NIKKEIデイリースポーツ サラブnet HorseRacing Info サラブnet
ホーム 重賞レース情報 重賞レース結果 最新競馬ニュース 競馬読み物 予想大会
■ 競馬読み物
  ■専門記者の競馬コラム
  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (5/9)きゅう舎制度改革の行方
 前回の当コラムでは、東西格差の現状に絡めてきゅう舎制度改革の動きに触れたが、連休明けにJRAと日本調教師会は、メリット制の導入をめぐって初交渉を行うことになった。ただ、JRAは1996年にも同制度の導入を目指したが挫折しており、なお曲折が予想される。

 メリット制は、成績不振のきゅう舎の貸付馬房数を削減し、成績優秀なきゅう舎に移転するものだ。JRAは自ら運営する施設に一定期間、入きゅうした馬にのみ、出走資格を与え、施設の貸付はごくわずかな例外を除いて、免許を発給した調教師に限定している。こうしたシステムの下で、きゅう舎間の競争性を確保するには、免許の発給数を大幅に増やし、不成績の調教師を退出させてしまう方法もあるが、メリット制はそこまで強烈なものではない。前回の導入交渉でも、JRA側は不成績のきゅう舎から2馬房を削減する方針を示していた。

 きゅう舎の成績評価の基準は、現在JRAが行っているきゅう舎関係者表彰と同じく、勝利数、勝率、獲得賞金、出走回数といった指標を組み合わせ、貸付馬房数に応じてポイントを算出する。また、馬の入れ替えを活発に行い、多くの馬を出走させた場合も加点材料とする。96年にJRAは、こうした指標を3年分積み重ねてランキングを決定する方式を提示していた。ただ、評価対象期間については、今回はなお流動的であるという。

 問題は、2馬房ずつの削減がどこまで有効かである。通常、JRAから免許を受けた調教師は、10馬房でスタートし、5年で20馬房に増える。この20馬房を使って、故障した馬や疲労のたまった馬と、フレッシュな馬を適時適切に入れ替えて行く。そのために、馬房数を上回る管理馬を抱え、美浦、栗東両トレセンの外部の牧場と連携することが必要となる。JRAは今年から、1きゅう舎当たりの管理可能頭数を、貸付馬房数の3倍まで増やす規制緩和を行った。20馬房のきゅう舎なら、60頭まで管理できる。ところが、4月1日現在、美浦の上位きゅう舎には、50頭以上を抱えるきゅう舎が複数ある半面、管理頭数が25頭以下というきゅう舎も少なくない。

 馬という生き物は、人間の思惑通りに行かないのが常で、20頭の馬がすべて健康で臨戦態勢にあることなど奇跡に近い。20馬房ありながら、管理頭数が25頭以下というきゅう舎には、レースに使えないような状態の馬が入っている疑いが極めて濃い。こうしたきゅう舎は、当然ながら出走頭数も獲得賞金も少ない。メリット制導入以前に、事実上、淘汰(とうた)されていると言える。

 美浦の場合は特に、不成績のきゅう舎が固定化しており、管理馬が少ないのもこうしたきゅう舎である。ひところと比べて、馬主の姿勢はシビアになり、きゅう舎を選別している。管理馬の少なさは不成績の裏返しだ。

 メリット制が実施に移されれば、このようなきゅう舎の実態が表面に出るという効果がある。わずか2馬房とは言え、削減されれば“ダメきゅう舎”のレッテルを張られたも同然。馬主はさらに逃げていくだろう。当該きゅう舎の従業員の人事異動を伴うが、取りあえず雇用は保証されるし、進上金(賞金などの5%)を稼ぐチャンスが広がるのだから、建前上は反対する理由はない。

 ただ、そうした半ば戦意喪失したようなきゅう舎の従業員は、甘い水に慣れきってしまった面もある。関係者によると「定年退職者の補充などで、若くて意欲のある人材が入ってくるのを嫌う雰囲気さえある」という。

