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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/18)再論―馬主団体のあり方を問う
 今年の中央競馬も折り返しの宝塚記念目前だが、売り上げ不振の傾向は相変わらずである。JRAは今年度予算で売り上げの低下を7%弱と見込み、赤字決算の回避に向けて全般的な経費見直し策を展開している。コスト削減策をめぐり、連日のように会合が開かれているが、そこで最も厳しいやり取りとなるのは、賞金(競走事業費)問題という。今年度の予算が約1560億円に上り、経費削減を図る上では、賞金問題は避けて通れない。

 そんな矢先、JOAの不透明な資金の流れが表面化した。1995年から昨年にかけ、JOAの資金約8億円が、社団法人「臓器移植ネットワーク」(以下ネット)や、その関係者、研究機関などに流れていたのである。ネットの会長は、4月までJOAの会長の座にあった小紫芳夫氏。両団体のトップの立場を利用し、双方の間に資金パイプを形成していたことになる。競馬ファンの側から見逃せないのは、その原資がJRAから10の馬主協会に交付される「馬主協会賞」だったことである。

 もともと、馬主協会賞の性格はわかりにくい。福祉関係に寄付することを前提にしながら、ルール上は「各競走の1―3着馬の馬主が所属する協会に交付する」とされており、賞金のような体裁を取っている。1970年代半ばまで、JRAは馬主団体と取り交わした「売り上げの6%を賞金に充てる」という約束を履行していた。しかし、売り上げが飛躍的に伸びて賞金の枠が肥大化したため、馬主団体を通じた寄付というスタイルが考え出された。JRA本体は法律上、寄付を認められていないことから、各馬主協会がトンネルとなっている。ただ、JRAが国に支払う第一国庫納付金は、4分の三が畜産振興に、残る4分の一が社会福祉に充てるとされている。屋上屋を架すような面があることは否定できない。

 それ以上に問題なのは、資金の流れである。馬主協会賞は各協会に直接交付されるわけではない。各協会が、法人格のないJOAにわざわざ委任状を提出して、カネの受け渡しを一括してJOAにゆだねているのである。賞金とは本来、成功報酬のようなもの。レースの勝ち負けと何のかかわりもない馬主協会に“賞金”が支払われること自体、奇異な話で、税法上の扱いも気になるところ。しかも、カネは実際には、各協会の“上部団体”でありながら法人格のないJOAに集約されている。

 JOAは、小紫会長が就任した93年秋の賞金交渉で、JRAに対し「社会貢献枠」の設置を要求した。それまで、馬主協会賞は中央競馬馬主社会福祉財団を通じ、福祉施設に寄付されていた。だが、同財団には当然、外部監査が入る。何の制約もないJOAに財源を確保しようという意図だったことは想像に難くない。JRAはあっさりと要求を認め、94年には約10億円の社会貢献枠を新設。95年以降は、約15億円で推移しており、新設から昨年までに、ざっと100億円がJRAから支出された。このカネこそ、ネットとその周辺に流れた原資だった。

 JOAから医療関係への助成は、「先端医療助成審議会」で審議されていたが、ここにも実際にはネット側の関係者が加わるなど、公正さを疑わせるような運用がまかり通っていた。だが、“私物化”の批判を恐れる雰囲気はなかったようで、99年に刊行されたJOAの広報誌「駿風」には、ネットがJOAの助成金で導入したテレビ会議システムが写真つきで紹介されていた。しかし、今年4月にJOA会長が小紫氏から谷水雄三氏に交代しすると、ネットへの助成は早々に打ち切られた。小紫会長の時代には大きな声とならなかったが、内部に不透明さを問題にする声がかなりあったということだろう。

 冒頭で触れた通り、JRAは現在、厳しい経費削減に取り組んでいるが、もし、馬主協会賞(約52億円=今年度予算)を全廃すれば、JRA全体の経費の約1%に相当する。もっと有意義な目的のための支出をそっくり温存することが出来る。馬主団体のランニングコストに充てられている競走協力金(16億円=同)にしても、各協会は本来、「馬主相互の親ぼく」を目的としており、そのための経費は馬主が出すべきもの。JRAが支出する必要性は全くない。時には利害が対立することもある。競走協力金の支出は、敵に塩を送るようなものだ。

 今日的な視点で見れば、馬主団体に対するJRAの対応は、甘過ぎるという批判を免れない。馬も馬主も少なかった第二次大戦後の混乱期に、必死で馬を集めようとして採られた馬主優遇策が、時代の変化にもかかわらず見直されなかった。だが、こうした競馬界内部の不透明さが表に出ると、ファン離れに拍車がかかる。来年にはJRAも情報公開の対象となり、事実を隠し通すことはさらに難しくなる。遅きに失した感はあるが、今からでも出血覚悟で膿を出し、苦い事実でも公開していく以外に、ファンの信頼を確保する道はないだろう。



 
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