったのも、関係者がいずれは元に戻す腹だったためであろう。

 だが、和田や渡辺、安田康の成績が、一流馬の主戦、つまりはG1のレギュラーにふさわしかったかどうかは疑問である。和田は昨年が全国22位。安田康は56位、渡辺に至っては72位である。フルゲートが18頭とすれば、騎手も本来ならトップの18人が入るべきなのだが、3人ともその範囲には入っていないし、増して古馬の中長距離G1はめったにフルゲートにならない。結局、入ったきゅう舎の人間関係が「ベストトゥベスト」の論理より優先されている。

 テイエムオペラオーにしても、ダービーでは仕掛け早で武豊の強襲を食い、菊花賞では逆に仕掛けが遅れて馬群をさばけなかった。「武豊なら三冠だった」という声もある。その後、長きに渡ってこの馬の天下が続いたのは、ライバルのあん上もセカンドクラスだったからではないか。武豊をはじめとする有力騎手は、主として1歳下の馬に乗っていたが、幸か不幸か彼らは余りに弱かった。今年のG1でもアグネスデジタル、ゼンノエルシドの外国産馬が活躍したが、エアシャカールなどのクラシック組は記憶の彼方にいる。

 現在のトップクラスで唯一、多くの騎手の手に渡ったのがステイゴールドである。もともとは熊沢重文のお手馬だったが、デビュー2戦はペリエ。3歳時の暮れに武豊が1回、98年の天皇賞・秋で蛯名正義が乗り、昨年5月に武豊で初重賞を勝った後も、後藤浩輝、安藤勝己、藤田伸二などとコンビを組んだ。この馬は常に「何かが上にいる」タイプで、いつも武豊というわけには行かないが、関係者の苦労の跡が見える。今年3月、ドバイで勝ったG2の価値は、並みのG1を上回る。ステイゴールドは7人で49戦(うち33戦は熊沢)を経験し、最後の50戦目の香港C(G1)は武豊である。

 俗に「馬7分、騎手3分」と言われるが、G1では騎手のウェイトはもっと重い。にもかかわらず、セカンドクラスの騎手が一流馬に乗り続けるのは、主として馬主と調教師の関係にある。調教師にとって有り難い馬主とは、騎手選びに余り口をはさまず、黙って判断を受け入れるタイプだ。馬主側は複数預けている場合が多く、1頭でトラブルになると、他馬にも影響が出てくる。ある程度の結果を残しているきゅう舎には、強い態度に出にくい面もあろう。騎手交代が栗東より美浦で目につくのは、成績と無関係ではない。

 だが、こうした騎手選びは「馬本位」のあり方とはかけ離れている。騎手も命懸けの職業だが、馬の置かれた環境は騎手の比ではない。勝てなければ食肉という運命が待っている。優れた素質の持ち主でも、きゅう舎にスポイルされたり、騎手のつたない騎乗で勝機を逃していれば、“引退後”はない。ルールの範囲内で、勝つためにあらゆる方策を尽くすのは、馬に対する最低限の礼儀。人間関係のしがらみのような低次元の理由で、技量の劣る騎手を乗せ続けるなど、サラブレッドに対する冒涜(ぼうとく)に等しい。

 馬にかかわる全員が、技量の高い騎手を選ぶようになれば、一流騎手の層が問題になってくる。今年は地方騎手が104勝。外国人短期免許組も、ペリエ、デムーロの常連に今年はデザーモ、スミヨンなどが加わり、12月8日からは英国ナンバーワンのキーレン・ファロンも参戦する。年末時点では外国騎手も100勝に届きそうだ。だが、春のG1などは各国もハイシーズンで、一流どころの参戦は難しい。やはり、体の空いている地方の一流騎手には、体が空いている限りは乗ってもらわないと、18人そろえるのは非常に難しい。

 だが、注目を集めた安藤勝己騎手のJRAの騎手試験受験は、一次(学科)で不合格となった。現在、中央と地方の関係では、騎手や調教師への免許といった公権的業務の一本化が、特殊法人改革との関連で議論されている。もしJRAが狡猾(こうかつ)なら、安藤勝を合格させて一本化論を封印し、組織防衛を図ったかも知れない。いずれにせよ、中央と地方という区分けは、全く主催者本位のもので、ファンや馬を動かす側にとっては意味がない。少なくとも一定のレベルに達した騎手には、全国どこでも自由に乗れる免許を創設するのが、本来の解決策であろう。2日の阪神JFではペリエが3週連続G1優勝。JRAの現状をあざ笑うかのようである。



 
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