 いずれにせよ、こうしたきゅう舎の馬房削減はそれなりのインパクトを持つはずだが、逆に「削減されるのはかなりの不成績なところ。2馬房を削られても生き残るのはどうか」と、違和感を表明する声さえある。他の競技に目を移せば、例えばサッカーでは、どんな伝統あるクラブでも、一シーズンだけの不振でトップリーグを去る危険に常にさらされている。無論、降格してもクラブは存続するが、財政基盤は一気に弱体化する。JRAのきゅう舎の場合、最低でも10馬房というデッドラインがあり、まる6年連続で馬房削減の対象になると、きゅう舎は崩壊となる。いささか時間がかかりすぎるし、削られた馬房は既存の有力きゅう舎に回るから、直接、新陳代謝につながるわけではない。その意味では、他の方法との組み合わせが、競争性確保には必要だろう。

 きゅう舎のあり方は、競馬界の内輪の問題と見られがちだが、ファンにとっても決して無縁ではない。馬券を買おうとした馬の所属きゅう舎の勝利数や連対数が非常に少ない場合、確率論としては買いにくいだろう。迷った時、技量の高い騎手を買うのと同じで、管理能力の高いきゅう舎を選ぶのは当然だ。近年は市場取引馬も増えており、馬の価格と成績を突き合わせると、きゅう舎の管理能力を相当に高い精度で見極めることも出来る。

 96年の交渉では、土壇場で「高額馬しか入きゅう出来なくなる」と馬主団体が反発して導入が流れたが、今回は馬主側も導入の方針を了承している。日本調教師会側の対応が今後は焦点となる。JRAには、きゅう舎の成績についての多面的なデータを、今後は積極的にファンに提示することを望みたい。遠回りなようだが、そのことで制度改革へのファンの理解も深まるであろう。



 
■コラム一覧
■北海道牧場紀行
■初心者入門

  ■コラム一覧
   (3/3)安藤勝騎手、中央へ――統制経済は維持された
(2/10)摩訶(まか)不思議な免許取り消し劇
(1/27)固定化した東西格差――不良資産と化した"美浦"
(1/14)年度代表馬決まる――壁を超えることへの評価
<2002年>

(12/24)2002年の終わりに―「会議は踊り、危機は深まる?」
(12/9)早田牧場の破たん――生産界の危うさを露呈
(11/25)官と民のはざまで――問われるJRAの自浄能力
(11/11)祝祭から遠く離れて――日常に埋没するニッポン競馬
(10/28)ポスト三大種牡馬の模索
(10/15)ダブル免許問題とJRA
(9/30)第二期高橋理事長体制の課題
(9/9)有馬記念日程問題が決着――JBCの行方は不透明
(8/26)ポストサンデーの日本競馬――名種牡馬の死は何をもたらすのか?
(8/19)失われた?競馬の発信力――市場の開放性高め、スターを生む環境を
(8/5)騎手、ダブルライセンスの行方――公正な競争の実現を
(7/22)活況の背後に迫る危機?――セレクトセールから
(7/8)高齢化するオープン馬――進まぬ世代交代
(6/24)供給過剰とダウンサイジング・「冬の時代」の公営競技のあり方
(6/11)番組の再検討――宝塚記念をどうするか?
(5/27)新種馬券導入とファンの変容・浸透するか馬単と3連複
(5/13)2002年ダービープレヴュー・90年代の変容を映す
(4/29)JBC発売問題――中央・地方協調時代に幕?
(4/15)馬主登録という迷宮・調教師の馬所有の是非
(4/1)内国産種牡馬の新たな波・活力見せる在来血統
(3/18)“低資質馬整理”ルールと除外問題の行方
(2/25)ダート競馬の成長・変容するニッポン競馬
(2/12)総務省勧告とウインズの行方
(1/28)高まるきゅう舎制度への風圧――預託料自由化の波紋
(1/17)伸び悩む若手騎手――背後に競馬界の構造変化
<2001年>

