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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (1/1)ファン不在、財政のための競馬――問題はギャンブルをめぐる不条理
 新世紀の幕開けに当たって、基本的な質問を一つ。

 「競馬は何のためにあると思いますか?」

 競馬に対してどんな立場に立つかで、回答は様々だろう。ただ、日本の政治や行政の出す回答ははっきりしていた。「国や自治体に金を運んでくれば良い」――。競馬に限った話ではない。競輪や競艇、オートなど他種公営競技も同じだ。だが、もしその前提が崩れたら…。

 地方競馬の現状は、その実験場である。すでに北海道や新潟、高知で廃止を視野に入れた議論が始まった。北関東の3カ所から、年内にも最終決断を下す競馬場が出る可能性は十分ある。地方競馬で単年度黒字の主催者は現在、大井と船橋の2カ所だけ。「金を運んで来ない競馬」など、自治体にとってはお荷物でしかない。

 だが、ファンサイドからすれば見方は違うだろう。民間のレジャー産業が払うのは租税である。利益が出なければ税負担もない。ギャンブル産業だけが、経営状態を問わず、国や自治体に金を運び続ける義務を負わされているのは、まだ社会的に日陰の存在であることの裏返しと言える。一競馬ファンの立場に立って言えば、こんな状態は20世紀中に終わって欲しかったのだが。

 「国や自治体の財政のために競馬」という設定の問題は、とにかくファン不在ということにある。ファンというのは金をむしり取る対象でしかないのか。もちろん、主催者がそんな雰囲気をちらつかせでもすれば、ファンはたちどころに離れていく。馬券を売る側は、ポーズだけでも「少しでもファンに還元する」という姿勢を示さなければ、多様化した他のレジャーとの競争に勝つことは不可能だろう。ただ、いかにサービスを向上したくても、公営競技には法の縛りがある。馬券の控除率は一律25%。控除率を下げたことで、実入りが減るとなれば、監督官庁や自治体が黙っていない。結局、公営競技という枠組みにあっては、ファンと主催者が「共存共栄」することはひどく難しい。むしろ、国や自治体とファンの間のゼロサムゲームという色彩が強いのである。

 それでもJRAの場合、97年まで売り上げが順調に伸びた。JRAは利益(剰余金)が出れば、半額を第2国庫納付金として国に納めるルールがある。必死に経費を切りつめて利益を増やしても、国に吸い上げられるのなら、何かに使ってしまおう――。JRAを支配していたであろうそんな意識は、高コスト体質に帰結し、業績不振の現在でも、リストラの阻害要因となっている。

 JRAにしても地方競馬にしても、税金に支えられて存立するなど論外だ。競馬は本来、やりたい人が自分のリスクにおいて参加するものだからだ。だれが主催するのであれ、自立出来ることが存在の前提なのは言うまでもない。ただ、ギャンブル産業だけが、他のレジャーより厳しい存立の条件を課されることは、もはや時代に合わないのではないか? 強いて根拠を挙げれば、刑法の賭博罪ということになるが、本当に犯罪に値するなら、自治体が主催したり、国が売り上げの一部を吸い上げるべきではない。99年の公営競技の総売り上げは、約7兆3000億円だったが、これだけ売れたことで日本の社会が深刻な問題を抱え込んだ形跡はない。やはり「ギャンブルは犯罪」という枠組みがおかしいと見るべきだ。

 ギャンブルを非犯罪化し、ごく普通の遊びとして再定義すれば、ファンサービスをめぐって競争も起こるだろうし、廃止寸前の競馬場を民間資本が買収して立て直すことだってあるかも知れない。民間の参入が可能になれば、中央競馬と地方競馬という2本立ての構造にも、変化の余地が出てくる。というより、「官」が持つ非効率さを払拭しない限り、競馬の生き残りは難しい。競輪や競艇と比べても、本質的に高コストな競馬においては、効率的な運営を他の競技以上に強く求められている。

 学生の馬券購入禁止(競馬法)や、サッカーくじ購入者の年齢制限など、ギャンブルをめぐる不条理な話は枚挙にいとまがない。こうした不条理が、21世紀の終わりには「大昔の笑い話」になることを切に望みたい。



 
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