(2/26)「組合馬主制度」は機能するか?
日本中央競馬会(JRA)の運営審議会は21日、競走馬の新たな所有形態として「組合馬主」(仮称)を導入するための競馬施行規程改正案を承認した。新制度は今秋にも導入の予定だが、課題は極めて多いと言える。
新たな馬主形態の導入の背景には、バブル経済崩壊後の馬主の激減という事情がある。1990―93年にかけて、個人、法人を合わせて3000件を超えていた馬主登録が、今年当初の段階では2551件(法人350)。ピーク時の91年(3138件、うち法人392)より19%減ったわけだ。
もともと、JRAで馬主登録をするには、世界でも例を見ない高いハードルを超える必要がある。3年連続で年収2000万円を超えていることに加え、居住用を除く資産を1億4000万円以上保持していることが条件となる。これでは、優良企業の役員でさえ仲間入りは難しいが、半面、中小企業のオーナー経営者やひところのバブル紳士、近年ではIT関連の起業家などは、比較的容易に免許を得られる。もう一つ、重要な点は、共有(1頭につき最大10人まで可能)を含めて、1年以上馬を所有していないと自動的に登録抹消となることだ。
近年の登録数減少の原因は、不況で免許を手放す人が増え、新規参入も減っていることに尽きる。この状況が続けば、競走馬の需要も低下し、生産基盤が縮小。馬の資質低下にもつながることが懸念されている。現在の厳しい資産要件は、安定的に馬を所有出来る人を選別するのが本来の目的だが、景気変動に弱いのが欠点である。億単位の資産と言えば不動産か株だが、ここ10年の資産デフレで、値崩れは目を覆うばかり。今や、普通のサラリーマンよりバランスシートの悪化した馬主も多い。長期不況は、現在の制度の問題点が浮かび上がらせた。
ならば、大衆参加で下支えを、というのが新制度の狙いである。大衆参加と言えば、現在の受け皿はクラブ法人である。ただ、馬の募集代金には、クラブ側の利益が乗っている。毎月の維持会費はきゅう舎への預託料に充当されるが、ここにもクラブ自体のランニングコストが含まれ、割高さは否めない。また、馬の品ぞろえ、預託きゅう舎の選択、さらには出走レースの決定などは、クラブ側にほぼ全権委任だ。組合馬主の場合、馬の購入、きゅう舎選定を自分でできることが利点となろう。
と、ここまで書いてきたが、実は細部は何一つ決まっていない。1番問題となるのは収入、資産面のハードルで、例えば年収800万円にするか1000万円にするかで大違いだ。組合員数にしても、余りに少ないと、離脱者が出た場合、他の構成員のリスク負担が大きくなるし、多すぎれば意思決定が難しくなる。大胆に推測すれば、年収は下限1000万円。10人で1頭の共有が認められていることを考えると、組合員数は10―20人の線だろう。
それにしても、日本で馬を持つことには困難が多い。「値段があってないようなもの」と言われるのが競走馬だが、JRAなら1000万円は安い方だ。1歳のセリで購入し、育成牧場に1年間預託(料金は月額30―35万円)し、2歳の夏か秋にデビュー出来れば、奇跡的と言って良いほど順調なプロセスだが、デビューから1年(預託料は750万円)走れば、馬代金(1000万)+預託料(約1100万円)で計2100万円。10人の組合なら、1人当たりの負担は年間100万円を超える。もちろん、馬が走れば負担は軽減。まれに利益が出る場合もあるが……。
こうした金銭的な問題に加え、日本の競馬界の閉鎖性もある。馬を買うにも、多くの牧場は一握りの決まった顧客だけを相手にしている。全くのアウトサイダーが信頼して依頼できるような仲介業者も皆無に等しい。さらに、預託先の調教師を確保するのが難関だ。馬房には限りがある。225人の調教師といかにつながりを持つか。首尾よく入きゅうさせても、調教師が資本力の乏しい組合馬主をどう扱うか。調教師との関係に不満を抱く個人馬主は多いが、組合も同じことになる可能性は大だ。
ほかならぬ既存馬主とも、トラブルの種がある。馬主席の配分は各競馬場の馬主協会(単協)にゆだねられている。単協は組合馬主にきちんと席を割り当てるのか。人数が多くなるだけに、一定の制限は必要だが、それ以上に重要なのは透明性で、現状のような配分方法では、新規参入者を失望させることになりかねない。JRAは主体性を持って、組合馬主に公正な処遇をすべきだ。
実は、新たな馬主形態の導入を主張していたのは、馬主団体の一部有力幹部だった。90年代後半から「Bライセンス」馬主新設論が聞かれていた。クラブ法人馬主の台頭にいら立っていた既存馬主が、会員の切り崩しでクラブの基盤弱体化を狙ったのでは、との憶測は捨てきれない。馬主団体はこれまでも、クラブ法人出資者の口取り(表彰式)参加を止めようと、JRAに陰に陽に圧力をかけてきた。クラブ法人は多くの会員を組織化することで、資本力を強化し、高資質馬の導入を進めてきた。クラブ法人が弱体化し、小規模な組合が次々に生まれる方が、個人馬主にとって好ましいのは間違いない。
問題点ばかり書き連ねてきたが、大衆に支えられてきた日本の競馬の実情を見ると、馬主のハードルを低くすること自体は正しい方向である。要は、新しい人を迎えるためには、競馬界全体の風通しを良くし、透明性を高めることが欠かせない。新制度を十分、機能させるためにも、JRAの果たすべき役割は非常に重いのである。
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