NIKKEIデイリースポーツ サラブnet HorseRacing Info サラブnet
ホーム 重賞レース情報 重賞レース結果 最新競馬ニュース 競馬読み物 予想大会
■ 競馬読み物
  ■専門記者の競馬コラム
  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (9/10)JRAのリストラと生産界・自立の道は遠く
 現役最強馬は何か、と聞かれれば、おそらく9割方の競馬ファンは「テイエムオペラオー」と答えるだろう。年内で現役を去る同馬は、すでに諸手当を含めた稼ぎが20億円を超えた。1990年代に限っても、中央競馬からは様々なタイプのスターが現れたが、テイエムオペラオーは、生産界も含めた日本の“競馬ファミリー”の産物である。生まれは浦河町。父は日本軽種馬協会の購入した種牡馬オペラハウス。1000万円で市場取引された。

 浦河、静内は馬産のメッカだったが、今日では胆振に本拠を置く社台グループに主導権を奪われた。今や、日本の生産界で自立した経営ができるのは社台グループだけ。他は、バブル経済崩壊後の馬産不況のあおりで、JRAの各種の助成事業で息をついているのが現状だが、これにも先が見えてきた。馬券の売り上げ減少でJRAは経費削減に動き出し、生産界にも波及しつつある。

 従来、JRAは実に多様な生産振興策を打ってきた。まずは賞金(競走事業費)である。馬主向けの項目は、内国産馬所有奨励賞▽父内国産馬奨励賞▽市場取引馬奨励賞の3つで、生産者向けが生産者賞と繁殖牝馬所有者賞。昨年、5項目の合計は実に約160億円に上った。この額は昨年の競走事業費の1割を超える。テイエムオペラオーの場合も、勝つたびに馬主には内国産馬所有奨励賞と市場取引馬奨励賞が支給されている。

 別に、JRAは生産育成対策予算として、今年は56億8000万円の予算を計上した。種牡馬購入と抽せん馬の購入・育成が柱で、セリ市場振興策も進めている。JRAは購入し種牡馬を日本軽種馬協会(軽協)に寄贈。軽協は低価格で生産者に提供する。プールした種付け料は、協会が数年に一度、自ら種牡馬を購入する際の原資となる。オペラハウスは軽協が自ら購入した馬だった。

 過去、JRAの種牡馬購入は、血統の偏りを防ぐ観点から、流行していない血統や、商業生産者が手を出しにくい長距離血統を意識して選んできた。だが、90年代に入ると種牡馬事業自体の生き残りを考慮して、徐々に流行の血統を導入する方向にシフトした。91年に導入されたダンシングブレーヴ(昨夏に死亡)が象徴的で、ノーザンダンサー系はそれ以前にも買われていたが、ネームヴァリューが全く違った。95年のフォーティナイナーはミスタープロスペクター系の大物。軽協自らもデヒアやタバスコキャットなどの米国流行の血を入れている。

 種牡馬事業には早くから、「民業圧迫」との強い批判が寄せられており、「社台」の故吉田善哉氏は批判派の急先ぽうだった。実際、高額の種牡馬を格安の種付け料で提供すると言う手法は、かつての米価の逆ざやと全く同じで、農政そのものだった。ダンシングブレーヴやフォーティナイナーの種付け料は300万円台に設定されたが、民間で買っていれば500万円は下らなかったはず。同じ種牡馬をJRAと民間が争った例もあった。「(自腹を切って購入するわけではない)JRAが価格をつり上げている」と批判を浴びたこともある。

 配合する牝馬の選定にも、不透明さがあった。日高の各地区のボス的な生産者が、恣意的に優先権を決める慣行が長く続き、結果的に集まる牝馬の質が低下。種牡馬の資質を十分に引き出せない弊害も現れていた。JRAは90年代半ばから改革に乗り出し、牝馬の競走成績や繁殖成績を参考に、優先順位をつけるシステムを取り入れた。一定の前進ではあるが、種牡馬事業自体が弱者保護策であり、改革で制度内部に矛盾を抱え込んだ形だ。

