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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (11/5)“凡戦”菊花賞と長距離戦の行方
 10月21日の菊花賞で人気を分けた有力馬の次戦の予定が、相次いで発表されている。当初は休養に入ると言われていた3着のエアエミネムは、ここに来て有馬記念出走の可能性が浮上している。4着のダービー馬ジャングルポケットはジャパンCへ。最後方から追い込んで5着止まりだったダンツフレームはマイルCSへ向かう。

 どこか焦点を欠いたような3頭のばらけ方は、JRAのレース体系の中で、菊花賞というレースの位置づけがぼやけてきていることの現れのような気がする。11月2日に発表されたJRAの暫定レートで、菊花賞勝ち馬のマンハッタンカフェは112。6日後の武蔵野S(G3)で衝撃的なレコード勝ちを演じたクロフネの118と比べて、不当に低い数値とは言えない。せっかく、高レベルの3歳勢を集めていながら、テンションもレベルも低いレースに終わった。

 1995年以降、菊花賞は1年おきに好レースと凡戦が交互に来ている印象がある。必ずしも、その年の世代レベルと連動していないのが面白い。レースの質を判断する材料は1000メートルごとのラップで、95年の場合、60秒9―63秒4―60秒1。真ん中の1000メートルがペースダウンするのが定番だが、この年の場合は極端にラップが落ちず、締まったレースになった。この年、先行して押し切ったマヤノトップガンは、その後も3つのG1を勝ち、世代最強の座に就いた。

 だが、96年以降は真ん中のペースダウンが著しくなる。96年が65秒1、97年に至っては66秒5。馬なりの調教のような数値である。98年は最初の1000メートルで6年ぶりに1分を切った(59秒6)セイウンスカイが逃げ切って圧勝したが、99年は64秒3―64秒6。競輪は実質600メートルのスプリントの争いだが、残り800メートルからラップが11秒台に入ったこの年の菊花賞は、限りなく競輪に近いレースだった。昨年の菊花賞は、近年でも最弱と思われる世代の争いだったが、ラップ自体は61秒5―62秒8―60秒4。意外にもまともだった。

 この数字を念頭に置いて、今年のラップを見て頂きたい。63秒0―64秒2―60秒0。逃げたマイネルデスポットが刻んだ数字だ。各馬の最後の600メートルの推定タイムを見ると、勝ったマンハッタンカフェが34秒0で、マイネルデスポットが35秒4。ゴール時点でのタイム差は0秒1だから、3―4コーナーの中間地点で、両馬の間隔は8馬身はあったことになる。比較的に早めに動いたマンハッタンカフェでもこの差だから、3番手以下にいた有力馬たちは、2000メートル地点を2分9―10秒で通過したと見られる。今年も競輪だった。

 このレースを凡戦にした張本人をあえて挙げれば、3番手にいたエアエミネムの松永幹夫騎手である。絶好の位置にいながら、後続馬の追撃を恐れて金縛り状態。勝負に出られないまま、3着に終わったのである。同馬の伊藤雄二調教師は「あれでは動けない。これが競馬」と松永幹のプレーに理解を示して見せたが、内心はどうだったか…。ジャングルポケットは向こう正面で折り合いを欠いて力をロスし、ダンツフレームは太めの影響もあったのか、最後方から何も出来ずに終わった。結局、人気薄の分、自分の競馬に徹し切れた上位2頭が、他馬の凡走に助けられて浮上したのである。

 なぜ、こんなレースになってしまったかを突き詰めると、日本で3000メートルのチャンピオンレースが続けられるのかという疑念が深まってくる。エアエミネムが絶好の位置で金縛りになった背後には、距離3000メートルへの不安があったと思われる。早めに動いて末を失うのが怖かったのだろう。父デインヒルはマイラー系種牡馬ダンチヒの産駒で、使う側も「折り合いがつくからごまかしが利くだろう」という意識で出している。伊藤雄調教師にも「適性外の距離を使っている以上、騎手を責められない」との思いがあったに違いない。

 ジャングルポケットもダンツフレームも、3000メートルが適性外なのは同じ。だから、折り合いを欠いたり、大事に乗り過ぎて勝負どころを外してしまう。8着でも“賞金”(出走奨励金)が出る制度も、消極的な乗り方を助長する。騎手の側も、3000メートルの乗り方を体で感じる機会が乏しい。そもそも3000メートルを超すレースは年間わずか7つしかないのだ。しかも、除外が相次ぐような下級条件でさえ、2000メートルを超えた途端、出走馬が激減する状況がある。これでは長距離馬など育ちようもないし、騎手側もペース判断を磨く場がない。

 では、今後どうするか? 結論から言えば、力ずくでこの状況を変え、長距離戦再興を図るべきではないと筆者は考える。世界の競馬が徐々に一つの方向に融合し、日本の馬づくりもその流れを追わざるを得なくなった結果が現状であると思うからだ。つまり、芝の1600、2000、2400メートルとダートの2000メートルが、世界の競馬のスタンダードとして確立され、3000メートル戦は特殊な領域になったということだ。英国のセントレジャー、フランスのロワイヤル・オーク賞などのG1戦に、もはや昔日の面影はない。むしろ、“注射”で長距離戦の権威を無理やり保っているのが日本の現状ではないだろうか。

 不得手な3000メートルでも馬が集まるのは、賞金体系ゆえである。今年の菊花賞は、付加賞を加えると1着1億5620万円、2着5763万円。天皇賞の1着1億3481万円、2着5380万円をいずれも上回る。強い年長世代にチャレンジするより、同世代に勝つ方が実入りが良い。この逆転現象こそ、現在の菊花賞の権威を支える源泉である。しかし、距離適性を欠いた馬と経験不足の騎手を集めて、質の高いレースを演出できるのか。今年の菊花賞のようなレースが、馬券を当てた人以外の記憶に、何ほどのものを残すかを考えるべきだ。

 日本の希少な馬資源で質の高いレースを実現するには、適切なレースに走らせることが不可欠である。菊花賞を現状のまま放置すれば、資源の適正配分に悪影響を与える。「クラシック」や「三冠」といったイメージの呪縛(じゅばく)を解くためにも、菊花賞は古馬や外国調教馬にも完全開放し、本当に適性の高い馬だけが集まる場とすべきである。もし馬が集まらなければ、それが日本の競馬の現状を反映したものと理解すれば良いのである。



 
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