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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (6/4)“三冠セット論”を卒業しよう
 外国産馬に初めて部分開放され、クロフネ(米国産)とルゼル(英国産)が参戦した今年のダービー。結局、両馬とも不本意な結果に終わったが、外国産馬に門戸を開くことは、ダービーが競馬の根幹の地位を保つ上で、避けて通れない道だった。チャンピオンを決める場は、「来る者は拒まず」のスタンスであることが求められている。来る来ないは別にして、ダービーは外国調教馬にも門を開いておくべきだ。外国産馬だけを別枠で選抜するルールにも疑問があるが、まずは一歩前進だろう。

 ダービーを中心に競馬が回っていることは、欧米の先進国も基本的に同じである。明快なのは米国で、三冠といいながらもケンタッキーダービーの優越的地位は動かず、後に続くプリークネスS、ベルモントSは、ダービーの余力で戦うようなところがある。ダービーに間に合わなかった馬の巻き返しが目立つのも、そのためだ。欧州の場合、英、仏両ダービーの出走馬が、アイルランドダービーにも出走できるスケジュールとなっている。このため、最後の愛ダービーはその時点の3歳の王者決定戦のような色彩を帯びる。ここで3歳限定の戦いは一段落し、強い馬は「キングジョージ」などで古馬の強豪に挑む。3歳馬の負担重量が楽なのも一種の誘導策だ。

 問題としたいのは、日本の「三冠」体系である。もともと、英国に範を取ったはずだった。皐月賞は2000ギニー、菊花賞はセントレジャーを模したのだが、“本家”のレース体系は大きく変わってしまった。欧州では距離3000メートル級の長距離レースのステータスが急速に下がった一方、距離1600メートルの2000ギニーと2400メートルのダービーは異質なレースという見方が定着しつつある。3つをセットで考えることは、今やほとんどないと言って良い。

 だが、日本はたまたま皐月賞が2000メートルであるために、3つをセットとする考えが根強く残る。菊花賞は距離が長いと言っても、スローペースの瞬発力比べが定番で、2400メートルの延長線上で戦える。有望な3歳馬の関係者が、秋のローテーションを組む場合、2000メートルの天皇賞・秋で古馬にぶつけるか、同世代だけで戦う菊花賞を選ぶか、二つのオプションがあるが、天皇賞と菊花賞で、1着本賞金は2000万円の格差しかない。しかも、菊花賞はクラシック扱いで付加賞は通常、1着馬が3500万円前後と非常に高い。そのため、古馬を負かした場合の賞金より、同世代で勝った賞金の方が高いという逆転現象が起こっている。長距離戦のステータス低下の流れを考えると、いつまでも現状を放置していて良いとは思えない。

 JRAは昨年から、菊花賞を従来より2週繰り上げ、ジャパンCとの間隔を広げる改変を行った。「JC至上主義」とも見られるこの措置は、内部からも相当な抵抗を受けたが、国際的な流れを踏まえたものだった。菊花賞の地位低下に直結するような策には、関西の馬主団体やメディアがこぞって猛反発することが予想されるが、条件クラスでも、2000メートルを超えると頭数がそろわなくなるような現状で、長距離戦の格式を保つのは難しい。また、外国産馬の血統的特徴を見ると、いずれは「ダービー→天皇賞・秋」という流れは太くなっていくだろう。クロフネも秋は天皇賞を目指す可能性が高いという。

 三冠セット論を払しょくする必要があるのは、地方も同じだ。各主催者はそれぞれ、“ミニ三冠”のようなレース体系を持ち、ご丁寧に「皐月賞」「菊花賞」といったレース名までつけている例が非常に多い。大井を例に取れば、5年前にようやく3冠は4―6月の集中方式となったが、それまでは中央とほぼ同じ並べ方だった。しかも、三冠目の東京王冠賞は2600メートル。米国のダート路線は、長く2000メートルを競走体系の根幹に据えてきたことを考えると、余りに特殊なやり方であった。菊花賞が3000メートルなのを意識した設定と思われるが、芝とダートの違いを無視したものだった。大井は体系を改めたが、もっと小さな競馬場が、根幹レースに長距離戦を組んでいるのはいただけない。2000メートルまでが限度と言うべきだろう。

 また、一つの競馬場の限られた馬資源だけで、三冠レースを組むのも時代遅れだ。今年、南関東では6戦無敗のトーシンブリザードが、ロジータ以来の三冠を制覇する可能性が高いが、ここも2―3歳馬を北海道・道営などからの移籍馬に頼っていて層は薄い。トーシンブリザードに太刀打ちできる馬は、現状では見当たらない。もう中央や他地区の馬と戦うべき時期だが、賞金面では南関東限定の三冠路線の方が充実しているから、強い馬も地元で戦うことになる。高い賞金を出すのは主催者の自由だが、力関係が余りにはっきりしていれば、馬券の売り上げは期待できず、賞金は重荷になってくるだろう。地元のチャンピオン決定戦は1回やれば十分だ。

 野球でクリーンアップといえば、3番から5番までの打順と思われているが、本当は4番打者だけを指している。同じように、三冠といっても重要なのはダービーである。JRAを見ても、今や皐月賞にさえ、ダービーの最大のトライアルのような趣が漂う。6月に2歳馬がデビューすることを考えても、ダービーこそ、当該世代の王者決定戦であり、“卒業式”でもあるべきなのだ。



 
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