 抽せん馬制度にも、似たような問題がある。JRAは昨年、1歳馬106頭を購入、価格は7億5463万円に上ったが、市場で馬を買い支えたり、育成して馬主に配分することが、主催者の業務としてなじむのか、との疑念がある。抽せん馬制度には育成技術向上の目的もあるが、原資はファンの買った馬券である。本来ならば市場に出し、少しでもコストを回収する努力をすべきだろう。

 市場振興策にしても、日本競走馬協会のセレクトセールのような市場が定着した今、年間約10億円の市場取引馬奨励賞や、市場取引馬限定競走の存在意義は疑わしくなった。1億円を超える高馬が市場取引馬限定戦に出走した例は余りないが、あれば奇異に映ることだろう。

 多くの問題を抱えながら、JRAの生産対策は続いてきたが、環境はここ2、3年で激変した。来年は賞金を始め、各種経費の大幅なカットは確実な情勢だ。生産者は自立を迫られている。ところが、社台を除く生産界の現状は厳しい。種牡馬にしても、大勝負だったラムタラが目立った成果を出せず、その後は日高主導の大型シンジケートは組まれていない。JRA=軽協の種牡馬への依存度はむしろ高まっている。市場取引馬も数はバブル期より増えたが、売却率は当時の約3分の2。JRAの特典なしには、今の売り上げは維持できないだろう。

 日本の農政には、「保護漬けで日本農業の競争力をそいだ」との批判があるが、生産界とJRAの状況も実によく似ている。どの時点で独り立ちさせるかという長期的な見通しなしに、保護を続けたツケは大きかった。生産界の一部では、人件費の安い中国に拠点を移す動きもあるが、こうした自立への模索は、もっと早くに行われるべきであった。今からでも着手しなければ、馬券の売り上げ減の道連れとなるのは避けられないだろう。



 
■コラム一覧
■北海道牧場紀行
■初心者入門

  ■コラム一覧
   (3/3)安藤勝騎手、中央へ――統制経済は維持された
(2/10)摩訶(まか)不思議な免許取り消し劇
(1/27)固定化した東西格差――不良資産と化した"美浦"
(1/14)年度代表馬決まる――壁を超えることへの評価
<2002年>

(12/24)2002年の終わりに―「会議は踊り、危機は深まる?」
(12/9)早田牧場の破たん――生産界の危うさを露呈
(11/25)官と民のはざまで――問われるJRAの自浄能力
(11/11)祝祭から遠く離れて――日常に埋没するニッポン競馬
(10/28)ポスト三大種牡馬の模索
(10/15)ダブル免許問題とJRA
(9/30)第二期高橋理事長体制の課題
(9/9)有馬記念日程問題が決着――JBCの行方は不透明
(8/26)ポストサンデーの日本競馬――名種牡馬の死は何をもたらすのか?
(8/19)失われた?競馬の発信力――市場の開放性高め、スターを生む環境を
(8/5)騎手、ダブルライセンスの行方――公正な競争の実現を
(7/22)活況の背後に迫る危機?――セレクトセールから
(7/8)高齢化するオープン馬――進まぬ世代交代
(6/24)供給過剰とダウンサイジング・「冬の時代」の公営競技のあり方
(6/11)番組の再検討――宝塚記念をどうするか?
(5/27)新種馬券導入とファンの変容・浸透するか馬単と3連複
(5/13)2002年ダービープレヴュー・90年代の変容を映す
(4/29)JBC発売問題――中央・地方協調時代に幕?
(4/15)馬主登録という迷宮・調教師の馬所有の是非
(4/1)内国産種牡馬の新たな波・活力見せる在来血統
(3/18)“低資質馬整理”ルールと除外問題の行方
(2/25)ダート競馬の成長・変容するニッポン競馬
(2/12)総務省勧告とウインズの行方
(1/28)高まるきゅう舎制度への風圧――預託料自由化の波紋
(1/17)伸び悩む若手騎手――背後に競馬界の構造変化
<2001年>

