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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/19)芝・ダートの“クロスオーバー”進む
 今年の競馬の国際的イベントも、11月最終週のJCウィークと12月の香港国際シリーズを残すだけとなった。超一流馬の中には、すでに種牡馬入りが決まって引退する組も出ている。今シーズン、特徴的だった動きは、ひと言で言えば、芝とダート、欧州と北米のクロスオーバー化がさらに進んだことであろう。欧州の巨大オーナー主導の展開だが、日本でも同様の流れは確実に進んでいる。

 最も象徴的だったのは、ブリーダーズカップ(BC)である。今年は同時多発テロ事件のつめ跡が生々しいニューヨーク近郊のベルモントで行われたが、現在の欧州競馬を2分するクールモアとゴドルフィンの両者が、メーンイベントのクラシック(ダート2000メートル)に、文字通りエースを投入したのである。クールモアは大手ブックメーカー(かけ屋)資本を背景とし、アイルランドで広範に種牡馬事業を展開する。モンジュー(1999年凱旋門賞)の馬主である。一方のゴドルフィンは、アラブ首長国連邦・ドバイのシェイク・モハメド殿下に率いられ、80年代から欧州の競馬を席けん。現在は、世界の馬産をリードする米国の大レース制覇に全力投球している。

 クールモアが送ったのはガリレオ(父サドラーズウェルズ、母アーバンシー)。父母は欧州を代表する種牡馬と、93年凱旋門賞馬の組み合わせである。デビュー以来無傷のまま英・愛のダービーとキングジョージ(いずれも約2400メートル)を勝ち、愛チャンピオンS(約2000メートル)で、初めてファンタスティックライトに土をつけられた。2000メートルやダートを走らせたのは、種牡馬としての価値=万能性を示すのが最大の目的だった。サドラーズウェルズは欧州では比類ない存在。オペラハウス→テイエムオペラオーの成功で、日本にも橋頭保を築いており、まだ枝葉を広げていない北米制覇がかかった。

 ゴドルフィンは昨年のJC3着馬で、今年はG12勝を上げたファンタスティックライトと、凱旋門賞を圧勝したサキーを送った。現地での調教の走りを見て、ダートに向く方をクラシックに使い、一方をターフ(芝2400メートル)に振り向ける戦術だった。結局、調教でダート適性を示したサキーを急きょ、クラシックに出走させた。

 結果的に、ガリレオは好位置から勝負どころで後退して6着止まりだったが、サキーの方はゴールの瞬間まで前年の覇者ティズナウと死闘を演じて2着に惜敗した。結局、米国勢が面目を保ったものの、98年のスウェイン、昨年のジャイアンツコーズウェイに続き、欧州のチャンピオンが北米競馬の頂点に迫ったことになる。

 今年はクラシック以外にも欧州勢の活躍が目立ち、ターフをファンタスティックライトが、フィリー&メアターフ(芝約2000メートル)をバンクスヒル(仏)が勝ったが、特筆すべきはジュヴェナイル(ダート約1700メートル)をヨハネスブルグ(愛、父ヘネシー)が楽勝したことだ。この馬を管理するエイダン・オブライエン調教師はこの10月に32歳になったばかり。天才とも“競馬おたく”とも言われる。近年は「勝ち目はない」という周囲の冷ややかな視線を浴びながら、米国競馬への挑戦を続けてきた。昨年はジャイアンツコーズウェイで善戦し、今年はついにBC初勝利を上げた。これで今年G123勝目。ウェイン・ルーカス、ヴィンセント・オブライエンという米欧の伝説的な名伯楽の持つ年間G1勝利数の記録を破った。ヨハネスブルグはヘネシー(父ストームキャット)の産駒で7戦7勝。早熟の可能性はあるが、来年の米三冠の有力候補に浮上した。

 こうした動きと、日本も無縁ではない。3月のドバイW杯で日本馬として初めて2着入着を果たしたトゥザヴィクトリーは、その前のフェブラリーSが初のダート戦(3着)。しかも、盛岡、川崎で統一G1を2勝していたレギュラーメンバーをしのぐスピードを見せた。10月には芝1600メートルのG1馬クロフネが、初ダートの武蔵野S(G3・1600メートル)で1分33秒3の驚異的なレコード勝ち。翌日の天皇賞・秋では、盛岡の統一G1、南部杯を勝って出走権を確保したアグネスデジタルが、テイエムオペラオーをあっさりと破った。

 余談だが、アグネスデジタルが出走したことで、クロフネがJRAの規定により天皇賞を除外されたため、当日の東京競馬場で、アグネスデジタルの関係者にば声を浴びせる不心得な観客もいたという。これは全くの筋違いで、クロフネが除外となった責任はJRAと生産者団体にあり、批判の矛先はそちらに向けるべきである。

 本題に戻るが、世界の競馬は芝の1600、2000、2400メートルとダートの2000メートルをスタンダードとする方向に、収れんしようとしている。世界の馬産の中心が北米に移ってから久しいが、米国の血脈が世界に枝葉を伸ばしていけば、欧州にも日本にも芝・ダート兼用馬が出現するのは当然の成り行きである。今年、産駒が競走年齢に達した96年ジャパンC優勝馬シングスピール(現種牡馬)は、翌年のドバイW杯も勝ち、クロスオーバーホースの先駆けとなったが、今後はこうしたタイプの馬が年中行事のように出現するかも知れない。

 こうした馬の特性はスピードである。その点で、余りにタイムがかかりすぎる地方のダートや、小回りで直線の短いJRAの多くのコースは、スピードの検定の場としては不満がある。と言って、各主催者の財政難を考えると、競馬場の改善は望み薄なのだが。

 米国のダートレースは前半から相当なスピードが要求される。力のない馬がバテた後、強い馬が生き残るスタイルである。欧州の伝統的な長距離戦は、前半がゆったり流れるが、日本の長距離戦との決定的な違いは芝の深さで、同じスローでも消耗度はまるで違う。馬場が軽く、小回りコースの多い日本の競馬では、米国のようなレーススタイルになるのはごく自然なことである。この上、馬産が米国の影響を強く受けている現状を考えれば、前回の当コラムで触れたように、長距離戦の存立が難しくなるのはやむを得ない。世界に通用する馬を育てるには、芝・ダートを問わず、1600メートルから中距離で厳しいレースを重ねていくことが近道ではないだろうか。



 
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