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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (7/29)横浜新税、国地方係争処理委員会の責任回避
 横浜市の「勝馬投票券発売税」に対し、総務省が同意せず、これを不服とした市側が、「国地方係争処理委員会」(委員長、塩野宏・東亜大通信制教授)に審査を申し立てていた問題で、同委員会は24日、双方に協議再開を勧告。事態は混迷の度を深めている。条例議決から7カ月以上を経て、決着に至らなかったのは、同委員会が自ら当否を決断せず、責任回避と言うべき勧告を出したためである。しかも、勧告の内容は矛盾だらけだ。

 勝馬投票券発売税は地方税法でいう「法定外普通税」に該当し、総務大臣の同意があれば導入できるとされている。同意しない条件は3つだが、今回は「国の経済施策に照らして適当でない」か否かが争点となった。総務省が3月、同税に不同意の決定をした際のロジックは、以下のようなものだ。(1)中央競馬は畜産振興や社会福祉事業振興のため、財政資金を確保する目的で、JRAが独占的に行っている。従って国の経済施策に当たる(2)課税を認めた場合、他の自治体の追随が予想される。この場合、JRAの国庫納付金の配分に影響が生じるため、合理的な理由がない限り、課税は不適当だ(3)「(JRAが)直接、地域住民の生活向上を図るものではない」とする横浜市側の説明では、合理的理由とは認められない――。この判断の当否が、同委員会で審査された。

 以下、勧告の重大な問題点について検討したい。

 【自治体と総務省の協議の性格】勧告では、横浜市と総務省が「互いに建前を貫こうとしたためか、真の意味での協議がなされたとは言い難い」としている。端的に言えば、労使間の賃上げ交渉のような話し合いをしなさいと、双方に求めているのだ。だが、総務省と横浜市が協議に入った時点で、すでに課税を定めた条例は議決されており、協議で条例が改変される事態を、双方とも想定していなかった。当たり前の話で、市議会の議決は重いからだ。密室の協議で、議決された条例の内容を改めれば、議会軽視の批判は免れない。本来、こうしたすり合わせは、条例案を議会に提出する前に行っておくべきものだ。高秀秀信市長の課税構想表明から、昨年12月の市議会まで5カ月以上もあり、この間には実質的な“協議”も行われていた。旧自治省は「この内容では同意は無理」という姿勢を示したのに、横浜市は強行突破を図った。こうした経緯から、総務省が「白黒をつける」というスタンスで問題に臨んだのは当然で、「協議で妥協点を探れ」とする同委員会の姿勢は全く的外れだ。

 【“常識”を判断基準に加えるか】数ある公共法人の中で、JRAのみを納税義務者とした今回の課税が、税の常識を踏み外したものであることは論をまたない。だが、地方税法では、総務省が同意か否かを判断する際の基準に、こうした“常識”を組み込んではいない。それ自体、法の不備と言える。総務省は今回、課税が国の経済政策に影響を与える以上、「合理的な課税の理由がなければ、同意できない」との論理で、法の不備を補おうとした。今回、同意すれば、特定の個人や法人を狙い撃ちした嫌がらせ的な課税がまかり通ることになる。自治体性善説という暗黙の前提が覆ったため、総務省自らが歯止めをかける以外に、選択枝がなくなったのだ。

 だが、同委員会は総務省に対し、再協議では「特別の負担を求めるべき合理的理由」を、判断基準から外すよう求めている。理由は「課税自主権尊重」の一点だが、一方で勧告の最後では、「勝馬投票券発売税は(中略)極めて特殊、例外的な税である。地方公共団体は、住民と正面から向き合って自らの責任と負担で施策を進めることが本来の地方分権の趣旨であり、このような観点から見た場合、(中略)果たして望ましいものであったか疑問」とする総務省側の見解に同調して見せている。総務省には「常識を無視して判断しなさい」と勧告しながら、委員会本体としては常識論に理解を示す。問題を先送りし、関係者に時間を空費させながら、自分だけ「良い子」でいようという姿勢は見苦しいと言うほかない。政府税制調査会の石弘光会長も同税を「税制としては筋が悪い」とした上で、適否の判断を避けたことを「責任回避」と批判したと伝えられる。確かに今回の勧告は、委員会の存在意義を疑わせるに十分である。

 【今後の展開は?】勧告は、再協議の方向性を示唆している。(1)他の自治体が追随しても、財政資金確保に影響しないような税率の設定(2)赤字決算の場合に非課税とする――などの改正を行えば同意もあり得る、との考えが言外にのぞいている。だが、これもJRAを始めとする公営競技の現状への無理解をさらしたものだ。地方競馬はバタバタと倒れ、JRAも赤字決算回避に奔走している。黙っていれば国や自治体にカネが落ちる時代は終わったのだ。個別、JRAを見ても、経費節減策の影響で、開催日に発行されるレーシングプログラムは減ページとなり、PR誌も廃刊された。新たな税負担はファンに悪影響を与えることは確実で、考慮の余地はない。

 だが、今回の勧告を受けて、課税を示唆していた東京都文京区などが、横浜市とは異なる案を総務省に示してくる可能性は十分ある。危険はむしろ高まったのだ。競馬、公営競技の収益配分(収益が出ること自体、もはや自明ではないが)の現状は絶対ではなく、改革を論議する余地はある。だが、現在の課税構想は、自治体の“不労所得”狙いに過ぎない。ファン不在の予算分捕り合戦であり、決して競馬界が容認できるものではない。



 
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