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  [日経新聞運動部記者 野元賢一]

  (12/18)課税の根拠は矛盾だらけ――JRA“狙い撃ち”の「横浜新税」
 横浜市議会は14日、市内に2カ所ある日本中央競馬会(JRA)の場外馬券売り場の売り上げに課税する「勝馬投票券発売税」設置条例を、自民、民主、公明、共産各党などの賛成多数で可決した。高秀秀信市長が5月22日に突如、売り場への課税を表明してから半年余りで、事態は新たな局面を迎えた。課税実施には、自治大臣の同意が必要で、今後は自治省の判断に焦点は移る。態度表明は条例成立から3カ月以内とされているが、この機会に改めて、条例案の問題点を整理してみたい。

 この「横浜新税」に関しては、10月10日付の当コラムでも触れたが、当時、横浜市側は条例案の骨子すら示していなかった。正式にJRAに案が提示されたのが11月22日。この間のJRAと横浜市財政局とのやり取りの経緯はなかなか興味深い。端的に言えば、横浜市側はJRAのマネーフローを全くと言って良いほど理解していなかったのだ。このため、10月24日に提示した「素案」では、7億円となっていた税額が、11月22日に示した条例案では10億円に増えた。結局、この案が議会で可決されたわけだが、たった1カ月で税額が大きく変わること自体、課税の根拠がいかに薄弱かを物語っている。

 「10億円」とした根拠は、昨年のウインズ横浜の売り上げ(1363億円)から、払い戻しと第一国庫納付金、単複の上乗せ分(給付金)を除いた約15%(204億円)をベースに、税率を5%とした。税制の専門家によると、こうしたスタイルの課税は一種の外形標準に該当するという。確かに、JRAの売り上げの85%は、国や馬券の的中者に即座に支払われる預かり金に過ぎない。実質的には売り上げの15%、つまり今回の課税ベースが、企業でいう「年商」に当たるからだ。通常は年商から経費を差し引いた「収益」に課税するが、実際には赤字法人が多いため、近年は外形標準導入論が高まっている。しかし、外形標準課税を実施するにしても、5%では常識的な税率の10倍以上となり、高すぎるとされている。

 JRA側は課税に強く反発しており、理由として(1)JRAだけを対象とする狙い撃ち課税で、法の下の平等に反する(2)売り上げ金の使途は法律で細かく規定されており、自治体が条例により単独で課税することは、結果的に法律に反する(3)ファンサービスや競走馬生産、地方競馬への支援への影響が不可避――などの諸点を上げている。これらの論点の中でも、政治、行政のあり方として看過できないのは「狙い撃ち」という点であろう。

 市側は当初、JRAを対象とした根拠として「多額の収益を上げている公共法人」であることを挙げた。ところが、12月に開会した定例市議会では、突如、「直接、地域住民の生活の向上を図るものでない」という理屈を持ち出してきた。この見解は、高秀市長が12月の市議会本会議で初めて公式に表明した。JRAは11月中、2度に渡って市側に質問状を送付。課税の根拠をただしていたが、回答書が届いたのは議会での市長発言の後の12月7日。仮にある地域の住民のうち、たった1人に対して自治体が課税を打ち出せば、大騒ぎになるに決まっている。課税される側は当然、「なぜ自分だけに?」と、根拠を示すよう要求するだろう。だが、横浜市は納税義務者より先に、議会に課税の根拠を示したのである。

 しかも、その根拠たるや矛盾だらけである。市側は、「ギャンブルなんて、ロクなものでない」と暗に言っている。この理屈は、筋が通るかどうかと別に、ギャンブルへの偏見を持つ人々には通りがよい。だが、それならサッカーくじも課税対象となろう。ところが、市は横浜国際総合競技場という「金食い虫」を抱え、くじの収益金がノドから手が出るほど欲しい。課税など口が裂けても言えない立場にある。もう一つ、市側の見解の決定的な矛盾は、自らが神奈川県、横須賀市とともに主催する花月園競輪の赤字の問題である。JRAは、万一、赤字決算となっても、売り上げの10%は国庫に支払われ、一応は財政に貢献する。だが、競輪の場合は黒字が出なければ自治体財政への繰り入れもない。赤字となれば、地域住民の生活向上どころか、単なるお荷物だ。JRAは市側への質問書で、花月園の経営の実情をただしたが、市側は「把握していない」と回答した。黙るのは当然。自ら主催するギャンブルの赤字を、JRAへの課税で補てんするのでは、世論の支持を得られるはずがない。

 これほどの矛盾を抱えた条例を、市議会与党だけでなく、共産党までが支持したことは、地方議会の首長に対するチェック機能の低下を物語る。今回の課税の根拠となった地方税法改正は、地方分権一括法の目玉の一つだった。自治大臣の同意の要件は「国の経済政策と矛盾しない」など3つがある。「税本来のあるべき姿と矛盾しない」という要件がないのは、「その程度は自分で判断して下さい」という意味だったはず。だが、市当局も議会各会派も、問題点を詰めて議論しなかった。

 自治省は条例成立後も、「課税は困難」との見解を示している。不同意の場合、市側は「国地方係争処理委員会」に問題を持ち込む構えだが、不同意となれば、市長や賛成した議会各会派の政治責任が浮上するだろう。

 横浜市の起債残高は2兆円を超えた。JRAから当て込む税額の2000倍。ため息が出るような数字である。とにかく、この問題の本質は、JRAのホームページに1人のファンが投稿したメールで言い尽くされている。

 「競走馬たちは、横浜市の作った借金のために走っているのではない」――。



 
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