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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (4/19)東西格差ときゅう舎制度改革
 春のG1シーズンがいよいよ佳境に入ってきたが、相変わらず関西馬の優勢が続いている。8日の桜花賞はテイエムオーシャンが圧勝し、関西勢が15連勝を記録。15日の皐月賞も関西馬が3着までを独占。美浦の最先着はシンコウカリドの4着だった。昨年行われた21の平地G1競走のうち、関東馬はNHKマイルC(イーグルカフェ)の1勝だけ。今年は高松宮記念でトロットスター―ブラックホークと関東馬が1、2着を占め、取りあえず面目を施した。ただ、注目度の高い3歳路線での劣勢はファンの印象も悪くしている。これほど格差がつくと、東西のきゅう舎のあり方に厳しい視線が注がれるのも自然の流れ。従来、きゅう舎制度の改革に及び腰だったJRAも、力を入れざるを得ない状況になってきた。

 関東馬の劣勢については、今さら多言を要しないが、シンプルに数字だけを挙げておくと、昨年の勝利数は西が316勝のリード。それ以上に大きいのが獲得賞金で、昨年は東が279億円、西が387億円で、107億円以上の格差がある。日本調教師会会長でもある鈴木康弘調教師(美浦)は、1月にサンケイスポーツ紙の取材に対し、「いい馬が栗東に入っている」と格差の原因を説明したことがある。だが、これは原因ではなく結果であろう。賞金格差は、馬に再投資される額の差に直結する。東西双方に人脈をもつ馬主がこの数字を見せられれば、高資質馬を栗東に預託しようとするのは当然のことだ。

 東西格差がクローズアップされたのは、G1で極端な差がついたためだが、背景には外国産馬の不振がある。90年代末、G1勝ち星に限って関東馬が優勢ないし互角だった時期があるが、当時はタイキシャトル、グラスワンダー、エルコンドルパサーといったスターが続々と出現した時期。だが、彼らが引退し、外国産馬が全般に勢いを失うと、その影響は美浦により顕著に現れた。

 もともと、馬集めは調教師の最も重要な仕事である。血統の良い馬、血筋は目立たなくても運動能力の高い馬をきゅう舎にラインナップすれば、従業員の士気も高まる。ところが、中央競馬で活躍がほとんど約束されていると言ってよいサンデーサイレンスの産駒は、多くが栗東に入るのだ。理由は様々だが、大別して調教師のフットワークの違いと、従業員への信頼感の差であろう。とにかく、サンデー産駒の獲得合戦で出遅れた美浦勢は、外国産馬に頼っていた。だが、近年の国内の不況と円高で馬主の購買力が落ち、昨年までバブル状態が続いていた米国の競走馬市場では太刀打ちできなくなった。90年代末の活躍馬には、タイキシャトルやエルコンドルパサーのような自家生産馬も多いが、市場のバブル化による種付け料などの高騰の影響を受けるのは同じことだ。

 もう一つの問題、つまり従業員への信頼度にも触れざるを得ない。詰まるところ、格差の背後には、1頭1頭の馬の運動量の差がある。馬がスポーツ選手であることは、ファンには簡単に理解できるが、人間と違うのは、馬は自分だけでトレーニングをしてくれないことだ。運動量を増やすとは、担当者が長時間労働をすることだ。栗東の上位きゅう舎には、競馬開催当日でも、レースに出ない馬の運動時間を確保するために、夜中の1時ごろから作業を始めているところもある。東西から馬が集まる札幌や函館でも、馬の運動時間が長いのはやはり栗東の馬だという。長時間労働できゅう舎従業員が健康を損ねるのは問題であろう。ただ、勝負の世界で、馬に少しでも手を掛けるのが、勝つための定石であれば、勝ちたい者が無理をいとわないのは理解できる。しかも、勝てば単なる自己満足には終わらず、カネもついてくる。

 ただ、中央競馬の場合、負けてばかりのきゅう舎でも生活に窮することはない。世界で最も難しい試験のおかげで、調教師の数は事実上制限され、常に入きゅう待ちの馬があふれている現状では、管理馬が絶えることはない。従業員の方も、サラリーには一定の保証がある。負け続けている側が、いつまでも危機感を感じないままでは、意欲の高いきゅう舎との格差は広がる一方だ。

 JRAもここに来て、ようやく制度改革に本腰を入れ始めた。手法は96年に一度とん挫したメリット制度である。成績不振のきゅう舎の貸与馬房を削減し、好成績のきゅう舎に移転するものである。とん挫した理由は、JRAが日本調教師会と結んだ協定書で、調教師の70歳定年制を完全実施するまでは、一きゅう舎の貸与馬房の定数を動かさないとしたためだった。定年制は昨年から完全実施されており、仕切り直しの上で、関係者との間で導入に向けた交渉が始まることになる見通しだ。

 ただ、この制度の弱点は、美浦と栗東という枠内でしか馬房を移転できないことだ。同じ中位きゅう舎でも、美浦と栗東の勝ち数は大きく異なる。この制度は厳しい競争にさらされている栗東の中、下位きゅう舎に不利なやり方である。また、現時点でJRAの免許を持つ人だけでなく、地方の調教師や、外部の育成牧場の経営者をも巻き込んだ大競争と比べるとスケールは小さい。

 JRAの高橋政行理事長は、「まずは物事を動かすのが大事。最初から完ぺきなやり方を目指しては、何も変えられない」と話す。それにしても、関係者の利害が錯綜し、改革も困難なのに、JRAが踏み込まざるを得なくなったのは、東西の格差がもはや看過できないレベルまで達したということだ。日本の競馬は中央、地方を問わず、箱庭のような競馬で、きゅう舎(馬房)も数の限られた資源である。例えば今、きゅう舎を営業している人は、日本のどこかにいるかも知れない、他の有資格者を押しのけていることになる。意欲のない人が意欲のある人を長く排除し、あぐらをかいていられる姿は、決して健全ではない。少々の馬房削減などでは手ぬるい。やる気のない者をいかに市場から退出させるか。本気で考えるべき時に来ているのではないだろうか。



 
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