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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (7/16)セレクトセールの3年・影落とす日本競馬の先行き
 1998年の第1回から高額馬が相次いで出現し、“1億円セール”として、競馬界に地歩を築いた日本競走馬協会の「セレクトセール」が、9、10の両日、北海道苫小牧市で開かれた。第1回で取引された当歳馬が3歳春のクラシックを終え、コストパフォーマンスが明らかになった今年は、有力バイヤーの動きが注目された。

 全体的には、さしもの1億円セールも、景気後退の影響を免れなかったと言える。総売り上げは51億6580万円(税抜き価格)で、前年を9億円以上下回った。1億円以上の馬も昨年は10頭出現したが、今年は4頭。毎年、活発な動きを見せていた金子真人、近藤利一両オーナーも、今年はそろって1億円馬を購入しなかった。

 そうした中で、ハイライトとなったのは、ロッタレースの2001(父サンデーサイレンス、母の父ヌレイエフ)を巡る外国勢同士の競り合いだった。競り勝ったジョン・ファーガソン・ブラッドストックは、アラブ首長国連邦・ドバイのシェイク・モハメド殿下の代理人で、過去にもこのセールでサンデー産駒を複数、購入している。競り負けたのは、アイルランドで種牡馬事業を広範に展開しているクールモア・グループだった。クールモアは凱旋門賞馬モンジューや、無敗で英愛のダービーを制したガリレオの馬主として知られる。アイルランドは種牡馬事業を国策で保護していることから、他国で活躍した馬の導入にも積極的で、昨年はフサイチペガサスを実に6000万ドルで買い取った。今回のセールでも将来の種牡馬探しに的を絞った動きだった。ロッタレースの母セックスアピールは、トライマイベスト、エルグランセニョールといった種牡馬を出している。クールモアグループがサンデーの血に食指を伸ばしたことは注目に値する。

 一方、ドバイ勢はサンデーの牝馬にも積極的にアプローチし、3頭を購入。このほか、ディクタットの全弟なども手に入れ、計7頭。購入額は5億6400万円で、今回のセールの売上総額の約11%に上った。この大量購入がなければ、低調さがよりクローズアップされたはず。国内景気が落ち込む中で、海外にも売れる馬をつくることは、リスクヘッジの手段として重要性を増している。

 日本勢の買い方は“現実指向”というべきか。2000―5000万円の価格帯の馬を巡って、活発な競り合いも展開された。中央競馬では1000万条件(3歳2勝級)で無事に走れば、馬への投資を相当程度、回収できる。ここまで浮上できる確率が高い馬は、3000万円前後が多いとされ、この辺が買い手のターゲットとなっていた。

 血統面では、今年初産駒が生まれたスペシャルウィーク、エルコンドルパサーの人気が高く、スペシャルウィークの方は最高額が5800万円(母グレースアンドグローリー)、エルコンドルパサーは4700万円(母ヒード)。買い手の現実指向にフィットした結果と言えそうだ。こうした新種牡馬産駒の人気にも支えられて、全体の売却率は66.3%。3分の2弱とまずまずの数字だった。

 こうした全体の傾向は、第1回で取引された当歳馬の競走でのパフォーマンスを反映したものでもある。当時は7頭の1億円馬が誕生したが、重賞を勝ったのはボーンキング(1億4000万円=京成杯)のみ。ダイヤモンドビコー(1億7500万円)が3勝で、今後の活躍に期待がかかるが、残る5頭のうち3頭は1勝止まり。2頭は未勝利で、うち1頭はまだ一度も走っていないのだ。彼らの競走生活はまだまだ続くが、いかに世界一の賞金水準を誇る中央競馬でも、馬に1億円を投じるのはリスキーなことだろう。欧米では、サンデーサイレンスの血はなお希少で、将来の種牡馬に先行投資する考えも成り立つが、日本ではサンデー産駒の種牡馬もすでに30頭近く、種牡馬としての可能性も限定されてきた。

 一方で、1450万円のリキセレナーデが小倉3歳Sを勝ち、2800万円のテンザンデザートが3勝。1050万円のムーンライトタンゴが桜花賞で2着に入るなど、手ごろな価格帯からも活躍馬が出ている。7月1日までに47頭が65勝しているが、価格と勝ち星が直結しているとは言い難い傾向が見え、買い手の心理にも影響している。

 サンデーサイレンスは今年で供用11年目。3月にステイゴールドがドバイ・シーマクラシック(国際G2)を勝ち、トゥザヴィクトリーがドバイワールドカップ(国際G1)で2着。また、ドバイが自家生産した2歳牝馬サイレントオナーがG2を勝つなど、欧州で活躍し始めた。種牡馬としての能力を考えれば、「ようやく」である。初年度産駒はすでに9歳。中には海外で活躍し、世界に血脈を広げ得る馬もいたはずだが、そうした馬は現れなかった。海外向けに高額馬が売れ、遠征馬の不在を補ったことが、このセリの最大の意義かも知れない。

 ただ、競走馬市場の頂点のサンデー産駒で、1億円馬が3頭しか出なかったことは、長期的には市場全体の不透明感を示すものだ。頂点との比較で他の種牡馬の種付け料も規定される。しかも、JRAは賞金削減に動き出した。市場を支えていた柱が折れようとしている。

 サンデーの出現なしに考えられなかったこの市場は、その血脈を世界に広げる役割は果たしつつある。だが、日本の競馬の先行きの不透明さは、活況を誇ったこの市場にも、くっきり影を落としている。



 
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