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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/21)農水省とJRAの不可解な関係・口蹄疫問題で表面化、国際化の妨げに
 6月3日に行われる安田記念には、昨年の優勝馬フェアリーキングプローン(香港、イヴァン・アランきゅう舎)が参戦する。同馬は安田記念優勝で、国際舞台への実質的なデビューを果たした後、昨年暮れの香港マイル(G1)で、豪州の女傑サンラインと接戦の末に2着。今年3月のドバイ・デューティーフリーでも、サンライン、ジムアンドトニック(仏)両馬と死闘を演じ2着。今やアジアでも間違いなく五指に入る強豪である。

 参戦が決まるまでは様々な曲折があった。今年、欧州で猛威を振るった口蹄疫(こうていえき)のあおりを受け、一時は参戦が困難となっていたのである。香港側の強い姿勢と、JRAの関係機関への熱心な働きかけで出走の運びとなったが、一つ間違えば、日本の競馬界が世界の物笑いの種になるばかりでなく、国際的地位を大きく低下させかねない状況だった。

 口蹄疫は、牛や羊などの偶蹄目に感染するもので、人や馬がかかることはないが、原因となる細菌のキャリア(運び手)にはなり得る。欧州、特に英国で今年冬から大発生したため、欧州の競馬は甚大な影響を受けた。特に、シーズン佳境にあった障害競走は、ビッグイベントの中止が相次いだ。英国の場合、同じ放牧地で馬と牛や羊が放牧している例も多い。レースのために国境をまたにかけて移動を繰り返す馬が、細菌の運び手になることを恐れて、アイルランドでは6週間にわたり競馬開催を中止。英国との間で馬の移動を禁止する措置もとった。フランスは、汚染地域から10キロ以上離れた競馬場は開催が可能とされたため、英、愛両国と比べ、影響は軽微だった。4月には開催規制自体も解除された。

 日本でも4月の中山グランドジャンプの際、欧州馬の招待が取りやめになった。これ自体はやむを得ない措置だったと言えるが、問題は京王杯SC、安田記念と続くマイル路線で、香港とドバイ(アラブ首長国連邦)所属馬に関し、農水省がJRAに対し、「参加自粛を要請」したのである。両国が口蹄疫の清浄国でないことが理由とされたが、この理屈には余りにも無理があった。

 香港の口蹄疫は豚を対象としたもので、今回の汚染とは直接の関連がなかった。口蹄疫をめぐる状況が同じだったにもかかわらず、今年に限って「欧州で騒ぎになっている」という理由にならない理由で、フェアリーキングプローンの来日は危うくなっていたのである。ドバイに関しては、3月25日のワールドカップ開催で日本馬5頭も参戦したが、滞在中にドバイから約160キロ離れた地域で牛の感染が発覚していた。だが、日本馬は厳重な消毒が施されたとは言え、無事に帰国できたのである。

 このような状況下で、農水省が馬の輸入禁止を行政的な命令として打ち出せば、当然、その根拠の乏しさが問題とされただろう。英連邦傘下にあった香港は、アングロサクソンの法化社会の影響を強く受けている。場合によっては、訴訟に発展した可能性もある。ただ、競走馬の動きはマスコミを通じて広く伝えられる。騒ぎになるのは避けたかった農水省は、JRAへの自粛要請という極めて日本的な手法で遠征を封じようとした。

 だが、日本の競馬の国際化はもはや、不可逆の段階に来ている。“身内”のJRAに、監督官庁の農水省が無理無体な要求を「自粛」というあいまいな形で押しつけるようなマネは、もはや時代が許さなかった。少し考えればわかることだが、「自粛を要請された」という事情を、英語圏の人にどう翻訳し、説明するのだろうか。自粛要請という手法は、行政機関が命令を出すことで生じる責任を回避するため、当事者の自発性を装いながら目的を達しようという実に身勝手なものだ。日本語としても語義矛盾があり、国際的には通用する話ではない。

 実際、アラン調教師は地元マスコミに日本馬が帰国した事実や、5月に英国から日本に競走馬が輸入される予定である事実を上げ、日本側の「ダブル(トリプル?)スタンダード」を強く批判。各国の競馬関係者に、日本で行われる国際競走のボイコットを提唱したのである。同調教師の敏腕ぶりはターフの上だけではなかった。

 JRAも今回は非常に的確な対応を示した。昨秋、香港で伝染性脳炎が1件発覚し、マイルCSやジャパンCに香港馬を招致出来なかったことに関し「尽くすべき手を尽くせなかった」(国際部)という反省もあり、農水省に対し、活発な働きかけを続けた。興行的にも、昨年の優勝馬で、その後さらにビッグネームとなったフェアリーキングプローンの存在は、売り上げ数十億円に相当すると見られ、レースを盛り上げるには欠かせない。結局、欧州でも事態が沈静化に向かっていることもあり、5月9日に「自粛要請」は解除された。

 今回の経緯を見ると、特殊法人=JRAと、監督官庁の農水省との関係が、改めて問題となる。防疫という要請自体を否定する人はいないだろう。ただ、手法に透明性が求められるのは当たり前の話である。身内にしか通じない言葉遣いを振り回し、旧態依然たる行政指導の手法に固執した農水省の感覚には、正直、あきれ果てた。増してや当事者は日本人だけではなかった。もし、「自粛要請」が解除されなければ、農水省ではなく、日本の競馬界の方が「国際感覚ゼロ」と、世界から非難と嘲笑を浴びるはずだった。JRAにとって、たとえ監督官庁の要請であろうと、「ダメなものはダメ」とき然とした態度を取ることが、ファンの期待にこたえる道である。



 
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