(12/31)競馬この1年(下)あえぐ地方競馬――経費削減いばらの道
(12/30)競馬この1年(中)若手伸び悩み――「結果第一」かからぬ声
(12/29)競馬この1年(上)海外躍進の陰で――カネかけぬ育成法探る
(12/28)地方競馬は生き残れるか?――模索すべき中央と地方の新たな関係
(12/17)“居場所”がない競馬・見送られた独立行政法人化
(12/3)世界の技量に最強馬が沈黙――固定的な騎手選びに一石
(11/19)芝・ダートの“クロスオーバー”進む
(11/5)“凡戦”菊花賞と長距離戦の行方
(10/22)田原調教師逮捕――管理競馬の限界が見えた
(10/9)待ったなしの賞金削減・主催者の裁量権行使で改革実現へ
(9/25)競走馬の耳に発信機、田原調教師の処分・管理競馬のゆがみ映す
(9/10)JRAのリストラと生産界・自立の道は遠く
(8/27)危機深まる地方競馬・自治体の責任を問う
(8/13)“ミスター競馬”の遺したもの
(7/29)横浜新税、国地方係争処理委員会の責任回避
(7/16)セレクトセールの3年・影落とす日本競馬の先行き
(7/2)宝塚記念などが国際格付けへ
(6/18)再論―馬主団体のあり方を問う
(6/4)“三冠セット論”を卒業しよう
(5/21)農水省とJRAの不可解な関係・口蹄疫問題で表面化、国際化の妨げに
(5/9)きゅう舎制度改革の行方
(4/19)東西格差ときゅう舎制度改革
(4/2)横浜新税問題、第2ラウンドへ
(3/19)サッカーくじ発売と日本のギャンブル
(3/13)危険な“血の飽和”・サンデー産駒増殖で深刻な活力低下の恐れ
(3/7)馬券と税・英は控除金廃止へ、日本では引き上げの懸念も
(3/7)際立つ欧州騎手の活躍・短期免許で日本競馬が“草刈り場”に
(2/26)「組合馬主制度」は機能するか?
(2/19)「狭き門」調教師試験・進まぬ新陳代謝、求められる“荒療治”
(2/12)芝から砂へ―日本のダート競馬の可能性
(2/8)ダート戦、マイナー扱いは時代遅れ
(2/8)日本で少ない競走馬のトレード・調教師確保がハードル
(1/31)新種馬券をめぐって―“制限”の根拠を問う
(1/22)「1歳の差」――タイムリーな満年齢表記
(1/16)問われる馬主団体のあり方・運営ゆがめるJRAの“過剰サービス”
(1/16)競馬界の「西高東低」――従業員の仕事に質の差?
(1/1)ファン不在、財政のための競馬――問題はギャンブルをめぐる不条理
<2000年>

(12/18)課税の根拠は矛盾だらけ――JRA“狙い撃ち”の「横浜新税」
(12/4)最強馬の2001年は? テイエムオペラオーの今後
(11/20)JRA“総見直し”の限界
(10/30)オペラオーと和田騎手、難コースを強気の攻略・1番人気連敗「12」で止める
(10/23)クローン名馬は夢のまた夢
<参考>国際ルール「自然交配だけ」・希少だから高額取引される種牡馬
(10/10)横浜市長の“ローブロー”・横浜場外の課税問題
(9/25)「予備登録枠」拡大は、きゅう舎間競争の促進につながるか
(9/10)名伯楽逝く・地方から中央に挑戦
(9/4)大量種付け時代の到来、人気種牡馬の経済的価値急騰・強い馬の引退などの弊害も
(5/15)世紀末に神様が与えてくれた2頭の傑物
(8/21)関東のメーン開催、低調な夏・各競馬場で高額条件馬の綱引き、北海道に資源の集約を
(8/10)女性騎手、懸命の手綱・中央競馬にわずか5人
<参考>女性騎手、偏見との戦い・「地方」では延べ43人
(8/7)出走馬選定ルールが一部変更・日常的な「除外」、「機会均等」ルールの見直しを
(7/24)実感される層の薄さ・見直すべき騎手育成のあり方
(7/11)4月誕生の馬に3億2000万・北海道の競走馬せり市
(7/10)ジョセフ・リーさん・ドバイの名馬を手がけた調教手腕を「育成牧場」で
(6/26)故障に泣いた「未完の大器」グラスワンダー
(6/12)香港発の黒船・安田記念から
(5/29)最強の騎手と調教師が連携・世界を見据える藤沢=武豊タッグ
   


著作権は日本経済新聞社またはその情報提供者、およびデイリースポーツ社に帰属します。
Copyright 2003 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.
Copyright 2003 Daily Sports, Inc., all rights reserved.