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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (10/9)待ったなしの賞金削減・主催者の裁量権行使で改革実現へ
 日本でも海外でも、競馬は様々な部分で国などの規制を受けている。例えば、日本では馬券の種類は競馬法に規定され、馬券の種類によっては、競馬法施行規則で頭数による発売制限もある。主催者の裁量だけで決められる数少ない項目が競走番組と賞金である。

 賞金はレースの格を実質的に決定づけるもので、競走番組と両輪でその国の競走体系を形作る。例えば、ある国の主催者が長距離戦を根幹に据えようと考えるなら、当然、賞金も長距離に厚く、短距離やマイルに薄くする。命令的な手段によらなくても、カネの配分一つで、馬主やきゅう舎関係者を一定の方向に誘導できるのだ。

 ところが、中央競馬では主催者の裁量が十分に働いているとは言えない。賞金決定に当たっては、毎年のように馬主団体の強硬な引き上げ要求に遭い、かなりの妥協を強いられてきた。その結果、賞金・手当(競走事業費)は昨年、約1560億円に上り、質的にも優勝劣敗という競馬本来のあり方とはかけ離れた実態となっている。

 折しも、JRAは今年で4年連続の売り上げ減少という苦境にあり、あらゆる部門にわたって厳しい経費節減を迫られている。当然のごとく、賞金のあり方も見直される。作業は現在進行中だが、以下に挙げるような方向を再確認することが欠かせないと考える。

 (1)下に厚いままで良いのか?

 JRAの現在の最高賞金レースはジャパンCで、2億5000万円という世界有数の1着賞金を誇る。強い馬を集める意味からも、高額賞金は理解できる。問題はむしろ下級条件にある。最も安い3歳未勝利戦でも1着で510万円。1―5着馬に対する本賞金だけで968万円に上る。賞金の低いフランスでは、G2レベルでも1着40万フラン(約600万円)。日本の新馬戦並みの水準である。この結果、ファンの関心を集めるレースが空洞化し、未勝利戦ばかりがフルゲートといういびつな状況が生じている。最近でも、オールカマーや京都大賞典といった伝統あるG2が7頭立てで売り上げも不振なのに、新潟の未勝利戦は毎レース、除外ラッシュが続く。未勝利戦が新潟限りで終わる特殊な時期とは言え、各きゅう舎は馬房数に限りがあるため、既に勝ち星のある馬を休養させ、3歳未勝利馬を稼働させている。明らかに能力不足の馬が数多く滞留している原因の一つには、下に厚い賞金体系もある。また、馬資源のJRAへの一極集中を是正する観点からも、下級条件の賞金は見直す余地がある。

 (2)成功報酬のコンセプトから逸脱

 1560億円の競走事業費の中で、本賞金は674億円。わずか43%に過ぎない。それ以外に、内国産馬所有奨励賞、父内国産馬所有奨励賞、生産者賞、繁殖牝馬所有者賞、市場取引馬奨励賞などの生産対策的な部分や、距離割増賞、出走奨励金(6―8着馬が、1着賞金の8―6%を得られる)などがある。これらは一応、成功報酬の意味を持っているだけマシで、もっと大きな問題は特別出走手当、事故見舞金の存在だろう。特別出走手当はごく一部の例外を除き、毎レース、全出走馬に最低でも35万円が支給される。昨年は実に170億円に上った。また、レースや調教中の故障への救済措置のはずだった事故見舞金も、支払い対象が大幅に広げられ、支給額が200億円近くまでに膨れあがった。特別出走手当や事故見舞金は、優勝劣敗という原理からは決して出て来ない考えで、競争の場である競馬界にはふさわしくないものだ。傷をなめ合うような賞金体系では、強い馬を育てるインセンティブが沸かないのも当然である。

 (3)馬主との交渉のあり方

 賞金を巡っては、毎年秋に日本馬主協会連合会(JOA)の企画予算委員会とJRAが事実上の交渉を行っている。1970年代半ばには、設立間もないJRAがJOAの前身との間で交わしたとされる「6%協約」(馬券の売り上げの6%を賞金に充てる、とした)を巡って、両者間で激しい紛争があった。この争いの後、6%という数値は棚上げとなったが、売り上げの伸びに応じて賞金も増額されるという慣行は消えず、水ぶくれした賞金体系を現出させた。しかし、競馬産業全体の退潮の中で、もはやこんな慣行が続けられるはずもない。時代に合わなくなった慣行を捨てるためには、まずJRAが摩擦を恐れず、馬主との新たな関係の枠組みを提示する必要がある。競馬界が置かれた状況について、共通認識を持つための交渉なら価値はあるが、現在のやり方はそうした姿からは程遠い。

 (4)賞金ときゅう舎制度はワンセット

 賞金の減額は、馬主のバランスシートを変える。いかに趣味の世界といっても、余りに負担が大きければ、離脱者が多くなることは必至だ。地代や人件費の高い日本では、馬代金の低下するにしても限度がある。ただ、高すぎるきゅう舎関係のコストを圧縮すれば、バランスシートの悪化に、一定の歯止めをかけることは可能だ。現在は、すべてのきゅう舎が従業員1人で馬2頭を持つシステムを採っているが、これも本来は各きゅう舎の裁量に任されるべきものだろう。現在でも、比較的に賞金水準の高い地方競馬では、JRAの6割程度の預託料で馬が持てる。もし、地方のきゅう舎からのJRAへの参戦が自由になれば、馬のシフトが起こるだろう。地方競馬には馬房の埋まらない主催者が多く、受け皿はある。JRAと地方のきゅう舎が競い合うことは、強い馬づくりにも欠かせない。

 きゅう舎制度改革は、関係者の抵抗が強く、その歴史は失敗の連続だった。だが、状況は全く変わった。賞金削減を単なるコスト削減に終わらせず、きゅう舎改革や中央・地方関係の再構築に結びつける戦略をいかに描くか。そこに競馬の存亡がかかっている。



 
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