(12/31)競馬この1年(下)あえぐ地方競馬――経費削減いばらの道
(12/30)競馬この1年(中)若手伸び悩み――「結果第一」かからぬ声
(12/29)競馬この1年(上)海外躍進の陰で――カネかけぬ育成法探る
(12/28)地方競馬は生き残れるか?――模索すべき中央と地方の新たな関係
(12/17)“居場所”がない競馬・見送られた独立行政法人化
(12/3)世界の技量に最強馬が沈黙――固定的な騎手選びに一石
(11/19)芝・ダートの“クロスオーバー”進む
(11/5)“凡戦”菊花賞と長距離戦の行方
(10/22)田原調教師逮捕――管理競馬の限界が見えた
(10/9)待ったなしの賞金削減・主催者の裁量権行使で改革実現へ
(9/25)競走馬の耳に発信機、田原調教師の処分・管理競馬のゆがみ映す
(9/10)JRAのリストラと生産界・自立の道は遠く
(8/27)危機深まる地方競馬・自治体の責任を問う
(8/13)“ミスター競馬”の遺したもの
(7/29)横浜新税、国地方係争処理委員会の責任回避
(7/16)セレクトセールの3年・影落とす日本競馬の先行き
(7/2)宝塚記念などが国際格付けへ
(6/18)再論―馬主団体のあり方を問う
(6/4)“三冠セット論”を卒業しよう
(5/21)農水省とJRAの不可解な関係・口蹄疫問題で表面化、国際化の妨げに
(5/9)きゅう舎制度改革の行方
(4/19)東西格差ときゅう舎制度改革
(4/2)横浜新税問題、第2ラウンドへ
(3/19)サッカーくじ発売と日本のギャンブル
(3/13)危険な“血の飽和”・サンデー産駒増殖で深刻な活力低下の恐れ
(3/7)馬券と税・英は控除金廃止へ、日本では引き上げの懸念も
(3/7)際立つ欧州騎手の活躍・短期免許で日本競馬が“草刈り場”に
(2/26)「組合馬主制度」は機能するか?
(2/19)「狭き門」調教師試験・進まぬ新陳代謝、求められる“荒療治”
(2/12)芝から砂へ―日本のダート競馬の可能性
(2/8)ダート戦、マイナー扱いは時代遅れ
(2/8)日本で少ない競走馬のトレード・調教師確保がハードル
(1/31)新種馬券をめぐって―“制限”の根拠を問う
(1/22)「1歳の差」――タイムリーな満年齢表記
(1/16)問われる馬主団体のあり方・運営ゆがめるJRAの“過剰サービス”
(1/16)競馬界の「西高東低」――従業員の仕事に質の差?
(1/1)ファン不在、財政のための競馬――問題はギャンブルをめぐる不条理
<2000年>

(12/18)課税の根拠は矛盾だらけ――JRA“狙い撃ち”の「横浜新税」
(12/4)最強馬の2001年は? テイエムオペラオーの今後
(11/20)JRA“総見直し”の限界
(10/30)オペラオーと和田騎手、難コースを強気の攻略・1番人気連敗「12」で止める
(10/23)クローン名馬は夢のまた夢
<参考>国際ルール「自然交配だけ」・希少だから高額取引される種牡馬
(10/10)横浜市長の“ローブロー”・横浜場外の課税問題
(9/25)「予備登録枠」拡大は、きゅう舎間競争の促進につながるか
(9/10)名伯楽逝く・地方から中央に挑戦
(9/4)大量種付け時代の到来、人気種牡馬の経済的価値急騰・強い馬の引退などの弊害も
(5/15)世紀末に神様が与えてくれた2頭の傑物
(8/21)関東のメーン開催、低調な夏・各競馬場で高額条件馬の綱引き、北海道に資源の集約を
(8/10)女性騎手、懸命の手綱・中央競馬にわずか5人
<参考>女性騎手、偏見との戦い・「地方」では延べ43人
(8/7)出走馬選定ルールが一部変更・日常的な「除外」、「機会均等」ルールの見直しを
(7/24)実感される層の薄さ・見直すべき騎手育成のあり方
(7/11)4月誕生の馬に3億2000万・北海道の競走馬せり市
(7/10)ジョセフ・リーさん・ドバイの名馬を手がけた調教手腕を「育成牧場」で
(6/26)故障に泣いた「未完の大器」グラスワンダー
(6/12)香港発の黒船・安田記念から
(5/29)最強の騎手と調教師が連携・世界を見据える藤沢=武豊タッグ
   


著作権は日本経済新聞社またはその情報提供者、およびデイリースポーツ社に帰属します。
Copyright 2003 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.
Copyright 2003 Daily Sports, Inc., all rights reserved.